1)ベトナム戦争
ウィキペディアによれば、次のようになっています。
<
ベトナム戦争は、1954年頃から、1975年まで、ベトナムで、行われた戦争です。
当時南北に分断されていたベトナムで社会主義のベトナム民主共和国(北ベトナム)と資本主義のベトナム共和国(南ベトナム)の間で勃発した戦争であり、冷戦中に起こった資本主義と社会主義の代理戦争であるとされます。経済力・物量の差から「象と蟻」の戦いと揶揄された。
ベトナムの南北両国では以前から対立が続いており、南ベトナム国内では北ベトナムに支援された反政府組織である南ベトナム解放民族戦線(解放戦線)が活動して南ベトナムの警察や軍などと争いが起こっています。南ベトナムの同盟国であるアメリカ合衆国(アメリカ)は以前から軍事顧問を送り込むなどして南ベトナムを援助していたが、1964年8月のトンキン湾事件を契機として全面的な軍事介入を開始した。南北ベトナムと解放戦線、そしてアメリカは一気に全面戦争に突入したが、アメリカ軍は北ベトナム軍や解放戦線側によるゲリラ戦を相手に苦戦し、最終的に和平協定を結んで撤退した。戦争はその後、1975年4月30日に北ベトナム軍が南ベトナムの首都サイゴン(現在のホーチミン市)を陥落させるまで続きましたた。
この戦争ではベトナムだけでなく、周辺諸国であるラオスやカンボジアにも戦火は拡大しており、それぞれラオスではラオス王国とパテート・ラーオが戦い、カンボジアではクメール共和国とカンボジア王国・クメール・ルージュの連合軍が戦い、こちらでも社会主義国側の勝利に終わっています。これらはそれぞれラオス内戦、カンボジア内戦と呼ばれており、結局インドシナ半島の3カ国は全て社会主義の国となりました。
>
冷戦中には、資本主義と社会主義のイデオロギー対立がありました。
社会主義のイデオロギーによれば、資本主義は、資本家が労働者を搾取するとんでもない政治体制になります。最近も、日本国内で使われる「強欲資本主義」という言葉には、社会主義の匂いがします。
ベトナム戦争、ラオス内戦、カンボジア内戦は、膨大な人的損失を生じながら、「強欲な資本家」を追放することに成功します。
問題は、その先にあります。
ベトナムは、「強欲な資本家」を再生するドイモイを実施しています。膨大な人的損失を生じながら、あとで再生させる「強欲な資本家」を追放する必要があったでしょうか。
仮に、「膨大な人的損失を生じながらも、『強欲な資本家』を追放する必要」がないと考えれば、解放戦線の兵士は、戦争を遂行できたでしょうか。
筆者は、中国の社会主義市場経済やベトナムのドイモイをみて、イデオロギーのために、兵士が戦う時代は、終ったと感じました。新しい世界では、イデオロギーが経済的利益に優先することはあり得ないのです。
今では、信じられないかもしれませんが、日本では、冷戦時代には、イデオロギーが、重要な人格の一部と思われていました。
特に、進歩的知識人は、社会主義のイデオロギーを信奉するのが当然と思われていました。
仮に、1954年頃に、ベトナムでも、人々が「イデオロギーが経済的利益に優先することはあり得ない」と考えていたならば、ベトナム戦争は起こらなかったように思われます。
もちろん、そこには、「強欲な資本家」のような不正をする人はいたと思いますが、不正を排除する手段として、戦争を選ぶ理由はありません。
トルストイは、「イワンの馬鹿」のなかで、無抵抗主義を主張しました。
正義というイデオロギーは、人々の心に訴えますが、イデオロギーのために戦争を起こすと、搾取されている時以上の人命や経済的なダメージを被ることになります。
社会主義のイデオロギーを信奉する進歩的知識人は、好戦的な人種になります。
鄧小平は、黒猫・白猫を例に、「イデオロギーが経済的利益に優先することはあり得ない」といいました。
1990年頃のソ連の崩壊は、「イデオロギーが経済的利益に優先することはあり得ない」という変化を決定的なものにしたように見えます。
体制を崩壊させる手段は、革命(内戦)だけは、ありません。
ソ連は経済の崩壊が、革命(内戦)に替わることを示しました。
2023年11月7日に、米半導体大手インテルはベトナムの半導体事業をほぼ2倍に拡大する投資計画を棚上げしました。インテルはその理由を明らかにしていませんが、技術者の不足や、ガバナンスの問題が推測されています。
2023年1月17日、ベトナム共産党中央委員会の臨時総会は、2021年から2026年任期における党政治局員、党中央委員等の役職を辞し、引退したいというフック国家主席の申し出に同意ています。国家主席はベトナムの国家元首であり、共産党指導部内の序列では党書記長に次ぐ第2位です。国家主席辞任を党指導部による過去10年間にわたる反汚職闘争の一部と言われています。
ベトナムには、「強欲な資本家」はいませんが、「強欲な共産党幹部」がいるので、排除している途中という訳です。
同じ論理でいえば、日本には、「強欲な資本家」はいませんが、「強欲な与党幹部」がいる可能性があることになります。
実際、日本では、東京証券取引所(東証)は、市場開設者の立場から、上場会社のコーポレート・ガバナンスの充実というテーマに対し、明確な目標を定め、その目標に向けた改善を行っています。
企業幹部の女性比率も問題になっていますが、女性比率を上げるために、公務員の幹部のOGを幹部に採用するとんでもない企業もあります。
企業幹部の女性比率問題は、昇進・昇格におけるジェンダー差別があるという原因を問題にしている訳ですので、公務員の幹部のOGを幹部に採用するのは、問題の解決の放棄に当たります。
日本では、「強欲な与党幹部」を排除する反汚職闘争が話題になることはありませんので、ベトナムの方が、日本よりガバナンスがまともかも知れません。
日本では、ジェンダーギャップがなくなりませんので、この点では、欧米の企業は、日本は、ベトナムより格下と見ているはずです。
日本のFDIは、世界で最下位です。
2)ウクライナ戦争
ベトナム戦争の「イデオロギーが経済的利益に優先することはあり得ない」という公式は、ウクライナ戦争ではあてはまるのでしょうか。
日本では、ウクライナ戦争は、領土(主権)の侵害や、人道主義の視点で語られます。
しかし、ベトナム戦争の例のように、「イデオロギーが経済的利益に優先」すれば。戦争を回避することはできなくなります。
西谷 公明氏は、独立後の1992年から、ロシアによる軍事侵攻が始まる前の2021年まで30年間の、ロシアとウクライナにおける国内総生産(GDP、購買力平価ベース)の推移を比べて、ロシアは経済成長したが、ウクライナの経済は停滞した、その原因は、汚職が蔓延するガバナンスにあるといいます。
2020年の1人あたりGDPは、ロシアが、10,180ドルで、ウクライナは、3,780ドルでした。
1992年の1人あたりGDPは、ロシアが、483ドルで、日本は、32,070ドルした。
仮に、1992年に、北方領土で、住民投票をすれば、日本への編入希望が過半数をこえていた可能性があります。
日本では、最低賃金の時給1000円が議論されています。逆に、仮に、日本がロシアに、編入されれば、最低賃金が時給1万円になるとすれば、賛成する日本人も多いと思います。
そこまで、極端ではありませんが、ウクライナとロシアの間には、経済格差とカバナンスの格差があります。
ウクライナの人口は、一番古いデータのある1992年には、5187万人でしたが、2020年には、4142万人になっています。その間、人口は、単純に減少し、続けています。
2023年10月のIMFの推定人口は、3319万人です。つまり、継続して、有能な人材は、ウクライナを離れています。
ロシアの人口の増減していますが、ウクライナのような単純減少ではありません。
西谷 公明氏は、2019年3月に、ゼレンスキー氏は、大統領になり、汚職追放と経済成長を目指したが、成果が出ずに、支持率が急落して、2021年に、政策を変更したといいます。
ゼレンスキー大統領はロシアとのミンスク合意(2015年2月に締結されたドンバス停戦のための国際的な取り決め)の実施を拒み、将来のEUと北大西洋条約機構(NATO)加盟を国民に約束します。2021年8月にはクリミア奪還をめざす国際会議を立ち上げ、10月にはドンバスの親ロシア派支配地域に大規模なドローン攻撃をしかけています。
ウクライナ戦争でも、「イデオロギーが経済的利益に優先することはあり得ない」という公式が破られて、戦争が起ったように見えます。
ここには、ベトナム戦争の繰り返しがあります。
ウクライナ戦争で、ウクライナの経済は、ほぼ100%破壊されています。
今までの戦争は、日本の太平洋戦争(第2次世界大戦)のように、自国の経済規模が、戦争の規模の制約条件になっていました。
しかし、ウクライナ戦争や、アフガニスタンの内戦では、資金が外国から注入され、自国の経済規模が、戦争の規模の制約条件になっていません。これは、経済制約という停戦のセーフティネットが機能しないことを意味します。
過去に、このセーフティネットが機能しなかった事例には、アフリカの奴隷貿易があげられます。
セーフティネットが機能しない場合には、徹底的に、社会が破壊され、ガバナンスが回復不能に陥ります。
ウクライナの停戦は、イデオロギーではなく、経済制約(外国からの資金注入の変化)によって、起こると思われます。
引用文献
10年毎に繰り返される革命-ウクライナはウクライナ人にしか救えない-「誰よりも知る男」がホンネの直言 2023/11/08 現代ビジネス 西谷 公明
https://gendai.media/articles/-/118825
ウクライナはロシアに勝てるのか?~戦時の経済力が違いすぎる 2023/09/03 現代ビジネス 西谷 公明