(経済発展の基本は、超過利潤への課税と健全な市場の回復です)
1)独占禁止法
今回は、データサイエンスではなく、データサイエンスが活用される社会システムの構築方法を話題にします。
市場が少数の企業によって独占または寡占されると、一部の独占企業が価格を吊り上げることで、利潤を増やすことが可能になります。企業は、価格操作によって、居ながらにして利益(超過利潤)をあげることができるようになります。
このようになると市場原理が働かなくなります。
資本主義の基本は、市場原理であって、努力して、良い製品やサービスを供給した人は、それに見合う所得を得ることができるというルールです。これは、アメリカであればアメリカンドリームを担保するシステムになります。
セオドア=ローズヴェルト大統領(共和党)は議会の要請を受けて裁判を行った結果、1911年にはシャーマン反トラスト法を適用してロックフェラーのスタンダード石油の独占を有罪として33社に分割する命令を出しています。また、アメリカン・タバコ社も4社に分割されています。
独占禁止法では、このような企業分割に注目しますが、目的は超過利潤を解消し健全な市場を回復することです。
現在の検討の中心は、GAFAMです。
GAFAMは、近年は、競合しそうなベンチャー企業を次々と買収しています。
この方法は、スタンダード石油が独占企業になった過程と同じです。
そこで、GAFAMの料金設定には、超過利潤が含まれてるのではないかと疑われています。
ここで、注意しなければならない点は、超過利潤の解消には、次の2つの方法があるということです。
(1)企業分割
(2)超過利潤に対する課税
GAFAMの一部のサービスは、世界中で利用できるユニバーサルサービスになっています。
利用料金は、料金を振り込む国の通貨と料金体系になっていますが、利用自体は世界中どこでも可能です。
これは、クレジットカードの決済と現金の決済の違いのようなものです。
現金を抱えて海外を移動していくと、国境を超える毎に、現地通貨に変えていくと、現金は目減りしてしまいます。
ユニバーサルサービスにメリットがある場合には、企業分割は難しくなります。
アマゾンの場合には、企業は国別になっていて、日本のアマゾンで、アメリカのアマゾンの製品を注文することはできません。円建てで、ドルの商品の購入はできません。
しかし、ネット販売のシステムは各国共通になっています。
このようにIT系企業では、現状でも企業分割されている部分もありますので、独占禁止法による企業分割の適用は現実的には難しくなっています。
そこで、超過利潤に対する課税が、議論の中心になっています・
2)超過利潤に対する課税
2022年11月8日の日経新聞の7面のオピニオン欄に西村博之氏は、欧米では、石油などの燃料に超過利潤課税(windfall profits tax)を課しているが、日本では話題にもなっていないといっています。
超過利潤とは。企業の営業努力にかかわらず得られる利潤です。
働かざるもの食うべからずにしないと人間は努力しなくなるので、社会の進歩(労働生産性の向上)がとまってしまいます。中国が、市場経済を受け入れてから経済発展したのは、「働かざるもの食うべからず」にしたからです。
もちろん、憲法の定めるように、人権問題からみれば、働かなくとも(失業しても)、健康で文化的な最低限の生活が保証される必要があります。
しかし、憲法のいう働かないことと、超過利潤は、別ものです。
株主は、直接労働しませんが、資金を労働者のいる企業に預けます。株主の利益は、労働者の労働が経済的利益を得て始めて還元されるものであって、そこには、労働が介在していますから超過利潤ではありません。株主は、資金の管理を、企業に任せているわけで、資金のリスクを企業と共有しています。超過利潤には、労働が関与しないため、このようなリスクがありません。
日本経済にとって、超過利潤に対する課税は根深い課題ですが、取り上げられることは少ないです。
2-1)バブルの歴史の再構築
1990年代に土地バブルがはじけて、日本経済は、失われた30年に入ります。
歴史を再構築しないヒストリアンは、1990年代までの日本経済はよかったと言いますが、これは現実の因果を見ていません。
異常な土地バブルが生じた原因は、地価の超過利潤に対する課税を行わなかったためです。
道路が近くを通ると地価が上昇します。この地価上昇は、土地の所有者の経営努力によって生じたものではありませんので、超過利潤です。
欧米では、地価の超過利潤によって生じた利益は、売買時に、課税の対象になります。
このため日本以外では土地バブルにならなかったのです。
バブルの前に、土地の超過利潤に対する課税を強化しておけば、あそこまで、ひどいバブルにはなっていません。
当時は、土地の価格上昇の超過利潤を主な所得源にしていた政治家が多かったため、課税は実現しませんでした。
2-2)円安の超過利潤
2022年11月10日の日経新聞の7面のオピニオン欄に梶原誠氏は、円安で5兆円の差益が生じているとしています。
円安による企業利益は、企業の労働者の労働によって生み出されていませんので、筆者は、超過利潤と考えます。
円安は、労働者にとっては、基軸通貨のドルに対する実質的な賃下げであり、労働者から企業への所得移転になります。
円安によって、輸出を抱えている企業は空前の利益を上げていて、法人税も空前の金額になっています。
それでも、政府は増税を考えています。
何が起こっているかは、超過利潤を考えれば、わかります。
円安によって、労働者や消費者から輸出大企業への所得移転がおこっています。
これは、超過利潤ですが、現在の税制では、超過利潤の全てが課税される訳ではありません。
円安による超過利潤の全額が課税によって没収されれば、円安が企業に対するメリットはないので、円のレートにかかわらず、企業は労働生産性を上げる努力を継続します。
ところが、現実は、円安による超過利潤の全額には課税されません。企業に膨大な超過利潤が残ります。こうなると独占と同じで、企業は経営努力をしなくなります。
つまり、超過利潤の回収の視点でみれば、空前の金額になった法人税は、税率が低すぎることになります。
2-3)同一労働同一賃金
政府は、同一労働同一賃金といっていっていますが、正規と非正規の差、男性と女性の差が依然としてあります。
ここでは、正規労働者の賃金あるいは男性の賃金が、正常な賃金であると仮定します。
この仮定に立てば、同一労働に対して、非正規の賃金を下げている、あるいは、女性の賃金を下げていることは、労働市場が機能していないことを悪用して、超過利潤を上げているとみなせます。
市場原理の原則は、超過利潤は、不当な利益の上げ方であり、課税して没収すべきであるというものです。
非正規社員を雇っている企業に対して、正規と非正規の賃金格差に課税して超過利潤を没収する、あるいは男性社員と女性社員の賃金格差に課税して超過利潤を没収する法律が通れば、短い時間で、同一労働同一賃金になるはずです。
3)まとめ
以上のように、超過利潤への課税は、市場経済を原則とする資本主義にとって、重要な課題です。
超過利潤の線引きには、技術的な困難はありますが、欧米では、GAFAMに対して、超過利潤への課税が検討されています。これは、資本主義と民主主義にとって、本質的な課題です。
超過利潤がはびこって、健全な市場が破壊されてしまうと技術進歩(イノベーション)がなくなり、経済発展が破壊されてしまいます。
日本では、円安の利益は企業が得て当然であるという議論が先行して、超過利潤の検討が話題に全く上がっていません。
これは、かなり異常な状況です。
超過利潤の考え方は重要なので、次回にも取り上げます。