超過利潤と個人の所得~経験科学の終わり

(超過利潤は、個人の所得にも拡張可能です)

 

1)個人の所得への拡張

 

超過利潤は、企業の経済活動にかかわる概念ですが、考え方は個人の所得にも当てはめることができます。

 

収賄は、働かないで得た利益ですから超過利潤の一種と見なすことができます。

 

2005年11月17日に国土交通省が千葉県にある建築設計事務所姉歯秀次一級建築士の構造計算書を、偽造していたことを公表したこと姉歯事件は、文書の偽造ですが、その背景には、建築士の名貸しがあります。名貸しとは資格をもっていない人が設計した図面を、資格を持っている人が名前を貸して設計したことにして、手数料を受け取る方法です。

 

姉歯事件では、強度不足の設計があったので問題になりましたが、チームで設計している場合には、手数料が表面化しない(給与の一部になっている)ので、名貸しの線引きは難しくなります。

 

医療の場合にも、治療は医師と看護師がチームで行います。医師が不在で、看護師が、医師を装って、治療した場合には、違法で摘発されます。

 

一方、チームに医師がいる場合には、摘発されることはありませんが、業務の分担には、グレーゾーンが生じます。看護師が行った治療を医師が行ったとして、医療費請求すれば、違法で、超過利潤が生じます。違法行為を行っている医師は少ないと思いますが、システムとしては、違法行為を排除できないグレーゾーンがあります。

 

これらの問題では、厳密な線引きは不可能です。また、摘発によって排除できる超過利潤も、限定されます。

 

なので、超過利潤は、不正行為であるというモラルを徹底することが望ましい対策になります。

 

2022年現在、遠隔医療の治療報酬は、対面医療より、安く設定されています。

これは、技術進歩に対する超過利潤を温存するので、好ましくありません。

 

技術進歩に対する超過利潤の考え方で言えば、次になります。

 

(1)新遠隔医療の治療報酬は、旧対面医療の治療報酬と同じにする。

 

(2)新対面医療の治療報酬は、旧対面医療の治療報酬を技術進歩分だけ引き下げる。

 

(3)つまり、「新遠隔医療の治療報酬>新対面医療の治療報酬」にすべきです。

 

こうすれば、遠隔医療が拡大し、移動に伴うCO2が減り、医療費も節約できます。

 

アップルウォッチなどの健康端末が普及していますので、今後の技術進歩に伴う超過利潤の解消問題は、問題が発生する前に、事前に検討すべきです。

 

技術進歩に伴う医療費の単価の改訂にビジョン(ロードマップ)があれば、医師も、中期的な対応が可能になります。

 

2)年金問題

 

財政が悪化していて、中期的には年金支給額が減少する傾向にあります。

 

2022年11月現在では、増税の議論が出ています。

 

現在の年金制度は、世代間の所得移転システムになっていて、年功型賃金で給与の少ない若年層がさらに負担する構造になっています。

 

このような場合には、従来のように、政治的な力関係で、税率を弄り回すことは混乱のもとになります。

 

現在の高齢者が、受け取っている年金額を、現在の若年層が高齢者になった場合には、受け取れなくなり、減額される可能性が高いです。

 

これは社会的公正(平等性)を欠いています。公平な年金額の議論が、年金額や税率の改訂の前に行われるべきです。

 

現在の若年層が高齢者になった場合には、受け取れる年金金額を基準にすれば、現在の高齢者は、超過利潤を得ている可能性があります。

 

なお、この超過利潤の計算は、将来の経済成長の前提で大きく変わります。

 

今後、労働生産性が上がり続ければ、想定される超過利潤はなくなるはずです。



3)年功型賃金

 

年功型賃金は、技術進歩がない前提で成立する賃金制度で、デジタル社会では、破綻します。既に、その兆候はみえています。

 

若年層が技術進歩に対応し、高齢者が技術進歩に対応できないと仮定します。

 

この場合、両者に同じ賃金を支払うと、技術進歩に対する超過利潤を温存して、技術進歩を止めてしまいます。

 

超過利潤から考えれば、技術進歩に対応した若年層の賃金を、技術進歩に対応できない高齢者よりあげる必要があります。

 

これは、欧米のジョブ型雇用で起こっている実態です。

 

技術進歩に対応できない高齢者と中年層は賃金が減っては困りますので、リスキリングをしているわけです。

 

日本は、年功型賃金になっていますので、技術進歩に対する超過利潤を温存しているだけでなく、加齢に伴う超過利潤を加算しています。

 

この状態では、リスキリングの効果が出ないことは明白です。

 

高齢者は、若年時には、安い給与だったので、高齢になってからその分を受け取るべきかもしれません。しかし、技術進歩がなく、企業が永遠に存続するという前提でなければ、受け取り分の推定はできません。これはかなり無理な仮定です。

 

高齢者には、歴史的な経緯を考慮して、超過利潤を残す必要があるかも知れません。

 

その場合でも、給与の超過利潤分がわかるように、明細を作るべきだと考えます。

 

5)まとめ

 

年功型賃金が成功したようにみえた時代には、次の条件がありました。

 

(1)人口が増加した。

(2)大量画一生産の工業社会だった(レジームの固定)。

(3)中国などの競争ポテンシャルのある国が鎖国していた。

(4)基本的な技術は輸入して、国内では主に部分改良をすればよかった。

(5)市場経済と多様性が経済発展にマイナスに働いた。

 

現在は、デジタル社会へのレジームシフトが進行中です。

 

生態学は、レジームシフトがおこるとメジャーな種が入れ替わります。

 

どの種がメジャーになるかは、事前に予測はできないので、多様性を確保しないと、レジームシフトに失敗して絶滅してしまいます。

 

また、資本主義では、どの種が生き残るかは、市場が決めます。

 

健全な市場がなければ、レジームシフトに失敗して絶滅してしまいます。

 

個人の所得に対して、超過利潤の考え方を適用して、健全な市場を作るべきです。