カーネマンの「ノイズ」を読む(5)第18章「よい判断はよい人材から」(4)

新年の新聞を読んで

新聞を読むと、成功した人の過去の経験談や、ビジョンがのっています。

新年であれば、会長、社長といったトップが、今後の展望や計画を述べています。

企業だけでなく、経団連などの、団体のトップも、今後の展望や計画を述べています。

しかし、こうしたビジョンに価値はあるのでしょうか。

こうしたビジョンは、「よい判断」でしょうか。

トップになった人は、社内政治で、競争に勝ったわけです。

しかし、その会社が世界経済の中で、競争に勝ったといえるかは、疑問です。

日本にも、GAFAのような企業があって、そのCEOが発言するのであれば、傾聴に値することは確かです。しかし、そのような人は、全体の1割程度ではないでしょうか。

つまり、日本の企業の会長や社長で、過去20年間に、企業を大きく成長させたというエビデンスのある専門家はごく一部です。

こうしたエビデンス専門家の会長や社長が大勢いれば、日本経済がここまで、落ち込むことはなかったはずです。

新聞は、出来れば、専門家の写真の隣に、エビデンス専門家とリスペクト専門家の区別がわかるマークをつけてもらえると、時間の節約になると思います。

なお、ここで、エビデンスというのは、過去10年の間の成功です。DXが進む前の成功体験は、全く参考になりません。ですから、エビデンス専門家にも、現エビデンス専門家と旧エビデンス専門家の区分をつけてもらえと、なお便利です。

競争の所在

経営のエビデンス専門家は、国際市場で、成功をおさめることが条件になります。

最近は、大企業が、ソフトウェアに力を入れています。

2021年7月に日立製作所が、約1兆円かけて米IT企業のグローバルロジックを買収しました。

2021年9月に、パナソニックが、サプライチェーン(供給網)管理用ソフトウエアに特化した米ブルーヨンダーを総額約8633億円で買収しました。

2022/01/04の日経新聞によると、トヨタは、自動車OSのアイリーンを開発するそうです。

しかし、ソフトウェアで、競争に勝つのは容易ではありません。

中島聡氏は、マイクロソフトで、Windows 95Windows 98のチーフアーキテクトなどを務めていますが、マイクロソフトは、社内に競争するチームを2、3本立ち上げて、チーム選抜をおこなって、ソフト開発をしています。

Googleの企業買収で、もっとも成功した例は、2005年にAndroid社を5000万ドルで買収したことだといわれています。1ドル110円とすれば、5000万ドルは、5億5000万円です。 このときは、アンディ・ルービンが、2003年10月にAndroid社を設立して2年しかたっていませんでした。

スマホのOSとしては、iOSとアンドロイドしかありません。Googleは、当初、トヨタのように、スマホOSの自社開発を進めていたといわれていますが、それを、Android社に乗り換えています。

日立製作所パナソニックの企業買収金額とは、3桁違います。

OSの世界で、生きのこるのは、天才がつくったOSだけで、天才を見抜く、鑑識眼が必要です。

2020/12/11の 東洋経済に、丸山 彰良氏が書いたジョブ型雇用の記事の一部を要約します。

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日立製作所富士通資生堂、ヤフー……。多くの大企業がジョブ型を実施する中で、有識者がジョブ型の問題点を指摘している。即戦力度が高く優秀な人材を、「パラシュート人事」で人材を配置すると、現場の不和(既存の組織とのハレーション)を生んでしまう。

ジョブ型は、激しい人材の獲得競争となっていて、アメリカでは、現場の2倍以上の給与を提示して、人材を獲得する会社もある。

ジョブ型の人材の奪い合いは、日本にもいずれやってくるだろうと、(MEJ代表の)古賀氏は予想する。

「雇用のあり方」が根幹から見直されようとしている。経団連は2020年1月、「経営労働政策特別委員会報告」において、必要性に応じて、少しずつ雇用制度を変えていき、2020年には「メンバーシップ型」と「ジョブ型」の組み合わせを推し進めていくと提起した。 しかし、ジョブ型がその企業に本当に必要なのかどうかは、慎重に見極める必要がある。雇用制度の変革は、マネジメント、評価制度、給与、事業構造など、さまざまな範囲に影響が及び、失敗したときの損害ははかりしれない。

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この記事と、大企業が、ソフトウェアに力を入れているという記事は、相いれません。

「ジョブ型の人材の奪い合いは、日本にもいずれやってくるだろう」という問題意識は、現在の競争を無視しています。

「『メンバーシップ型』と『ジョブ型』の組み合わせを推し進め」ることはできません。

ここには、海外企業との競争という意識がありません。

「『メンバーシップ型』と『ジョブ型』の組み合わせ」が、成功したというエビデンスはないと思います。

ジョブ型雇用で能力のある人は、かつて、アップルで働いていたアンディ・ルービンのように、会社をやめて、自分でベンチャーを立ち上げて、ベンチャーが企業買収されることで、収入を得ようとします。これが、現在では、能力のある人がお金持ちになる最短経路です。

このルートが確保されていなければ、優秀な人材は、日本の企業に就職することはありません。

2021/12/21の東洋経済には、「新卒採用の強化と50歳以上の早期退職を同時に実施」している例が、あげられています。

ここには、「『メンバーシップ型』と『ジョブ型』の組み合わせ」が破綻しているエビデンスがあります。

2022/01/04の日経新聞には、コロナウイルスのマスクの発注に、仕様書はつくらず、「くしゃみやせきの飛沫体を防ぐ構造であること」などと業者に口頭で指示しただけであったといっています。仕様書がなかったため、検収できず、不用品の山になったといいます。しかし、ジョブ型雇用であれば、発注者はクビになっているはずです。

マスクには、メンバーシップ型(年功型)という無責任体制の特徴があらわれています。

メンバーシップ型を温存して、競争がさけられるという考えは幻想にすぎません。

エビデンスに基づかないで、こうした幻想にひたっている人が多いので、マスクと同じような不良品が、日本の組織に、跋扈しています。

  • 社員全員「業務委託」にした会社に起きた変化  2020/12/11 東洋経済 丸山 彰良

https://toyokeizai.net/articles/-/394498?utm_source=yahoo&utm_medium=http&utm_campaign=link_back&utm_content=related

  • 人手不足だけど「50代は削減」日本企業のジレンマ 2021/12/21 東洋経済 高城 幸司 :株式会社セレブレイン社長

https://news.yahoo.co.jp/articles/7cd321c9355f3832309747a3c306e1df9fd3f5d9

https://news.yahoo.co.jp/articles/3738fa3425625d433c11f24319705794ff701e2f