ウクライナとノルドストリーム2

ウクライナ紛争のキーは、遠藤誉氏や、加谷珪一氏の指摘するように、ロシアのエネルギー資源問題であり、その中心は、ノルドストリーム2とノルドストリームにあると思われます。

 

2022/02/18の環日本経済研究所(ERINA)によるとロシアの中国への天然ガスの輸出計画は、以下です。

 

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ガスプロム中国石油天然気集団(CNPC)がロシア極東ルート(シベリアの力3)の天然ガス売買契約を締結したことを、ガスプロム側が発表しました。

 

現行のガスプロムとCNPCの最初の契約は30年の予定で2014年に締結されました。この契約は年間380億立方メートル(38BCM)の天然ガスを「シベリアの力」パイプラインで輸出するものです。

 

2022年1月末にはモンゴル経由の天然ガスパイプライン「ソユーズ・ボストーク」のフィジビリティ・スタディ(FS)が終わりました。2024年の着工が予定されているこのパイプラインは天然ガスパイプライン「シベリアの力2」に接続し、世界で最もダイナミックに成長する中国天然ガス市場に年間約50BCM輸出を可能にします。

 

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つまり、ロシアの中国への天然ガスの供給計画は、現在は、2024年に満杯になる「シベリアの力」が稼働していますが、追加ルートは、これからになります。

 

2019/07の石油・天然ガスレビューで、原田大輔氏は、次の様に述べています。

 

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ウクライナ経由のガス輸送能力は142BCM に上り、過去最大のロシア産ガスの輸出量を記録した 2018 年ベースでも輸出量(2 0 0.8BCM)の内、ウクライナはその 4 3%(87BCM)をトランジットしている(他方、稼働率は 6 1%に下がっている)。しかし、2006 年に発生し 2009 年に再燃前述してきたウクライナ天然ガス供給途絶問題を経て、ロシアは 2 0 1 1 年にドイツ向けに Nord Stream(55BCM)を実現し、Nord Stream2(55BCM)およびトルコ向け(将来的にはイタリア・オーストリアへ延伸)に TurkStream(3 1.5BCM)を建設中である。これら 3 つのパイプライン輸送能力の積算は現在のウクライナのガスパイプライン輸送能力とほぼ同じ141.5BCM(≒ 14 2)になる。つまり、ロシアは正にウクライナ代替ルートを実現するべく、Nord および Turk 両パイプラインを推進している。

 

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2020/02/17のエコノミストオンラインで、在原次郎氏は、次のように述べています。

 

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天然ガス生産量で世界1位の米国と2位のロシアが、エネルギー覇権を巡る攻防でしのぎを削っている。ロシアが欧州や中国などとの間で大規模なガスパイプライン網を張り巡らす中、米国は「液化天然ガス(LNG)の売り先をロシアに奪われる」と危機感を強めており、シェア争奪戦で巻き返しを図るとみられる。

 

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2020/02/17のエコノミストオンラインに、原田大輔氏は、次のようにのべています。

 

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ロシアは現在、総事業費で約11兆円、総供給容量で世界5位の日本の年間需要量を凌駕(りょうが)する3大国際天然ガスパイプラインプロジェクトを推進し、実現しつつある。

 

 3大プロジェクトとは、中国向けの「シベリアの力」、トルコ向けの「トルコストリーム」、ドイツ向けの「ノルドストリーム2」である。シベリアの力は2019年12月に、トルコストリームは2020年1月に大々的な開通式典を開催した。ノルドストリーム2は94%が完成したが、欧州市場におけるロシアの天然ガス支配を警戒する米国が昨年末に新たな制裁を発動し、現時点で工事が中断している。

 

 ユーラシア大陸の東方(「シベリアの力」)、西南方(トルコストリーム)、西方(ノルドストリーム2)が既存のロシアの天然ガス輸送インフラに加われば、輸出能力は現在の1・5倍に増加する。さらにロシア産LNGを輸出する二つのプロジェクト(2009年稼働の「サハリン2」と2017年稼働の「ヤマル」)を加えると、現在の欧州のガス需要の8割をカバーする輸出能力を持つことになる。実際、2019年の欧州におけるロシア産ガスのシェアは急増し、5割に迫る勢いを示している。

 

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ここまでをまとめると、ロシアは、2006 年に発生し 2009 年に再燃前述してきたウクライナ天然ガス供給途絶問題によって、欧州市場での立場が危うくなったので、ウクライナを通過せずに、天然ガスを供給できるように、2011 年にドイツ向けに ノルドストリーム(55BCM)を実現し、2021年にノルドストリーム2(55BCM)を、トルコ向け(将来的にはイタリア・オーストリアへ延伸)に 2020年1月に、TurkStream(3 1.5BCM)を完成させています。

 

2014年3月のロシアによるクリミア併合以降、ノルドストリーム2は、米国とドイツの政治的な争点になっていましたが、2020年7月に、メルケル首相は、引退前の最後の仕事として、米国にノルドストリーム2を認めさせています。

 

2022/02/09 日本経済新聞によれば、欧州のロシア産の天然ガスの利用状況は以下です。

 

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英BPによれば、欧州はパイプライン経由でロシアから天然ガスを年間で167.7BCM(2020年、約1億2300万トンに相当)輸入しています。約3分の1にあたる56.3BCMがドイツ向けだ。イタリア(19.7BCM)などに比べて突出して多い。ドイツは消費量の6割以上をロシアに頼っています。

 

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ここまで理解できると、米国の天然ガスを買う要求がかなり無理筋であることがわかります。

 

ウクライナを通過しているロシア産の天然ガスの正確な量は不明ですが、原田大輔氏が言っているように、ウクライナを通過せずに、天然ガスを供給できるように、 ノルドストリーム(55BCM)、ノルドストリーム2(55BCM)、TurkStream(31.5BCM)があるとすれば、現在、ノルドストリーム2は、稼働していませんので、その分は、依然として、ウクライナを通過していると思われます。

 

ロシアは、ドイツとの天然ガスのビジネスを続けたいので、56.3BCM相当の天然ガスを現在も供給しています。ロシアは、ドイツとのビジネスを断絶してもよいと考えれば、天然ガスの供給を中断できます。もちろん、その場合には、ドイツ経済も、短期的には、大きなダメージを受けるので、それは、ドイツの希望しない処置になります。

 

国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの金融機関を排除して、天然ガスの代金を支払わないとすれば、天然ガスの供給は停止します。少なくとも、ドイツが、ロシア以外からの天然ガスの供給ルートを確保するまでは、こうした手段に出ることは不可能です。

 

ウクライナを、まだ、ノルドストリーム2(55BCM)と同じ規模のロシアの天然ガスが通過しているのであれば、ウクライナは、ドイツに対して、戦争によって、ウクライナ経由の天然ガスの供給が停止するリスクのカードを切ることができます。しかし、現実には、このカードは使われていません。

 

戦争が始まっています。しかし、ロシア、ウクライナ、ドイツは、ノルドストリーム(55BCM)とウクライナ経由(恐らく55BCM)の2ルートのロシアからドイツへの天然ガス供給が続くことを望んでいるようにみえます。

 

戦況も、はっきりしません。

 

2022/02/27の文春オンラインでは、「26日、ウクライナ保健省は子ども3人を含む民間人198人が死亡、1115人の負傷者が出たと公表した。軍の被害も甚大だ。ウクライナ大統領府は、ロシア軍の3500人が死亡し、200人が捕虜になったと伝えている。ウクライナ側の被害の全体像はいまだみえていない」と伝えています。

 

ロシア軍の3500人が死亡して、ウクライナ軍の死亡者がわからないというのも不自然です。

 

戦争は続行しているけれど、天然ガスビジネスが続いているようにみえます。

 

在原次郎氏がいうように、「米国は、『液化天然ガス(LNG)の売り先をロシアに奪われる』と危機感を強めており、シェア争奪戦で巻き返しを図っている」のであれば、天然ガスビジネスを変更する次の一手を米国が出してくるようにも、思われます。





ウクライナ侵攻》「太平洋戦争中の日本のような状況」「洗脳されてしまう」プーチン指揮下ロシアの恐ろしすぎる“プロパガンダの実態”と内部に芽生えた“希望”とは 2022/02/27文春オンライン

https://bunshun.jp/articles/-/52349?utm_source=news.yahoo.co.jp&utm_medium=referral&utm_campaign=relatedLink



米独、ガス計画めぐる対立に終止符 ウクライナ支援合意 2021/07/22 日本経済新聞 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2215F0S1A720C2000000/

 

ガスプロムはロ極東ルートでの対中天然ガス輸出契約を締結 2022/02/18 環日本経済研究所

https://www.erina.or.jp/columns-today/146149/

 

3大パイプラインで目指す「グレートゲーム」の覇権=原田大輔 2020/02/17 エコノミストオンライン

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200225/se1/00m/020/055000c

 

ロシアが急速に進めるガス供給ルート多様化の背景に迫る 2019/07 石油・天然ガスレビュー 原田大輔

https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/812/201907_19a_new_02.pdf

 

日本への「追い風」 今後だぶつく米国産LNG 長期契約を見直す契機に=在原次郎 2020/02/17 エコノミストオンライン

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200225/se1/00m/020/056000c

 

ロシア・ウクライナガス紛争 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%82%B9%E7%B4%9B%E4%BA%89

 

ノルドストリーム wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0

 

バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛 2022/02/25 中国問題グローバル研究所 遠藤 誉

https://grici.or.jp/2927

 

経済を理解しなければ、ウクライナプーチンが「賭けに出る」理由は分からない 2022/02/22 ニューズウィーク 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2022/02/post-175.php



ロシア―欧州間パイプラインとは 独、消費量の大半依存 2022/02/09 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0860Q0Y2A200C2000000/

 

完成近づくロシアとドイツのパイプライン 浮上した新たな火種 2021/07/01 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20210630/k00/00m/030/400000c