この問題の報道が混乱しているので、整理しておきます。
論点の混乱の原因は、次にあります。
2021/07/14のニューズウイークで、加谷珪一氏は、次のように述べています。
経産省は「日の丸半導体復活」という勇ましい目標を掲げ、エルピーダメモリやルネサスエレクトロニクス、ジャパンディスプレイなど、国策半導体会社、あるいはそれに準じる合弁企業の設立を促し、政府系ファンドなどを通じて多額の公費を投入してきた。
だがエルピーダは倒産。ルネサスも一時、経営危機に直面し、ジャパンディスプレイは現時点でも巨額赤字を垂れ流している状況だ。
2021/11/12の京都新聞は、次のように書いています。
日本の半導体産業は、1980年代後半に世界シェアの過半を占めた。ところが、その後は海外メーカーが伸長して国際的な地位が低下。公的資金を投入して、各社の事業を統合した国内大手は破綻した。
政府は、産業政策を厳しく点検し、実効性を担保すべきだ。
つまり、経済産業省の産業政策は、失敗続きなので、効果はないのではないかという反論です。
朝日新聞も、同じ論調です。
しかし、2021/11/09のニューズウイークで、加谷珪一氏は、台湾・半導体TSMCの工場誘致は、今までの産業政策とは異なると評価しています。加谷氏は、今回の政策は、「ターゲティング・ポリシーではない」と評価しています。
2021/11/08の日経新聞の記事(元記事不明)を引用している2021/11/13のWoW! Koreaのように、今回も、補助金によるターゲティング・ポリシーであるという報道もあります。
「ターゲティング・ポリシーかどうか」は、重要な点なので、長くなりますが、2021/11/09のニューズウイークの加谷珪一氏の関連部分を要約せずに、引用します。
外資系企業を誘致して国内雇用を創出するというのは、典型的な途上国の産業政策だが、国際競争力を失った日本にとっては現実的な選択肢といってよい。
日本の産業政策はターゲティング・ポリシーと呼ばれ、特定の産業分野に対して補助金や税制などで支援を行い、競争力を強化するというものだった。どの分野が有望なのか事前に政府が決めるというのは計画経済的な手法であり、高度なイノベーションを必要とする現代社会では通用しないというのが世界的なコンセンサスとなりつつある。
ところが日本政府はこの手法に固執し、国際競争力を失った半導体産業に対しても同様の施策を適用。国策半導体メーカーを発足させるなど巨額の支援を行ったものの、成果はほぼゼロという状況だった。
政府はこの現実にようやく気付き、外国の優れた企業を国内に誘致するという現実的な戦略に切り替えた。今回のTSMC進出はその最初の案件である。
(中略)
かつてアイルランドは景気低迷と失業問題に苦慮していたが、米インテルの工場建設をきっかけに半導体や製薬、ソフトウエアなど高度な製造業の誘致を推進。同時に徹底的なIT教育を推進し、優秀な労働者の育成を図った。その結果、多くの国民が高い賃金の仕事に就けるようになり、同国は欧州でも指折りの豊かな国となった。
同じ工場の誘致でも、教育政策とセットにすることで、より高い賃金が得られるという現実をアイルランドは示している。
つまり、「ターゲティング・ポリシーではない」と評価している理由は、外国企業の誘致であることです。
加谷氏は、アイルランド方式を目指すのであれば、「徹底的なIT教育を推進し、優秀な労働者の育成」が、必要であるとしています。
海外の大学のオンライン講座の認可
2021/11/12 のTBS Newsは、岸田総理は、デジタル化に向けた人材育成を強化するため3年間で4000億円の「政策パッケージ」を創設すると明らかにしています。
岸田総理は記者団に、デジタル化に向けた人材育成を強化するため3年間で4000億円の「政策パッケージ」を創設すると明らかにしました。年内の成立を目指す今年度の補正予算に反映させたい考えです。ただ、その中身について、岸田総理は「民間企業や個人からアイデアを広く募って内容を決めていきたい」と述べるなど詳細は決まっていません。
これは、見るからに、「ターゲティング・ポリシー」です。「民間企業や個人からアイデアを広く募って内容を決めていきたい」では、バックキャストがゼロですから、成功するとは思われません。
加谷氏が、台湾・半導体TSMCの工場誘致を、「ターゲティング・ポリシーではない」と評価している理由は、外国企業の誘致だからです。
同様に、日本の「デジタル人材育成」には、国際競争力がありません。それから考えれば、海外の大学のオンライ講座を日本の大学と同レベルに認可すること、国際オンライン講座を運営している日本の大学には、補助金を厚くして、逆の場合には、補助金を減らすことが有効と思われます。
もちろん、選挙の票を考えれば、投票権のない海外のオンライン大学を優遇することは、もっての他になりますが、そこに、踏み切れるかが、経済の再生のポイントと思われます。
なお、「デジタル化に向けた人材育成」の対象は、最低限の英語ができる人である点は、現在の国内教育でも、変わりありません。
なお、技術者の高度人材の教育と雇用については、英語圏は、各国市場ではなく、世界市場になっています。日本も、この国際市場に入らないと、高度人材の育成と雇用はできないのは、当然のことです。
-
岸田首相 人材育成に「3年間で4000億円」表明 2021/11/12 TBS News
https://news.yahoo.co.jp/articles/9b7cb685450970da255f7e0aab625807706b42c0
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/674711
https://www.asahi.com/articles/DA3S15108971.html
https://news.yahoo.co.jp/articles/60bd881cf7899c08255a8d97fb2e5e8b4b5c267b
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/11/tsmc.php
-
経産省、続発するスキャンダルより大きな問題は「産業政策の失敗続き」2021/07/14 ニューズウイーク 加谷珪一
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/07/post-149.php
前の記事