(成長と分配は経済学の基本です)
1)成長と分配の基本的な考え方
この原稿は、2022/07/10の参議院選挙の投票中に書いています。
以下の原稿は、ラフスケッチです。今回は、バックデータはつけていません。
全体のロジックが長くなるので、バックデータなしに、論理展開だけをしてみます。
経済学の基本は、成長と分配です。
分配の平等性の極端な例は、共産主義で、経済が成長しなくなりす。要するに、余分に働いても、働かなくとも給与が変わらなければ、余分に働く人はいません。余分に働くことはいいことだというプロテスタントの信条と資本主義が繋がっていることをしたのは、マックスウェーバーです。
基本的なアイデアは次のパターンです。
分配優先政策:IF (分配>成長)then (経済成長が低下)
成長優先政策:IF (成長>分配) then (貧富の差が拡大)
極端なリバタリアンで、リベラリストで、貧富の差を問題にしない人もいますが、余りに貧富の差が大きくなると治安が悪化して、コストがかかるようになります。なので、それはなしとすれば、
一般には、
「経済成長が低下」したら、成長優先政策に切り替え、
「貧富の差が拡大」したら、分配優先政策に切り替えて、
バランスを取ります。
中国は、最近、分配優先政策に切り替えていますので、経済成長は減速しています。
日本の場合は特殊です。
2)バブル以降
バブルの調整では、家計部門から金融機関への膨大な所得移転がなされました。
これは、分配政策ですから、経済成長を止めてしまいます。
なお、通常の分配政策は、貧富の差を縮小するために行います。
しかし、家計部門から金融機関への膨大な所得移転は、格差を拡大します。
年金会計の現役世代から、高齢者への所得移転も格差を拡大します。
つまり、バブルの調整では、貧富の差を拡大する分配政策が可能になりました。
封建時代であればともかく、近代の民主主義国家では、貧富の差を拡大する分配政策は、経済を破壊するので行われません。
3)小泉竹中改革
バブルの調整局面が終わった2000年代に入っても、日本は経済成長できませんでした。
ここで、小泉竹中改革が出てきて、非正規雇用を拡大します。
小泉竹中改革は、競争を強めて、資本主義の悪い面を拡大したという社会主義的な説明がなされることが多いですが、それは間違っています。(注1)
小泉竹中改革の結果、労働生産性は、下がっています。
成長優先政策であれば、労働生産性が上がるはずです。
小泉竹中改革は、非正規雇用の拡大で、労働者の平均賃金を下げました。
つまり、小泉竹中改革は、円安と非正規雇用の拡大と労働分配率の低下によって、労働者から、企業に所得移転をした分配政策でした。これも貧富の差を拡大する分配政策です。
貧富の差は拡大したのですが、それは、成長政策によってもたらされていません。
くりかえしますが、成長優先政策は、労働生産性を向上させます。
小泉竹中改革は、成長優先政策ではなく、分配政策でした。
分配政策では、経済成長はしません。
4)成長政策に必要な要素
疑問:どうして小泉竹中改革は、成長優先政策ではなく、分配政策だったのでしょうか。
小泉竹中改革が、成長優先政策であれば、貧富の差が拡大したかもしれませんが、経済は成長し、労働生産性はあがって、DXが進んでいたはずです。その場合には、課題は、労働分配率であって、岸田首相がいうように、配分を問題にすればよかったはずです。しかし、小泉竹中改革では成長優先政策は行われませんでした。
疑問:成長優先政策に必要な要素は何でしょうか。
エマニュエル・トッド氏は、「第三次世界大戦はもう始まっている」の中で、真の経済力はエンジニアで測られると主張しています。2019年のOECD調査では、高等教育の学位取得者のうちエンジニアが占める割合は、米国7.2%、ドイツ24.2%、韓国20.5%、日本18.5%、ロシア23.4%で、米国は、圧倒的に不足しています。
エマニュエル・トッド氏は、米国は、エンジニアの不足を、他国からの人材輸入でまかなうことで、経済成長をしてきたといいます。
確かに、ソニーが輝いていた時代は、トップはエンジニアと経営の2頭立てでした。
ホンダも、世界的な企業になる前から、エンジニアが新しいクルマをつくっていました。
エマニュエル・トッド氏の考え方に従えば、日本が経済成長できないのは、エンジニアを活用できていないからだということになります。
つまり、次の、疑問に答えられる解答を探せばよいことになります。
疑問:日本は、本当にエンジニアを活用できなかったのか、活用できなかったとしたら、その原因は何か。
この問題は、次回に考えます。
本日(執筆日)は、参議院選挙なので、1つだけ補足しておきます。
それは、与党も野党も、公約は、全て分配政策に関するものだけで、成長政策に対するものはありませんでした。
これは、貧富の差を拡大する分配政策を行ってきた反動と思われますが、成長政策が公約にならないのは、非常に、恐ろしいことだと思います。
注1:
小泉竹中改革から、アベノミクスまで、基本的な経済政策の方向は変化していないので、ここでは、小泉竹中改革で代表させて考えます。