計算論的思考の哲学(3)データの王国をどう見るか

世界の富の多くが、GAFAなどIT企業に集中しています。

20世紀の初めには、富は、ロックフェラーの石油企業や、カーネギーの製鉄企業に集中していました。そこでは、独占による過剰利潤が生じ、独占禁止法によって、企業分割がなされました。

現在は、GAFAに対して、データの独占による過剰利潤が生じているという反論が多くあります。かつての、石油や製鉄企業を同じように、独占が問題であるという主張です。

しかし、この評価には、嫉妬によるバイアスがあると思われます。

なぜなら、こうした論調は、GAFAをもっていない国から、なされることが多いからです。

富の反対の貧困問題では、最近、日本の賃金(または労働生産性)があまりに低いことが問題視されています。

世界の株式の評価額の大きな企業は、GAFAに偏っています。これから、原田泰氏は、多くの人はGAFAがないことが、日本の賃金が上がらない理由だと考えているといいます。しかし、原田泰氏は、日本の賃金が上がらない原因は、自動化機械あるいはコンピュータによる手作業の合理化に反対する人がいる事であると別の見解を述べています。

梅本哲氏は、「米国では、経営判断も人材育成もデータに基づいた科学的な『生産性をいかに高めるか』が主軸である」が、日本では、科学的な経営判断と人材育成がなされないことが原因であるといいます。

梅本哲氏は、労働生産性から、経営に検討を一般化しています。

ここで、仮に、最も科学的な経営ができたら、企業の利益はどうなるか、考えて見ましょう。

カーネマンは、新著「ノイズ」の中で、人間には、科学的な「統計的思考法」ではなく、科学的な根拠のない「因果論的思考法」に陥るバイアスがあるといっています。

「因果論的思考法」は、マスコミが好む方法です。何か問題が起こると、マスコミには、専門家なる人が出てきて、「原因は何か」というアナウンサーの質問に答えます。しかし、通常、その時点では、十分なデータがありませんので、正解は、「現在のデータでは、原因はわかりません」です。しかし、アナウンサーに押されて、専門家は、「原因は、たぶん、Xでしょう」といった返事をします。これが、「因果論的思考法」です。一般に、「因果論的思考法」が正解にたどり着く確率は、「統計的思考法」に、かなり、劣ります。

カーネマンは、スローシステムに対応する科学的な「統計的思考法」は、トレーニングを受けた人にしかできないと断言しています。

原田氏は、「自動化機械あるいはコンピュータによる手作業の合理化に反対する人がいる」といっていますが、これは、科学的な経営ができないことを意味しますので、GAFAがないこととルーツは同じです。(注1)

これから、「因果論的思考法」による経営をしてる企業よりも、科学的な「統計的思考法」で経営をしている企業の利益が大きくなることがわかります。

次に、企業の経営分野で、科学的な「統計的思考法」が有効に働き易い分野を考えます。その分野は恐らくは、データを主に扱っている企業になるはずです。

つまり、GAFAが、株式評価額の大きな大企業になれたのは、分野を選んで、科学的な経営をした結果の必然だったと考えられます。「因果論的思考法」による経営を排除すれば、データの王国がつくれることをGAFAは見通していた訳です。

Googleに転職した、バリアン氏は、21世紀では、統計学者(データサイエンティスト)が、もっとも、いかす(sexy)職業であるといいましたが、科学的経営のコンテキストで、この言葉を見直してみれば、自明のことをいっている訳です。

ここでは、計算論的思考の哲学を考えたいのですが、その目的は、哲学から、「因果論的思考法」を排除することにあります。つまり、科学的な「統計的思考法」の哲学(頭の使い方)を明確にすれば、真理に近づくだけでなく、企業利益のような実利がえられるはずだと考えます。

注1:

国会で、「『1日で100万円』文通費改革は先送り」になるようですが、科学的な「統計的思考法」に基づく政治ができなければ、GAFAが育たなかったと同じように、国は、傾きます。それは、100万円以上の大きな損失になります。

-「米国の6割程度しかない」日本の労働生産性…低すぎる原因は「人材の能力差」ではない 2021/11/8 幻冬舎 GOLD ONLINE 梅本 哲

https://gentosha-go.com/articles/-/38118?utm_source=headlines.yahoo.co.jp&utm_medium=referral&utm_campaign=relatedLink

-「日本で賃金が上がらない」本当の理由、GAFAがなくても給料は上がる? 2021/11/22 DIAMOND ONLINE 原田 泰

https://diamond.jp/articles/-/287848