ロシアとウクライナの関係が緊張しています。
ロシアとウクライナの関係についての報道は、次の2系統です。
1)海外(主にアメリカ)の発信した情報を翻訳する
2)日本人の専門家がコメントする
ここで、気になった点は、2)です。
それは、日本人の専門家が、ビジョンを述べていないように思われたからです。
ロシアが、今後、どのような行動をとるかというビジョンを提示する方法は、シナリオ分析しかありません。
複数のシナリオを考えて、各シナリオのメリット、デメリットを評価して、その差から、どのシナリオが選択されやすいかという確率を考えます。
このようなシナリオ分析を行わないと、思考が発散して、Aも、Bも考慮すべきだという所で、話が止まって、先に進みません。これは、ヒストリアンの物知りが、陥りやすいパターンです。
ビジョンを明確に出しているのは、SCISです。
SCISでは、次の6つのシナリオを考えています。
(1) 実際には、侵入するのではなく、ウクライナで不規則な手段を使用し続ける。これは、攻撃的なサイバー操作と、プロキシとパートナー、およびオプションとしてドネツクとルハンシクの非政府管理区域(NGCA)でのロシア軍の活動の組み合わせです。
(2) ウクライナ東部の親露派支配地域(ドネツクとルハンシク)を占領する。
(3)ドニエプル川左岸を占領します。ドニエプル川は地理的障壁になります。
(4) ドニエプル川左岸の占領と、クリミアを含むロシアとトランスニストリアを結ぶ黒海周辺の土地を占領します。
(5) オデッサを含む南部の沿岸部を占領し、沿ドニエストル共和国とつなぎ、クリミアへの淡水供給を確保する。
(6)ウクライナ全土を占領し、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人による新たなスラブ三国同盟の結成を発表する。
図1は、SCISのシナリオの説明図です。ドニエプル川は、部分的には、川幅が広く、自然の要塞になっています。このため、ロシア軍がウクライナを占領する場合、ドニエプル川左岸(東側)までの進軍は比較的容易ですが、川を渡ることは容易ではありません。
CSISの記事から、次のことがわかります。
図1で、グレーの斜線が引かれている部分は、ドネツクとルハンシクのウクライナの非政府管理区域(NGCA)です。ここには、ウクライナ政府の実権は及んでいません。また、親ロシア政権なので、ロシア軍が進軍することは容易です。
ドネツクとルハンシクの非政府管理区域(NGCA)は、ドネツクとルハンシクの半分程度なので、現在の政府が管理する地域(GCA)も占領して、ドネツクとルハンシクの全域を非政府管理区域(NGCA)するシナリオが考えられます。
2014年にウクライナ東部で武力による暴力が発生して以来、ドネツクとルハンシクの政府が管理する地域(GCA)と非政府管理区域(NGCA)で人道的取り組みが行われています。2021年2月の時点で、推定340万人が人道支援を必要としており、そのうち167万人がNGCAに所属しています。
紛争の結果、ウクライナはまた、アフガニスタンとシリアに次ぐ、世界で3番目に汚染された不発弾(UXO、unexploded ordnance)と爆発性戦争残存物(ERW, explosive remnants of war )の国になっています。ウクライナ政府によると、ドネツクとルハンシク地域の推定2,703平方マイルがUXO / ERWの存在によって影響を受けています。2019年の時点で、1,000人以上の個人が地雷やその他の爆発物によって死亡しています。政府が管理する地域(GCA)と非政府管理区域(NGCA)の両側のいわゆる緩衝地帯は特に危険ですが、国際的な地雷除去組織は、GCA側でしか作業できません。
残念ながら、「2)日本人の専門家がコメント」からは、これだけの情報は得られません。
SCISに誰でも、アクセスできますから、「2)日本人の専門家がコメント」の価値は、低いですし、「日本人の専門家」の存在意義も、疑われます。
つまり、ラジオやテレビを見るのは時間の無駄で、米国の英語のニュースを見たり、SCISのHPから、情報を得る方が、時間の節約になります。
SICSは、世界のシンクタンクランキングで、第4位の組織です。
表1は、世界のシンクタンクランキングトップ20です。
表1 世界のシンクタンクランキングトップ20
2020 Top Think Tanks Worldwide (US and non-US)
- Carnegie Endowment for International Peace (United States)
- Bruegel (Belgium)
- Fundação Getúlio Vargas (FGV) (Brazil)
- Center for Strategic and International Studies (CSIS) (United States)
- French Institute of International Relations (IFRI) (France)
- Chatham House (United Kingdom)
- RAND Corporation (United States)
- Japan Institute of International Affairs (JIIA) (Japan)日本国際問題研究所
- Peterson Institute for International Economics (PIIE) (United States)
- Wilson Center, FKA Woodrow Wilson International Center for Scholars (United
States)
日本では、日本国際問題研究所が、第8位に入っています。
つまり、日本のシンクタンクのトップは、日本国際問題研究所です。
ウィキペディアには、次のように書かれています。
公益財団法人日本国際問題研究所(にほんこくさいもんだいけんきゅうしょ、英称:The Japan Institute of International Affairs, JIIA)は、中長期的な外交問題の研究を行う日本の政策シンクタンクです。元外務省所管。略称国問研(こくもんけん)。ペンシルベニア大学が発表する世界ランキングにおいて、日本及びアジア地域で毎年1位の研究機関に選出されています。
あたり障りのない記載のようにも見えますが、「中長期的な外交問題の研究」が、ポイントです。ウクライナ問題のような急を要する問題は、対象外になっています。これは、外務省の意向に反する記事は書くな、記事は、事前に検閲するという意味にも読めます。
一方、SCISの記事には、次のようなコメントがついています。
重要な質問 は、国際公共政策の問題に焦点を当てた民間の研究機関である戦略国際問題研究所(CSIS)によって作成されます。その研究は無党派で非独占的です。CSISは特定の政策的立場をとっていません。したがって、この出版物で表明されたすべての見解、立場、および結論は、著者のもののみであると理解されるべきです。
SICSは、毎週、ウクライナ記事を掲載しています。
日本国際問題研究所は、ウクライナ問題について、沈黙を続けています。
日本国際問題研究所以外にも、日本には、外交問題の専門家がいますが、SICSのように、ウクライナ問題のビジョンについて、オープンな議論が行われているとは思えません。
外交問題の専門家は、ヒストリアンだらけで、ビジョナリストが少ないのか、日本の言論の自由は、かなり怪しいのかのどちらかと思われます。
-ロシアのウクライナ侵攻6つのシナリオ 2022/01/19 ニューズウィーク 木村正人
https://www.newsweekjapan.jp/kimura/2022/01/621.php
-The Civilian Impacts of a Possible Russian Invasion of Ukraine 2022/02/02 SCIS
https://www.csis.org/analysis/civilian-impacts-possible-russian-invasion-ukraine
-Press Briefing: The Russian Threat to Ukraine 2022/02/01 SCIS
https://www.csis.org/analysis/press-briefing-russian-threat-ukraine
-Russia’s Possible Invasion of Ukraine 2022/01/13 SCIS
https://www.csis.org/analysis/russias-possible-invasion-ukraine
-The West Has Responded to Russia’s Ultimatum. Is It Enough? 2022/02/01
https://carnegiemoscow.org/commentary/86326
-Can Europe survive painlessly without Russian gas? 2022/01/27 Bruegel
https://www.bruegel.org/2022/01/can-europe-survive-painlessly-without-russian-gas/
-Global Go To Think Tank Index Reports
https://www.gotothinktank.com/global-goto-think-tank-index