ロシアの情報操作と出口戦略

ウクライナの戦争が始まって予想外であったことは、ロシアの情報統制が有効であった点です。

 

ペレストロイカの原動力は、欧米との経済格差が、市民に伝わったためと言われています。

特に、もともと、同じ国であった東西ドイツでは、その格差は、体制の経済政策への批判につながったと思われます。

 

インターネット時代になって情報統制は、困難になりましたが、中国は、国の内外でインターネットを分断しています。また、インターネットの情報統制のために働いている人の数は、100万人を越えるといわれています。

 

ですから、中国では、例外的に、インターネット時代でも、情報統制が可能です。一方、ロシアは、手の込んだインターネット統制はしていませんので、情報統制が簡単にできるとは思えません。

 

しかし、現実には、ロシア市民の多くは、現政権を支持し、ウクライナ国民は、ロシアの侵入を喜んでいると思っています。一方、ネットワークが遮断されましたので、変調に気づいている人も多いはずです。

 

[03/07 CNN OPINION」 ダグラス・ロンドン氏は、プーチン氏が、正確な情報を把握できていないのではないかと推測しています。これは、身辺にイエスマンを配置すると都合の悪い情報は入ってこなくなるからです。

 

[01/14 NHK] 国交省の統計データ書き換えでは、検証委員会の報告書では「事なかれ主義の現れ」が指摘されています。これも同じ構造で、問題があっても、そのことが上司にわかると降格になりますので、問題がないという情報が捏造されます。「事なかれ主義」という日本語には、悪意がないというニュアンスがありますが、問題は、データを書き換えたことではなく、組織のガバナンスが機能していなかった点にあります。問題点を指摘した人が、昇進するような組織のガバナンスになっていないと、不正や、虚偽報告はなくなりません。

 

ダグラス・ロンドン氏は、ロシアでも、同じような情報操作が蔓延していたのではないかと推測しています。

 

つまり、ロシアは、情報統制で、データを書き換えていますが、本当のところ、客観的なデータの把握も出来なくなっているようにも思われます。

 

最大の疑問は、出口戦略です。

 

サム・ポトリッキオ氏は、次のように指摘しています。

 

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[03/03 Newsweek サム・ポトリッキオ] 若いロシア兵の遺体の山が無言の帰国をする事態はまだ発生していない。通貨ルーブルは暴落し、物価は既に上昇し始めたが、本格的な経済の悪化はこれからだろう。

 

「見えない内戦」が始まったロシアが壊滅的な恐慌に陥る未来はおそらく避けられない。10年前、ルーブルの為替レートは1ドル=30ルーブル以下だったが、今月末には1ドル=300ルーブルになるとも言われている。

 

プーチンの人気と22年間の統治を支えてきたのは、生活水準の向上と安定だ。この2つの柱がわずか2週間でなぎ倒されたように見える。

 

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つまり、兵士が死亡したこと、生活水準の向上と安定の破壊は、情報操作では、一時的にしかカバーできません。これから、真実がわかってきます。

 

兵士が死亡し、生活水準の向上と安定が破壊されたことを前提に出口を設けて、戦略をねる必要がありますが、それは、可能でしょうか。

 

ロシアが、ウクライナを完全に占領する前に、NATOが実質的に動いて、ウクライナ支持を強めることは、ほぼ確実になりました。

 

そう考えると、ロシアの現政権には、出口はなくなったように思われます。

 

つまり、政権交代まで行くのではないでしょうか。

 

ロシアは天然ガスが切り札になるといっています。

 

[リビウ/イルピン(ウクライナ) 7日 ロイター] - ロシアのノバク副首相は7日、ウクライナ侵攻を巡り欧米がロシア産原油の輸入を禁止すれば、原油価格が1バレル=300ドルを超える水準に上昇するほか、ドイツに天然ガスを供給するパイプラインを閉鎖する可能性があると警告した。「ロシアにはノルドストリーム1を通した天然ガス供給の停止を決定する権利がある」とも警告した。

 

しかし、ビジネスは売り手と買い手があって成立します。ビジネスを優先すれば、売り手と買い手の間に、紛争は発生しないはずであるという前提があります。

 

その前提が崩れたので、これは、今更、切り札にはなりません。

 

ロシアが政権交代した場合には、天然ガスと石油の契約は、やり直しになります。

世界経済に占めるロシアの天然資源の割合はあまりに大きく、当面は、2021年と同じレベルの供給を続けてもらわないと、世界大恐慌になりかねません。

 

ウクライナ戦争の当初、戦争によって、米国のエネルギー産業が利益を得ることが指摘されました。しかし、現状では、その想定をはるかに越えた戦争になっており、米国のエネルギー産業より、世界経済の心配をすべきステージになっています。

 

世界大恐慌は悪夢なので、ロシアの政権交代後の資源交渉を有利に進める方向を、欧米は模索していると思われます。

 

中国は、オリンピックまでは、ロシアの現政権が続くという前提で、外交を進めてきました。

 

ロシアの現政権とのパイプを強くすることは、エネルギーの安定供給につながります。中国・ロシア連合に、一帯一路の国を加えれば、世界の半数くらいの国を味方にできるという戦略です。

 

ところが、ロシアで政権交代が起これば、中国は、人権問題を理由に、新政権から、天然資源の安定供給を受けられない可能性があります。

 

中国が、国連人権高等弁務官を5月に受け入れることが決まりました。つまり、中国は、既に、ロシアで政権交代ありを前提とした外交に切り替えている可能性があります。




ジュネーブ 8日 ロイター] - バチェレ国連人権高等弁務官は8日、5月にも自身が訪中することで中国政府と合意したと表明した。訪問先には、約100万人のウイグル族が拘束されていると活動家が指摘する新疆ウイグル自治区も含まれると述べた。国連人権高等弁務官の訪中は2005年以来という。

 

補足1:

NATOは、正規軍の派遣はしないといっているので、外人部隊が2万人ほど入っています。

 2022/03/07のNewsweekで、六辻彰二氏が指摘しているように、外人部隊は、戦後出身国に戻って、テロ集団を形成するリスクがあります。これは、2014年のミンスク合意を温存したEUの政策の結果生じています。端的に言えば、メルケル氏が、紛争を押さえて、天然資源の確保を優先した結果です。外人部隊が、正規軍より問題が少ないとは言えず、その原因は、EUが動いたミンスク合意にある訳です。そこで、今後、正規軍という選択肢が出てくる可能性もあります。

 

補足2:

日本政府は、ウクライナから難民を受け入れる方針ですが、これは、一時的な緊急非難で、永住は考えていないと思われます。以前、高度人材の受け入れと永住化を検討する必要があると指摘しました。

過去にウクライナから、中国に軍事技術の専門家が移住して、中国の軍備のレベルアップに寄与しています。

2022/03/08のNewsweekの六辻彰二氏の記事では、ロシアからの高度人材の国外移住が始まっているようです。今回も、日本は、受け入れ先には、なれそうにありません。



国連人権高等弁務官、5月にも訪中 新疆も訪問へ 2022/03/08 ロイター

https://jp.reuters.com/article/china-rights-un-idJPKBN2L511I

 

ウクライナ侵攻で進むロシアの頭脳流出──国外脱出する高学歴の若者たち 2022/03/08 Newsweek 六辻彰二

https://www.newsweekjapan.jp/mutsuji/2022/03/post-146.php

 

ウクライナ義勇兵」を各国がスルーする理由──「自国民の安全」だけか? 2022/03/07 Newsweek 六辻彰二

https://www.newsweekjapan.jp/mutsuji/2022/03/post-145.php



国交省の統計データ書き換え なぜ起きた?2022/01/14 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20220114.html



【モスクワ発】ウクライナ戦争を熱烈支持するロシア人の心理 2022/03/03 Newsweek 

サム・ポトリッキオ

https://www.newsweekjapan.jp/sam/

 

欧州東部の極秘飛行場、急ピッチで進むウクライナへの兵器輸送 2022/03/08 CNN

https://www.cnn.co.jp/usa/35184573.html

 

ドイツとハンガリー、ロシア産エネルギーへの制裁支持せず 2022/03/08 CNN

https://www.cnn.co.jp/business/35184551.html

 

プーチン氏は裸の皇帝 2022/03/07 CNN OPINION ダグラス・ロンドン

https://www.cnn.co.jp/world/35184498.html

 

原油300ドル超も」、欧米禁輸にロシア警告 停戦交渉合意できず 2022/03/08 ロイター https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-idJPKBN2L5014