対称性と世界大戦~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(大国の代替戦争と世界大戦は、区別されるべきです)

 

ウクライナ戦争で、色々な議論がなされています。歴史の再構築の視点で、重要な回避すべき課題は、世界戦争のリスクと核兵器の使用リスクの2つと思われます。

 

今回は、世界戦争のリスクを考えます。

 

問題を整理する基本的な視点は、何が正義であるかではなく、国際関係をエコシステムとして考えた時に、システムの安定性や遷移の特性を考察することです。

 

冷戦の時期に、2つの大国が共に各ミサイルを整備すると戦争が起こらないと考えられていました。

 

実際に、第3次世界大戦は起こっていませんが、局所的な紛争が起こっています。

 

1)内戦と戦争

 

戦争は、国家間の軍事力の衝突です。

内戦は、国内の軍事勢力の衝突です。

内戦に支援国がつくと戦争に発展します。

朝鮮戦争ベトナム戦争は、東西間の代理戦争の様相を呈しています。

東西ドイツでは、壁を作ることで、勢力範囲の固定化によって、戦争が回避されました。

内戦では、2つの政治勢力が、正当性を主張します。

内戦が代理戦争に発展した場合でも、戦争の範囲は、内戦国に止まると考えられるため、世界大戦になるとは考えられません。

逆に言うと戦争が、内戦国の範囲を越えた場合には、世界大戦のリスクが発生します。

 

2)ウクライナの場合

 

ウクライナの実効支配を見るとドンバスには、親露政権があり、それ以外には、ゼレンスキー政権があります。つまり、内戦状態になりました。

 

ここで、ウクライナを内戦国と考え、代理戦争が起こった場合を考えれば、欧米(NATO)が、ゼレンスキー政権を支持し、ロシアが、親露政権を支持して、代理戦争が起こるのが基本パターンです。NATO軍が、朝鮮戦争の時のように、国連軍になるためには、安全保障理事会で、ロシアと中国が棄権することが条件になるので、国連軍が派遣される可能性は低いです。

 

とはいえ、このパターンであれば、NATO軍の派遣が世界大戦になるとは考えられません。



ロシアは、ジョージアに侵攻しています。2008年8月の戦争。この時のNATOとロシアの関係は、ウクライナ侵攻によく似たパターンになっています。このとき、副大統領のジョー・バイデンジョージアウクライナを訪問しています。この問題の分析は、複雑で、2008年8月の戦争においてロシアはアメリカ合衆国NATOを批判し、メドヴェージェフは「新たなる冷戦も恐れない」とさえ発言しています。

 

とはいえ、常識的な範囲でみれば、代理戦争のパターンです。

 

この場合には、世界大戦に拡大するリスクが高いと考える人は少ないでしょう。

 

一方、ウクライナで起こったことは、内戦が、発展して戦争になったのではありません。

 

内戦の発展パターンであれば、ドンバスの親露政権の実効支配エリアを拡大する手順をとるはずです。しかし、その手順を踏まずに、ロシア軍が直接キーウを目指して侵攻しました。

 

建前上は、ウクライナとロシアは一体であり、ウクライナの傀儡政権の支配エリアから、住民を解放するというロジックになっています。

 

つまり、ロシアの立場は、ウクライナ問題は、内政問題であって、代理戦争ではないというものです。

 

問題は、NATOの解釈になります。ウクライナ戦争は代理戦争であって、背後の国(NATOとロシア)にその影響が及ぶことがないと解釈するのであれば、NATOは派兵しても、世界大戦になるリスクは考えられません。

 

代理戦争ではなく、ロシアとウクライナの戦争であると解釈すれば、停戦は、ロシアが敗退するまでありえません。つまり、ウクライナがロシア領土に入って、ロシア軍を押さえるまで、停戦はありません。しかし、ロシアがウクライナに侵入している軍隊を、全て退去させれば、停戦になるという前提で、マスコミの議論が行われているように思われます。

 

勢力の均衡ラインが開戦前の国境に戻った場合に、ロシアが敗戦したといえるのでしょうか。一般には、戦争では、戦勝国は、敗戦国の軍隊を解散させます。今回は、ウクライナは、そこまで、ロシアと戦争をするつもりはないと思われます。

 

NATOが派兵しなかった理由は、NATOが派兵すると、世界大戦になるからという理由になっています。この発言は、ウクライナ戦争を、世界大戦の前哨戦であると位置づけていることになります。

 

2022/02/23のCNNによると、「ドイツのショルツ首相は22日、ウクライナ戦争に関連し、北大西洋条約機構NATO)は第3次世界大戦につながり得るロシアとの直接的な軍事衝突を回避しなければならないとの認識を示し」ています。「ロシアとNATOの間の緊張激化を防ぐことが私にとっては最優先課題」と論じています。

 

「ショルツ首相は、ロシア軍のウクライナ侵攻が新たな、決定的な局面に達しかねない事態のなかで、戦車や榴弾(りゅうだん)砲など大型兵器のウクライナへの引き渡しをためらっていることでドイツ内外で批判されています。

首相は会見で、ドイツやNATOウクライナ戦争の直接的な当事者になることは正当化されないと判断している」としています。

2022/02/23のCNNは、「 英国のジョンソン首相は22日、ロシアについて、ウクライナでの戦争に勝利する『現実的な可能性』があるとの認識を示した。一方で、状況は現時点で『予断を許さない』とも指摘した」と伝えています。



ベトナム戦争の時に、アメリカ軍は、タイをバックヤードとして使っていました。ラオスには、民間航空会社のラベルをつけた偵察用の航空隊が設置されていました。しかし、世界大戦の前哨戦であるとは誰も思っていませんでした。

 

NATOは、ウクライナに派兵しないと宣言しながら、ロシアに対して、広範な経済制裁を行いました。ロシアは、経済制裁は、WTO違反だといっています。WTO違反かどうかは別にして、ロシアの発言は、今回の規模の経済制裁を想定していなかった可能性を示唆しています。これは、戦争回避の交渉としては、問題があったことを示しています。なぜなら、ロシアが、今回のレベルの経済制裁が行われることを事前に予想していたならば、侵略が、利益にならないと判断して、中止した可能があるからです。

 

ロシアの経済力は小さいので、世界大戦になれば、ロシアの勝ち目はありません。メドヴェージェフのように、新冷戦を口にする人はいますが、ロシアが望んで、世界大戦をするとは思えません。となれば、ロシアは、代替戦争を想定した可能性が高いと思われます。その状況で、NATOは、ウクライナに派兵しないと明言したので、ロシアが侵略を始めたと思われます。

 

結局、ウクライナは、前例のない世界大戦の前哨戦シナリオに巻き込まれています。ゼレンスキー大統領の各国での演説は、ウクライナは、世界大戦の前哨戦を戦っているというものになっています。

 

2022/04/23のロイターは、ゼレンスキー氏は、「生が死に打ち勝つと信じる国は、私たちを助けなければならない。なぜなら我々は『先頭の犠牲者』だからだ。次はどこの国だろう」と述べたと伝えています。



代替戦争は、背後で支持する2つの国で見れば、対称性がありますので、均衡点は容易に見つけられます。

 

世界大戦の前哨戦シナリオに持ち込むと、対称性は失われるので、均衡点が容易に見つけられません。これが、ウクライナ戦争の終着点が見えにくい理由です。

 

ロシアが、経済力のバランスを無視してまで、戦争に勝てるという通常は考えられない判断をした可能性もありますので、結論をだすことはできませんが、問題は、「世界大戦の前哨戦シナリオ」の周囲で回っています。



3)国連と国境の固定化

 

戦争は、国境を越えて他国の軍隊が侵攻することで始まります。

 

軍隊やミサイルが国境を越えなければ、戦争は起こりません。

 

国連の最大の機能は、戦争回避です。これは、国際連盟が、第1次世界大戦の反省から生まれ、現在の国連が、第2次世界大戦の反省でできています。

 

戦争を回避するために、内政不干渉になっています。ある国が、独裁であったり、人権無視をしていることは望ましくはありませんが、それを理由に戦争をしないというルールです。

これは、人権無視で亡くなる人の数と戦争に巻き込まれて亡くなる人の数を比べれば、後者が大きくなるという実利的な判断です。

 

つまり、ここでは、何が正義かではなく、何が人的被害を減らせるかという基準が働いています。

 

国際連合ができた1945年には、世界には、植民地など国でないエリアも多くありましたが、アフリカとアジアの独立が進み、現在では、国境が未定のエリアは西サハラなどごく一部です。アフリカの国の国境のように、植民地時代の名残を引いていて、理不尽な国境もありますが、戦争回避のために、国境は動かさないことが原則です。

 

逆に言えば、国連に加盟していれば、国境を越えて、他国の軍隊が侵攻した場合には、国連が戦争回避をすべきと思われます。

 

結局今回のウクライナの侵略では、この点では、国連は機能しませんでした。

 

「国境を越えて他国の軍隊が侵攻する」というルールは、実効支配を変更しないということです。

 

中華民国が国連に参加した時には、赤い中国はありませんでしたが、その後、中華民国の実効支配は、台湾だけになります。

 

中華人民共和国が国連に加盟した時点で、中華民国は、国連から抜けてしまいますが、この部分は、実効支配という原則が適用されていない訳で、混乱の種がまかれています。

 

ウクライナでは、前例のない世界大戦の前哨戦シナリオが採用されましたので、東アジアでも同じ論理が採用されるリスクはあると思われます。

 

引用文献

 

ジョージアとロシアの関係   ウィキペディア

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82

 

NATO、ロシアの軍事衝突回避が最優先 重火器譲渡拒む独首相 2022/02/23 CNN.co.jp

https://www.cnn.co.jp/world/35186599.html

 

ロシアの勝利に「現実的可能性」、英首相 2022/02/23 CNN.co.jp

https://www.cnn.co.jp/world/35186731.html

 

ウクライナ大統領、「他国への侵攻も意図」と批判 露軍幹部の発言に 2022/04/23 ロイター

https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-idJPKCN2MF021