理系の経済学(14)パレート分布の経済学

(パレート分布の使い方を説明します)

 

1)春闘

 

春闘の結果が出ました。

 

日銀は、金融緩和の変更を検討しています。

 

春闘が経済の指標になる条件は、正規分布近似が性質して、平均値に統計的な代表値としての意味がある場合です。

 

しかし、情報化した経済では、平均値は代表値になりません。

 

金融政策には、生産性をあげて、付加価値を増加させる効果はありません。

 

金融政策に意味がある場合は、生産のネックが、資金不足にある場合だけです。

 

生産のネックが資金不足にない場合に、金融緩和を進めれば、ゾンビ企業が増えて、生産性が上昇せずに、給与はあがりません。

 

もちろん、生産技術を検討の対象外としている現在の経済学の教科書には、技術開発による生産性向上については、記載されていません。

 

日銀の専門家は、経済学の教科書には精通していますが、微分方程式の数値解が求められる人、技術開発に必要な条件に精通している人はいません。

大学を出た権威のある専門家の判断が正しければ、過去に、バブルや大恐慌が起こっていないはずです。

 

これは、専門家は科学的な推論ができないことを意味します。

 

バブルや大恐慌の再発を防ぐ経済AIアドバイスシステムを作ることは可能です。

 

こうした権威に対抗する数学的な方法は、反例をあげることです。

 

例を考えます。

 

デジタルカメラの性能は、画像センサー、画像処理IC、画僧処理アルゴリズム、レンズの性能で決まります。

 

画像センサーは、2024年時点では、ソニーが優勢です。

 

画僧処理ICは、デジタルカメラスマホでは、異なったICを使っています。

 

フィルム時代には、レンズの性能は、日本のカメラメーカーが優勢でした。

 

特殊レンズの価格低下、デジタル補正、レンズ設計ソフトウェアの進歩によって、日本のカメラメーカーの優位は失われました。韓国のメーカーは、日本メーカーに追いついています。中国のメーカーが追いつくのも時間の問題です。

 

スマホにはカメラがついています。

 

デジタルカメラを作る技術は、スマホをつくる技術の一部にすぎません。

 

スマホの世界市場は、アメリカ、中国、韓国のメーカーが寡占しています。

 

日本の家電メーカーのつくるスマホには、国際競争力がありません。

 

今のところ、スマホメーカーは、カメラ市場には参入してきていません。

 

スマホメーカーが、カメラ市場に参入してくれば、日本のカメラメーカーはひとたまりもありません。

 

過去には、日本のカメラは、高品質でした。

 

現在の日本のカメラの多くは、中国やベトナムで製造されています。

 

中国やベトナムで製造されたカメラの品質が悪い訳ではありませんが、過去の日本製のような高品質ではありません。

 

日本カメラのレンズを中国で製造していれば、品質は中国製のカメラのレンズと大差はありません。

 

そうなると、中国製のカメラのレンズと同じ価格でなければ売れません。

 

日本の家電製品は、工場を海外に移転して、製造コストを下げましたが、販売価格を下げなかったため、価格競争に負けました。

 

日本メーカーと海外メーカーの技術力の差は縮まっています。

 

白物家電では、技術力の差は縮まり、日本製は価格が高いだけで、性能が変わらない状態になって、全滅してしまいました。

 

イノベーションの出来る人材がいて、活躍出来なければ、輸出競争力のある企業にはなりません。

 

公共経済学は、政府の市場への介入は経済を破壊すると主張します。

 

一方では、市場ができにくい公共財については、政府の介入が必要であるとかんがえます。

 

教育は、公共財であり、政府が率先する必要があります。

 

イノベーションの出来る人材を育てることは政府の責任です。

 

以上のように、金融緩和は、イノベーションを促進せず、白物家電メーカーの輸出は全滅してしまいました。

 

2024年3月15日に公正取引委員会が下請け企業との価格転嫁の交渉に適切に応じなかった企業名を公表しました。企業名は、イオンディライト、SBSフレック、京セラ、西濃運輸、ソーシン、ダイハツ工業東邦薬品、日本梱包運輸倉庫、PALTAC三菱ふそうトラック・バスの10社です。

 

公正取引委員会の指摘が正しければ、国内にある市場は脆弱で、企業は技術開発よりも、価格転嫁に熱心です。

 

2)パレート分布の基本

 

パレート分布は、成果の80%は成績の上位20%の人によって生み出され、残りの80%の人の寄与分は20%にすぎないというものです。

 

この経験則は、大量生産時代に生み出されたものなので、情報産業では、分布の偏在は、更に大きくなっています。



日本国内のITエンジニアの人口は、2022年現在で132万人です。

 

ITエンジニアはエンジニア全体の約半分を占めています。

 

総務省統計局「労働力調査2022年平均結果の概要」によると、日本の労働人口は6902万人となっています。

 

よって、労働者人口の約2%がITエンジニアの割合です。

 

分野ごとのエンジニアの育成人数には増減がありますが、ここでは、増減を無視した概算を考えます。

 

エンジニアの労働年数を40年と仮定すると、毎年の新規参入は、3.3万人です。

 

3.3万人の10%は、660人です。

 

3.3万人の5%は、165人です。

 

3.3万人の2%は、66人です。

 

本当に生産性の高い優秀なITエンジニアは、毎年約100人しか生まれません。

 

しかし、この人たちの大半は、GAFAM転職している可能性があります。

 

2023年の定員は9,384人、2023年度の国立大学医学部入学定員は4,249人です。

 

優秀なITエンジニアの数は、医師の10分の1です。

 

特に優秀なITエンジニアの数は、医師の100分の1です。

 

生産性の高い優秀なITエンジニアが、AI等をつかって、自動診察システムを開発した場合を考えます。これは、デザイン思考です。

 

自動診察システムの目的は、医師の仕事量をゼロにすることではありません。

 

ルーチンな診察は、自動システムで対応できます。

 

症例の極めて少ない病気については、人間の医師は、経験がないので、適切な診察が困難ですが、ビッグデータを使ったAIであれば、対応可能です。

 

自動診察システムを使えば、医師が不要になる訳ではありませんが、医師の数と労働時間を減らすことが可能です。

 

その経済価値は、医師数千人分のコストを上回るでしょう。

 

つまり、ジョブ型雇用で考えれば、自動診察システムの開発には、医師数千人分の経済価値がありますので、医師の給与の10倍以上の給与を支払うべきです。

 

GAFAMの給与はこのような論理で決まっているはずです。

 

優秀な医師は、転職して、より給与の高い自動診察システムの開発に従事しているはずです。

 

医師会は、自動診察システムの開発に反対しています。

 

それ以前に、日本には、自動診察システムの開発に使えるビッグデータがありません。

10年もたたずに、自動診察システムは実用化するでしょう。

 

自動診察システムの実用化にもっとも近い国は、アメリカと中国です。

 

高齢化に伴い日本の医療費支出は拡大し続けています。

 

日本は、ある時点で、医師と自動診察システムを併用するようになるでしょう。

 

今の状態では、その時に、日本製の自動診察システムが実用化している可能性は、ほぼゼロです。

 

現在は、日本は、スマホの使用料として年間数兆円をアメリカに支払っています。

 

自動診察システムを併用するようになった時に、日本は、自動診察システムの使用料として年間数兆円をアメリカ、または、中国に支払うと予測できます。

 

価格転嫁が広がって市場経済がなければ、経済学の理論は使えません。

 

パレート分布を無視した春闘では、本当に優秀な人材は、海外流出しています。

 

スキルの分布は正規分布ではありませんので、平均値は、分布の代表値にはなりません。