成長と分配の教育
(成長の教育と分配の教育は分けて考えるべきです)
1)分布を考えること
中央教育審議会は、学校教育のあり方を提示しています。
しかし、そこには、生徒の分布は仮定されていません。
大量生産の工業製品の時代であれば、画一的で質の良い労働者を養成することが教育の目的でよかったと思われます。
しかし、デジタル時代になれば、画一的な労働者を養成しても、経済成長につながるとは思えません。
プロ野球やプロサッカーをみれば、業界を牽引するのは、一部のスター選手で、大きな年収を得て、30代後半には引退します。
IT技術者も、スター技術者になって稼げるのは、40前までではないかと思います。
こうした点でみれば、経済成長にとって問題があるのは、PISAの平均点よりは、大学ランキングです。スーパースターの研究者や技術者に、20代で、スポーツ選手並みの年収を払っているかといえば、そうなってはいません。
分布を考えると、経済成長のための教育とリテラシーを配分するための教育は自ずと異なるべきです。
2022/08/18の日経新聞には、高等学校の進学校の生徒は、医学部希望者が多く、他の学部が敬遠されている、医師以外に高収入を得るロールモデルがないことを指摘しています。なお、医師は、年功型雇用ではありません。勤務医も、開業する人がいるようなジョブ型雇用になっています。これが、卒業後早い時点で、高収入が得られる理由です。
医師のマーケットは国内なので、医師が優秀でも、GDPは増えません。IT技術者に稼いでもらう必要があります。
新聞には、IT技術者が足りないと書かれていますが、足りないと言われているIT技術者は、トッププレーヤーではありません。日本では、スマホのOSやアプリに関連した使用量をアメリカに支払っています。トッププレーヤーのIT技術者は、輸出を増やし、GDPを増加させます。中小企業のDXを進めるIT技術者は、GDPには、そこまで寄与しません。間接的には、製品の輸出競争力を高める可能性がありますが、効果は少ないです。
こう考えると、成長のための教育、成長のための産業をどのように育成するかが焦点であることがわかります。
2)成長の教育
8月に、文部科学省は、数理科系の学部の開設に補助をだす方針を決めました。
一方では、定員割れが5割を越える学部がある場合には、学部の新設を認めないそうです。
ともかく、パラメータの分布を考えていないので、コメントのしようがありません。
ただし、数理系の学部の開設には、数理系の卒業生をふやすという数の論理、恐らくは平均値の論理があると思われます。つまり、ここには、成長のための教育の視点はありません。
2022/08/16の日経新聞(26面)に、宮川繁MIT教授が「新時代の大学教育」というタイトルで寄稿しています。MIT のオープンコースウェア(OCW)とムーク(MOOC)の紹介をしています。これらは、既に良く知られていますが、MITでは、数年前から1年の修士課程の半分をムークで受講できるマイクロマスターズのプログラムを実施しているそうです。この方法ですと大学には、6か月行けば、1年分の単位が取得できます。なお、この方式はハイブリッド教育と呼ばれます。
ムークは現在では、終了認定(マイクロクロデンシャル)をだしており、SNSのアカウントに載せることができます。つまり、就職活動に使うことができます。ムークは無料です。
ただし、マイクロマスターズのプログラムの授業料がどうなっているかは不明です。
ムークの終了率は低いのですが、成長の教育を考えるのであれば、トップグループが終了してくれればそれで問題はありません。
経済成長につながるIT人材であれば、数より質が問題です。数理科系の学部を開設しなくとも、ムークでかなり充実できると思われます。
要するに、単位認定、卒業認定をどうするかという問題があります。
ムークで単位がとれていても、同じ内容の授業を受けることは馬鹿げています。
宮川教授は、(米国の)「伝統的な大学には、過去30年間イノベーションと呼ばれるものがほとんどないのではないか」と疑問を呈しています。
3)分配の教育
最後に分配の教育についても述べておきます。
高等学校の無償化の希望があります。これは、配分の教育としては理解できます。
だれにでも教育機会は開かれているべきという原則です。
ただし、その背景には、今までの高等学校の教育が、成長を目指してこなかった点が反映されています。
数理科系の学部の開設以前に数学の扱いを考えるべきです。
数学は、積み重ねなので、これを確実に理解できないと数理系の学部の学習内容は理解できません。2000年くらいに、算数ができない大学生問題が出てきましたが、その後のフォローアップはなされていないと思います。
数学がわからないと理解できない問題が多数あります。
今まで、数理系の学部の定員が少なかったので、表面化していませんが、この部分をクリアできないと、前には進まないと思われます。
4)まとめ
問題点というか、わからない点は、以下です。
(1)成長のための教育、学生の成績分布を考えた教育がない
(2)落ちこぼれ問題など、初等、中等、高等教育のリンクが図られているようには見えない、
(3)ムークなど世界のデジタル教育、あるいは、世界の大学教育、労働市場を考えていないように見えます。具体的なイメージで言えば、韓国のBTSのような感じです。