1)テーマ
毎日新聞は次のように伝えています。
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財務省の神田真人財務官は2日、日本経済の課題を巡る私的懇談会の報告書を発表した。輸出産業の国際競争力低下や、新しい少額投資非課税制度(NISA)の影響もあって個人金融資産の海外流出が増加している現状を示した上で、こうした状況を打破するため、産業の新陳代謝や成長分野への労働移動の円滑化を提言した。
報告書は「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」と題した懇談会の議論をまとめた。ここ数年の円安進行は日米の金利差のほかに、海外との資金のやり取りを示す国際収支の構造変化が背景にあるため、学者やエコノミスト20人を集めて議論してきた。
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貿易赤字解消のため、原発再稼働を 神田財務官の私的懇談会が報告書 2024/07/02 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/1cdfa08bb6cf17a9a3da6bd3bd32872e7fc4adbf
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今回は、「輸出産業の国際競争力低下や、新しい少額投資非課税制度(NISA)の影響」を考えます。
2)新卒エンジニアの給与
鈴木貴博氏は、新卒エンジニアの給与について言及しています。(筆者要約)
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グーグルの新卒エンジニアの給与は13万ドル(約2000万円)からです。ファーウェイのような中国IT大手の新卒技術者の年収は、3000万円の水準です。
日本の情報科学専攻の新卒の平均年収は598万円で、ソニーでは大学院卒の新卒の最高年収を730万円に設定しています。もちろん、この給与では高度人材は確保できません。
日本の大手IT企業と日本のメガバンクはどちらも似た「外資との給与競争では負け」という考えを持つ一方で、日本の五大商社だけはそうは考えません。
トヨタの平均年収は、895万円ですが、三菱商事の平均年収は1939万円です。
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<< 引用文献
三菱商事1939万円、トヨタ895万円「年収2倍超の大格差」を生む日本経済の根深い病理とは? 2024/05/07 Daiamond 鈴木貴博
https://diamond.jp/articles/-/344998
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ソニーでは大学院卒の新卒の最高年収が730万円ですが、人材確保の出来ない年収を設定する意図は不明です。
給与は個人が稼いだ金額の一部です。社会保障と企業利益と給与で折半して、利益の3分の1を払うのが相場です。
グーグルの新卒エンジニアの給与の13万ドル(約2000万円)は、6000万円以上の収益を会社にもたらしていることを意味します。
株式会社では、利益をあげて、株主に還元するのが、経営の基本です。
高度人材のいない会社はつぶれてしまいますので、経営者は、13万ドル(約2000万円)をし払えるような仕事を作る必要があります。
ドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏は、日本の大企業の社長は、市場経済を勝ちぬく経営をしないといいます。
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現代の日本の大企業では、守り最優先のタイプのサラリーマン社長が大半ではないだろうか。彼らは組織の中で業務をそつなくこなし、大きなミスをすることもなく、順調に出世の階段をのぼってきた。そうして社長の座についた時、彼らが真っ先に考えるのは、自らの任期中は余計なことをせず、平穏無事に乗り切ろうということではないだろうか。すなわち「守る」経営だ。
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<< 引用文献
売上2兆円、ドン・キホーテ創業者が「日本経済を決定的にダメにした」と断言する“A級戦犯”とは? 2024/06/25 文春 安田隆夫
https://bunshun.jp/articles/-/71378?page=2
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これでは、企業は成長しません。つまり、日本株は投資家に魅力がないと言えます。
3)バフェットの購入株
バフェット氏は、以前は、日本株を持っていませんでした。
加谷珪一氏は、その理由のひとつを次のように説明しています。
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世界でもっとも著名な投資家の一人であるウォーレン・バフェット氏は、つい最近まで、決して日本企業には投資しないことで知られてきたが、その最大の理由は、日本企業の不透明性にあるとされている。
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日本の株式市場が外国人投資家に「避けられてきた」根本的な原因 2024/05/29 現代ビジネス 加谷 珪一
https://gendai.media/articles/-/130763
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加谷珪一氏の説明は、東証が政策株の放出を推奨しているように、改革を進めているので、日本株を、外国の投資家が買いやすくなっているという文脈で語られています。
バフェット氏は、日本の商社株を購入しています。
文春は次のように、書いています。
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投資の神様の取得で商社株は上昇。「バフェット後」の株価は「前」に比べ、2~5倍に急騰
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<< 引用文献
商社株上昇後の株主還元がキツい…丸紅幹部の嘆き節「次期社長は投資かバフェット氏に報いるのかで悩むことに」2024/07/02 文春
https://news.yahoo.co.jp/articles/9f495c79aa0addaae1ec2afed3095c9755584121
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日本商社の給与は高いので、安田隆夫氏が指摘するような「守る」経営はできません。高度人材(高給人材)を抱えているので、目いっぱい稼いでもらわないと、給与が払えなくなります。
その点では、給与の高い企業が攻めの経営をする可能性が高いと言えます。
トレーダーは毎日株価チャートを眺めています。
しかし、時系列は因果ではないので、因果で考える投資家は、株価チャートで株をえらびません。
因果で考える投資家は、株式の変動の因果法則が理解できる分野の企業の株を買います。
政策株を持ち合って、「守る」経営をされたら、株価の予測は不可能になります。
加谷珪一氏は、これが、バフェット氏が、日本株を購入しなかった原因の一つであるといっています。
4)輸出産業の国際競争力
輸出産業が、「守る」経営をすれば、国際競争力はなくなります。
企業は、公平な競争に勝つために、攻めの経営をする必要があります。
4-1)東証改革
上記のように、加谷珪一氏は、東証改革を評価している部分もありますが、大筋の評価は低いです。
加谷珪一氏の記事を要約します。
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東証肝いりの「市場再編」は、企業の業績拡大と時価総額の増大を促すという当初の目標が、事実上、骨抜きになっているため、投資家からは不評です。
東証1部には2177社が登録していましたが、プライムに8割以上の1839社が横滑りしています。プライムに横滑りした1839社のうち、295社が基準を満たしておらず、暫定的にプライム上場を認める経過措置が適用されています。この経過措置には期限がありません。
これから、今回の改革が看板倒れに終わる可能性が高いと言えます。これでは、厳しい上場基準を課す新カテゴリー(プライム)を作った意味がないので、失望の声が出ています。
日本のプライム市場における1社当りの時価総額は約3800億円で、ニューヨーク市場の4分の1程度の水準(グローバルな中堅企業)に過ぎません。
中堅企業の株価は乱高下しやすくリスクが大きくなります。過去10年間のアメリカ株(S&P500)の平均年間リターンは約13%、リスク(ボラリティ、標準偏差)は約13%で、日本株(TOPIX)の平均リターンは約10%、リスクは約16%でした。投資の効率性評価指標であるシャープレシオを計算すると、日本株はもはや投資適格ギリギリの水準です。その結果、ポートフォリオから日本株を外す投資家が増えています。
これから標準的なパフォーマンスを実現するには、日本株の比率を下げる必要があります。
個人投資家は、米国株など外国株の比率を上げる取り組みが必要です。(資産形成を目的にした長期投資の場合)日本株で投資対象となるのは、プライム銘柄のみになります。このプライム銘柄からは、経過措置が取られている企業を外す必要があります。
長期にわたって資産形成を考えている個人投資家は、「日本の大手企業に投資しておけば安心」という従来の価値観から脱却し、ポートフォリオの抜本的な見直しが必要です。
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<< 引用文献
投資初心者が絶対やってはいけない、「東証の市場再編」に潜む落とし穴 2024/04/29 現在ビジネス 加谷珪一
https://diamond.jp/articles/-/302312
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懇談会は、<輸出産業の国際競争力低下や、新しい少額投資非課税制度(NISA)の影響もあって個人金融資産の海外流出が増加している>と言いますが、シャープレシオをみれば、「個人金融資産の海外流出が増加」は当然のことであり、NISAとは関係がありません。
4-2)東京都知事選挙
今回の原稿は、まとまりが良くないですが、都知事選の前に、出す意図があります。
「週刊新潮」7月4日号は、次のように報じています。(筆者要約)
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小池氏に尽くして出世すれば「東京地下鉄株式会社」(東京メトロ)社長などの天下り先が用意され、1500万円以上の年収が保障されます。三井不動産には、都幹部14人が天下りしています。
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<< 引用文献
「東京都は土地をすごい勢いで三井不動産に差し出している」 小池都政の「三井ファースト」に疑問の声 2024/07/03 デイリー新潮
https://news.yahoo.co.jp/articles/5cb5ff3801a1a6b2426b226ca5b49546bbd25e7d?page=1
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広野真嗣氏は次のように説明しています。(筆者要約)
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2023年の都議会で、小池氏は都営大江戸線の延伸計画(光が丘~大泉学園町)について庁内に検討組織を立ち上げると答弁しています。
2024年5月、都の都市計画審議会が東京メトロ有楽町線の延伸プロジェクト(1420億円)と東京メトロ南北線の延伸(白金高輪~品川)プロジェクトを承認しています。
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<< 引用文献
「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策 2024/07/05 Newsweek 広野真嗣
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/07/post-104968_1.php
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天下りを受け入れる企業は、攻めの経営をしていません。
平均年収は1939万円の三菱商事にも天下りはいると思いますが、東京メトロのようにポストで、給与が支払われている人の割合は少ないと思います。
東京都の人口は、2030年頃に頭うちになると予測されています。
新規の地下鉄を建設しても、黒字化できる可能性はほとんどありません。
広野真嗣氏は、選挙民に現金をばら撒く候補者が、都知事選挙の勝者になるといいます。
過去のデータをつかって帰納法で推論すればそうなります。
しかし、ばら撒きを続けて、東京都が赤字になれば、ツケは納税者にきます。
「選挙民に現金をばら撒く候補者が、都知事選挙の勝者になる」という法則を変える必要があります。
4-3)渡邉美樹氏のポートフォリオ
加谷珪一氏は、日本株から、外国株にポートフォリオを移すべきであるといいました。
渡邉美樹氏は、さらに、先を考えて、次のようなポートフォリオを提案しています。
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■資産防衛をするための富裕層のポートフォリオとは?
渡邉美樹氏は日本の資産を円、株式、不動産、国債の4つで見た場合、先行きについて次のように想定しています。
- 円 → 暴落する
- 日本株 → 輸出産業やインバウンド産業の一部は復活するが、
全体としては暴落する
- 不動産 → 暴落するが1等地の価格は戻る
- 国債 → 暴落する
一方でアメリカについては次のように考えています。
- ドル → 上がる
- 米国株 → 一度は下がるがいずれ元に戻る
- 不動産 → 一度は下がるがいずれ元に戻る
- 米国債 → 不況が来て一時的には下がるが、比較的早く元に戻る
渡邉氏は、次の危機に備えて「米国債3分の1、日本株3分の1、日本の不動産3分の1」のポートフォリオにします。このオペレーションによって資産を守ることはできるというのが渡邉氏の考え方です。
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<< 引用文献
ジム・ロジャーズ「世界恐慌から資産を守る方法としてもっとも有効な投資方法とは何か」を教えよう 2024./07/03 東洋経済
https://news.yahoo.co.jp/articles/28192a6ee865ce0b56e5e9c15b63ce75d320dd2c?page=1
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5)まとめ
「輸出産業の国際競争力低下や、新しい少額投資非課税制度(NISA)の影響」の発言は、浮世離れしています。
東証のプライムが看板倒れになっていること、公務員が依然として、天下りに依存して、財政支出が止まらないこと、高度人材の給与が低すぎて、人材が確保できないことは、安田隆夫氏の「守る」経営に原因があります。
これは、企業経営が中抜き経済で成り立っていて、市場経済(特に、労働市場)がないことを示しています。
中抜き経済では、企業が成長しませんし、産業の新陳代謝は起こりません。
「産業の新陳代謝や成長分野への労働移動の円滑化を提言」には、資金の海外流出をとめる力はありません。
一端、資金の海外流出が起きれば、渡邉美樹氏のシナリオが現実になります。
筆者は、東京都知事選挙が、この悪夢の出口になることを期待したいのですが、その実現の可能性は低そうです。