ジョブ型組織への移行の課題~経験科学の終わり

(データドリブンな組織をつくる最大の課題はジョブディスクリプションです)

 

1)春闘の終わり

 

デジタル社会型組織に移行するには、データドリブンな組織に再構築する必要があります。

 

これは、ジョブ型雇用の一部です。ジョブ型雇用だけでは不十分で、その先に進む必要があります。

日本の企業は、年功型雇用を継続して、春闘をおこなっています。2022年11月7日に経団連は正副会長会議を開き、2023年春闘に向けた経営側の基本姿勢として、物価高を特に重視し、賃上げに前向きな対応を会員企業に求める方針案を大筋で了承しています。

 

しかし、この対応には、ヒストリアンのエラーがあると思います。数年前から、年功型雇用以外の就職機会が発生しています。その結果、春闘を続けることは、企業は、優秀な人材に対して、能力相応の給与を支払うつもりはないというメッセージを発信していることになります。経団連はそのことに気づいているのでしょうか。

 

既に、GAFA予備校と呼ばれるように、一部のITベンダーでは、人材流出が止まりません。

 

企業が春闘を続ければ、優秀な人材の流出を促進することになります。

 

ITエンジニアを引き止めるために、エンジニアの一部については、年功型でないジョブ型雇用を始めた企業もあります。一方では、若いエンジニアの給与はいくら優秀でも、管理職の給与を超えることはないというガラスの天井があると言われます。

 

年功型雇用に、ジョブ型雇用を導入することで、労働生産性を上げることができると考えている企業も多くあります。

 

ジョブ型雇用にして、出来高払いにすれば、労働生産性が上がると考えている人が多くいます。

 

年功型雇用の組織で、新規採用にジョブ型雇用を採用している場合は、採用企業は、おそらく、そのように考えているでしょう。

 

2)ジョブディスクリプションの課題

 

データドリブンな組織の視点で考えれば、DXに対応できるジョブ型雇用とは、上司がジョブディスクリプションを書ける企業です。ジョブ型雇用で、業績を出来高評価するためには、部下が何をすべきかを明確に定義することが必須になります。企業組織がジョブ型雇用でジョブディスクリプションがあれば、その内容をシステムに移行することで、DXが進められます。

 

逆にいえば、ジョブディスクリプションのない企業のDX投資は、必ず失敗します。

 

次の3つには対応関係があります。

 

ジョブ型雇用<=>ジョブディスクリプション<=>DX

 

データドリブンな組織は、これに加えて、経営の意思決定に、データサイエンスが使える組織になります。

 

大前研一氏は「日本企業が競争力を回復して長期低迷から脱するためにはメンバーシップ型からジョブ型に転換するしかない。しかし、それは至難の業だ、実際、日立製作所ソニーグループ、富士通資生堂、NTTなどがジョブ型を導入しているが、欧米企業並みに成功している企業は見たことがない」といいます。

 

大前研一氏は、日本企業のジョブ型組織の失敗の原因は、「社員1人1人の仕事を的確に評価する具体的かつ詳細な資料」ができないためとしています。

 

大前研一氏の説明は、評価にウェイトをおいていますが、DXを考えると、同じ内容を、評価の課題よりは、ジョブディスクリプションの課題と考えた方が体系的になります。

 

ジョブ型で、給与の水準は、ジョブディスクリプションに書かれた内容の難易度で決まります。これが明確でないと社内で、やっかみや足の引っ張り合いが蔓延してしまいます。

 

霞が関で、深夜まで残業している官僚がいます。

 

年功型雇用の視点でみれば、「深夜まで働くのは大変だろう。この人は、苦労すれば、将来偉くなるだろう」という解釈になります。

 

ジョブ型雇用の視点でみれば、「深夜まで残業するのは、上司がまともにジョブディスクリプションを書く能力がないからだ。早晩、この組織はつぶれるので、この人は機会を見て出来るだけはやく転職した方がよい」という解釈になります。

 

ジョブ型組織では、上司は常に部下の評価を受けています。評価の低い上司からは、部下が逃げ出してしまいます。これは正常な労働市場があるサインでもあります。

 

3)ヒストリアンの認知バイス

 

以上は、欧米の企業や組織であれば、当たり前のことです。

 

筆者が、それをあえてここに書いている理由は、日本の組織には、ヒストリアンの認知バイアスがあると考えているからです。

 

新聞をみても、「霞が関の若い官僚でやめる人が増えている」と転職が異常であるような扱いをしています。

 

ここには、今までの雇用形態が正常であるというヒストリアンの認知バイアスがあります。

 

資本主義では、正常な労働市場があれば、転職は、全く問題ではありません。

 

問題は、正規社員と非正規社員のように、同一労働同一賃金ではない(=労働市場が機能していない)ことにあります。

 

しかし、欧米ではこの当たり前のことが、日本に来ると当たり前でなくなっています。

 

引用文献

 

「働かないおじさん」問題の解決へ 日本企業は「ジョブ型雇用」に転換できるか 2022/10/08 週刊ポスト 大前研一

https://www.moneypost.jp/955477