ローリスクとノーリスクの違い~プランBの検討

市場経済を破壊するノーリスクは排除すべきです)

 

1)円安と低金利で投資が進まない理由

 

安政策と低金利政策、さらに、付け加えれば、企業の法人税政策は、企業が資金調達を容易にして、新規投資を増やすという名目の上になされています。

 

しかし、法人税減税は、内部留保を増やすだけで、日本企業の新規投資は、海外企業に比べて、極端に少ないです。

 

日本企業の人材開発の投資額は、海外企業に対して、見劣りします。相対的にみれば、ゼロに近い水準です。

 

政府は、リスキリングに予算を配分して、人材育成をする計画です。

 

ここにある考え方は、法人税減税と同じで、お金があれば、人材育成が増えるだろうという発想です。

しかし、これは、市場経済原理を無視していて、間違いなく失敗すると思われます。

 

法人税減税が、日本企業の新規投資を呼び起こさず、内部留保を増やすだけであったのは、企業が合理的な経営をしたためで、企業には、責任はありません。

 

責任があるのは、間違った経済政策を行った政府にあります。

 

前著「経験科学の終わり」でも、検討したように、円安や法人税減税、古くは、非正規雇用の拡大などの超過利潤を発生させる政策が行われた場合、企業の取りうる行動は次の2つです。

 

(行動1)政党への献金などの政治活動を通じて、円安や法人税減税、非正規雇用、リスキリング補助を実現して、超過利潤を獲得する。

 

(行動2)新規投資、人材教育を行って、労働生産性をあげて、利益を拡大する。

 

前著「経験科学の終わり」では、組合せとしては、「(行動1)のみ、(行動2)のみ、(行動1)と(行動2)の併存、(行動1)も(行動2)もなし」の4通りがありうるが、経験則からすれば、「(行動1)と(行動2)の併存」が見られることはないと書きました。

 

政府の法人税減税による新規投資の拡大は、「(行動1)と(行動2)の併存」を前提としていますので、経験則から見て、実現性はないことになります。

 

今回は、この問題を、リスクとリターンの関係で整理します。

 

(行動1)の経営には、費用はかかりません。企業は、政党への献金を日常的に行っていますが、法人税減税の前に、献金が増えることはありません。つまり、この経営は、ほぼノーリスクでハイリターンが得られます。これは、法人減税などの利潤を超過利潤と呼ぶ根拠でもあります。

 

(行動2)の経営は、新規投資を行って、リターンを得る方法です。設備投資を行って造った製品が売れないこともあります。新規投資では、リスクをとってリターンを得なければなりません。DX関係の投資は、ハイリスク・ハイリターンになります。極端に、ハイリスクの投資は、ベンチャー企業が行いますが、大企業でも、リスクのある投資をしなければ、デジタル社会では生き残れません。これは、GAFAMが如何に多くの事業を展開し、撤退を繰り返しているかを見ればわかります。

 

ここで、読者の手元に100万円あって、株式を購入すると仮定します。

 

通常はこんな感じです。

 

Z1社:ローリスク・ローリターン

Z2社:ハイリスク・ハイリターン

 

ここに突然、次のZ3社が出現したとします。

 

Z3社:ノーリスク・ハイリターン

 

この条件であれば、どの企業の株を買うべきかは、いうまでもありません。

 

同じことを、(行動1)と(行動2)に当てはめれば、企業現在が、(行動1)によって、リスクをとる新規投資(行動2)を封印したことがわかります。

 

これに対して企業が投資をせずに、内部留を増やすのは怪しからんというのは、ピントがずれています。

 

問題の原因は、リスクとリターンのバランスルール(市場経済)を破壊した政府にあります。



1985年のプラザ合意から1990年のバブル崩壊までは、円高が継続的に進展しました。また、金利も高かったです。

 

しかし、リスクとリターンを考えれば、円高と高金利こそが、新規投資のハイリスクにチャレンジする原動力であったことがわかります。

 

アメリカの経済を見れば、高金利が、新規投資を抑制したというエビデンスはありません。これも、リスクとリターンから見れば、これも合理的な企業行動です。

 

3)銀行の雇用の改組

 

2022年11月21日に、みずほフィナンシャルグループ(FG)は、傘下の銀行や証券など主要5社で統一した人事制度に移行すると発表しました。年功序列型の給与体系を実質的に廃止し、個人の能力がより反映される仕組みにしました。企業年金は、個人の運用実績により給付額が変わる企業型確定拠出年金(DC)に一本化しました。

 

これは、一歩前進だと思います。

 

金融業の企業資産は、ツイッターと同じようにソフトウェアだけです。

 

銀行が立派な建築を経てたり、銀行の職員が、高給なスーツを身に着けるには、その外見によって、その銀行の運用は信頼できるというソフトウェアを演出するためです。

 

金融工学が出てきて、「銀行の運用は信頼できるというソフトウェア」が、建築やスーツから、コンピュータのソフトウェアに入れ替わりました。

 

ネット証券会社は、ソフトウェア資産を持っているだけで、建築(リアルの店舗)もスーツもありませんが、ビジネスの障害にはなっていません。

 

2022年10月28日に、一部のTwitterエンジニアのもとにマスク氏の部下から「過去30から60日間に自分のコンピュータで書いたコードをプリントアウトし、さらにマスク氏の下でコードを評価できるよう準備するように」という要望が届きました。The Washington Postによると、準備されたコードはテスラのエンジニアと技術専門家によって検証されたそうです。

 

ツイッターの資産の中心が、ソフトウェアとそれを生み出す優秀な人材であれば、これは、企業資産のチェックと見直しを行っているので、合理的な行動です。

 

一方、みずほフィナンシャルグループ(FG)では、ネットワークシステムの障害があった場合、経営トップは、記者会見で謝罪しましたが、ネットワークシステムのコードのチェックはしませんでした。

 

これは、経営トップには、企業資産(ネットワークシステム)のチェックと見直しをする能力がないことを示しています。

 

このように書いても、銀行とツイッターが違うという反論がでるかもしれません。

 

マスク氏はWeChat(微信)を意識して、コードチェックをしたと推測する人もいます。マスク氏は「ツイッターをWeChatのような何でもありのアプリXに変えたい」といっています。このXには、PayPalのような送金サービスも含まれています。

 

今後、銀行とツイッターは競合する可能性があります。

 

4)公務員の雇用の改組

 

いまから、半世紀くらい前の話です。東京大学の法学部を卒業した人の就職の話を聞いたことがあります。

 

その人は、次の選択を考えました。

 

(1)民間企業に就職する

(2)公務員になる

 

公務員になる場合、現役中の所得は、民間企業より少ないが、天下り後の所得を計算すれば、生涯賃金は、(2)の方が多くなるので、(2)を選んだそうです。

 

もちろん、公務員になるためには、試験に合格する必要があります。

しかし、公務員試験に合格すれば、公務員の解雇規制は大変つよいので、途中で、解雇されるというリスクは、ほぼ、ゼロです。

 

つまり、公務員試験に合格すれば、ノーリスク・ハイリターンになります。

 

公務員は、周囲の公務員と一緒に仕事をすることが多いです。

 

そうなると、認知バイアスが働いて、「ノーリスク・ハイリターン」が異常であると感じられなくなります。

 

政府の経済政策を実質作成しているのは、「ノーリスク・ハイリターン」の世界に生きている官僚です。

 

このため政府の経済政策では、リスクとリターンのバランスが考慮されていません。

 

アメリカの官僚はジョブ型雇用で解雇がありますので、リスクとリターンのバランスを考えることは、無意識のレベルで行われています。

 

日本のIC企業等が、立ち行かなくなり、国策で、企業合併をして、国策会社(実質国有企業)をつくり、CEOには、官僚のOBが就職します。いわゆる天下りです。天下りでも、CEOが機能して、企業の経営が持ち直せば、クレームをつける必要がありません。しかし、天下りで、能力のない人がCEOにつけば、国策会社は、つぶれてしまいます。そうした例は非常に多いです。外から見ていては、経営の中身はわかりませんが、CEOの発言を見れば、そのCEOがリスクとリターンのバランスをどのように考えていたかがわかります。倒産した国策会社のCEOには、リスクの概念がない気がします。

 

2022年現在、国家公務員の中途退職が増えています。地方公務員はなり手が少なく、公務員試験の倍率は3倍を切って、試験に実質的な選抜機能はなくなっています。

 

これは、難しい試験に合格すれば、「現役中の所得は、民間企業より少ないが、天下り後の所得を計算すれば、生涯賃金は、公務員の方が高い」というモデルが破綻していることを示してます。

 

一方、市場経済からみれば、これは、リスクとリターンのバランスがとれた健全な経済への復帰です。

 

2022年11月に、国家・地方公務員の定年が、65歳まで段階的に延長されることが決定しました。

 

みずほフィナンシャルグループ(FG)のように、ジョブ型雇用に移行せずに、年功型雇用を維持し、更に定年を延長することは、ノーリスク・ハイリターンモデルの温存を図る致命的な誤りです。

 

定年延長は、年功型雇用の公務員システムが、既に、優秀な人材を確保できないという現実から目をそらしています。

 

崩壊したシステムは維持できません。最大の被害者は、教育を受ける学生や生徒になります。義務教育では、教師の人材不足が深刻です。教師(公務員)には魅力がありません。年功型雇用を維持して、定年延長することは、日本の未来の人材を棄損しています。大学の国際ランキングの低下はその現れです。

 

企業にも出来ることがあります。

 

みずほフィナンシャルグループ(FG)は、年功序列型の給与体系を実質的に廃止し、個人の能力がより反映される仕組みにするといっていますが、これは、本当でしょうか。

 

シェルは、株主利益を優先し、政治からの中立を保つために、官僚の天下りは受け入れない方針です。

 

みずほフィナンシャルグループ(FG)が、官僚の天下りを排除できているようには思えないのですが、本当に、個人の能力が反映される仕組みになっているのでしょうか。

 

みずほフィナンシャルグループ(FG)が、本当に、個人の能力が反映される仕組みにして、企業の継続を図るには、ツイッター並みの解雇は必須ではないでしょうか。

 

それなしに、ツイッターと競争できるとは思えません。



ここでは、無理に結論は出しませんが、論点が、ノーリスクの排除、超過利潤の排除にあることは、理解していただけると思います。