日本型資本主義と中国型社会主義の貧困対策の比較

岸田政権が、衆議院選挙向けに出した「新しい日本型資本主義」が、乱気流で、きりもみ状態で、どちらに向かって進んでいるのか不明になっています。岸田氏が、安倍政権、菅政権の「日本型資本主義」を否定して、「新しい日本型資本主義」といっても、今まで政権与党にいたわけですから、今までの「日本型資本主義」に対して共同責任があります。まして、閣僚人事をみれば、派閥バランスがあったことは明白です。こうなると、「新しい日本型資本主義」が、意味不明になります。

小幡 績は、「『新しい資本主義』は、中身は何もないので、具体的な被害を経済に与えることはなく、各党の公約の中では一番ましな政策である」と開き直っています。

今回は、中国と並べて、貧困対策の経過と問題点を整理して置きます。

 

岸田氏は総裁選での政策集で、次の様にいっています。


今こそ、成長と分配の好循環による新たな日本型資本主義の構築が必要です。そのため、「新しい日本型資本主義」構想会議(仮称)を設置し、ポストコロナ時代の経済社会ビジョンを策定し、「国民を幸福にする成長戦略」と「令和版所得倍増のための分配施策」を進めます。


ところが、10月8日、衆院本会議の首相の「所信表明演説」からは、「令和版所得倍増」は消えています。

2021年10月12日に、自民党が発表した衆院選の公約からも「令和版所得倍増」は消えています。

2021/10/14のテレビ朝日によると、山際経済再生担当大臣はインタビューで「文字通りの『所得倍増』というものを指し示しているものではなくて、多くの方が所得を上げられるような環境を作って、そういう社会にしていきたいということを示す言葉だと総理はおっしゃっているじゃないですか」と述べています。

と、いう訳で、まともな神経では、話を聞くことはできません。

以下では、「新しい日本型資本主義」と「日本型資本主義」は区別しないことにします。

 

第2次安倍内閣は、2012年12月に成立しています。その後の菅内閣も政策を継承してといっているので、2013年から2021年までは、継続して、アベノミクスが行われています。

2021/10/14の現在ビジネスは、アベノミクスを次の様に、回顧しています。


安倍氏は首相当時、財界人を官邸に呼んで、賃上げやベースアップを求めるなど、禁じ手に近い行動まで取って分配を増やそうとした。「官製春闘」と揶揄されたが、2020年の春闘まで7年連続で賃上げが実現した。それでも企業の利益剰余金、いわゆる内部留保は増え続け、格差は拡大した。全体としては生活が困窮する層が増えたのは事実だろう。


内部留保が減らないのは、金利が低いためと思いますが、それは、さておいて、アベノミクスでは、「再配分政策」、「最低賃金の引き上げ」は、進められました。つまり、「分配」は行われています。

生活が困窮する層が増えたのは、非正規雇用労働の拡大が原因です。再配分の問題ではありません。同一労働、同一賃金でないためです。

アベノミクスで、効果が、期待できたのは、構造改革だけですが、結局、同一労働、同一賃金などの構造改革は、全く進んでいません。したがって、経済が停滞する理由も、はっきりしています。

 

第2次安倍内閣の成立の2012年12月と、ほぼ、同じ2012年11月に、中国では、習近平政権が成立します。

遠藤誉氏によれば、「習近平政権では、反腐敗運動とともに、鄧小平がやり残した『先富論の後半部分』であるところの『共同富裕』に力を入れた。2012年11月の政権発足時の貧困人口は約1億人(9,899万人)だったが、2020年11月の時点で500万人にまで減らすことに成功している」そうです。

それでは、習近平政権は、「共同富裕」をどうして成立させたのでしょうか。それを、遠藤誉氏は、「ハイレベル人材を充実させイノベーションを促進するという流れの中での『共同富裕』である」といっています。

ITなどのハイレベル人材の質と、数で、中国は、日本の大きく追い越しています。

 

 

岸田首相は、10月8日の「所信表明演説」で、次の様に言っています。


まず成長戦略の第1の柱は科学技術立国の実現です。学部や修士・博士課程の再編、拡充など科学技術分野の人材育成を促進します。世界最高水準の研究大学を形成するため10兆円規模の大学ファンドを年度内に設置します。


 

10月12日の自由民主党公約の対応する部分は以下です。


人材力を強化する。 ○10兆円規模の大学ファンドを2022 年度までに実現し、世界と伍する研究環境を構築 するとともに、博士課程学生を含む若手研究人材を育成するための取組みを推進します。 ○高等教育の質の向上に向けて、魅力ある地方大学の実現や、国公立大、私大、高専専修学校への支援、データサイエンス等、今後の社会変化を想定した教育を推進します。


 

この2つは、よく似ていますが、違いがあります。それは、「所信表明演説」であった「学部や修士・博士課程の再編」の「再編」の2文字が、政党の公約には、ありません。

つまり、岸田政権は、選挙戦に入る次点で、政治問題になりやすく、票を失いそうな構造改革を放棄していることがわかります。

筆者は、大学の「再編」だけを格別に重視している訳ではありませんが、「ハイレベル人材」を十分に生み出せるようにするための高等教育の再編は、避けられないと思います。

それから、丁寧に、表現を追跡すれば、恐らく、同様に、他の構造改革も撤退していると予想しますが、チェック仕切れていません。

自民党の公約は、お金はばらまくが、構造改革は行わないのですから、ネオアベノミクスといってよいと思います。

ネオアベノミクスを続ける限りは、中国との技術格差は広がり続け、貧困問題は解決しないでしょう。

 

 

https://www.businessinsider.jp/post-243718

  • 岸田新首相の「耳心地のいい政策」を鵜呑みにしていると迎える、日本の「ヤバい未来」 2021/10/14 現在ビジネス

https://news.yahoo.co.jp/articles/491e707cad48af09a98f76e762cd56ecdb937555

  • 岸田首相の“目玉政策”はどこへ…自民党衆院選公約に「令和版所得倍増」「住居費・教育費支援」記されず 2021/10/14 BUSINESS INSIDER

https://news.yahoo.co.jp/articles/53d4c6ea7b4f0e5c5a6555219b789dbb603e796d

  • 新資本主義会議、女性がほぼ半数 成長と分配へ、月内にも初会合 2021/10/15 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/107b9eed8aa7ca4895cd522dc0146890d9435734

  • 新しい資本主義、月内議論 「成長と分配」具体化 政府 2021/10/15 JIJI.COM

https://news.yahoo.co.jp/articles/1ee9f62e03f6f5c3c3b487407f5354939f2a1823

  • 山際大臣「所得倍増は所得が2倍になる意味でない」 2021/10/14 テレビ朝日

https://news.yahoo.co.jp/articles/4dc81f1716d9638caa9f89b6e752fef4b883aaf5

  • 所得倍増は「所得が2倍になる意味ではない」? 山際大臣の発言に波紋広がる 2021/10/15 HUFFPOST

https://news.yahoo.co.jp/articles/302bdf8765be691787e44dc2a31d8d3b5ee17d17

https://www.newsweekjapan.jp/obata/2021/10/post-72.php

  • 習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視 2021/10/14日 遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

https://grici.or.jp/2695

https://www.jimin.jp/news/press/202112.html

 

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