所得再配分とプランBの政治

衆議院選挙に向けて、与党も野党も、所得再配分を掲げてきました。

今回は、この状況を考えてみます。

現在の政党は、基本は組織票で、雇用形態別の既得利権の保持が、政党の構成要素になっています。

例えば、自由民主党は、農家、中小企業の経営者や、中小企業で働いている人、医師会、看護師会、建設業など業界別に票割ができています。野党も、労働組合が主体の組織票がベースで、大企業の労働者は、支持者の大きな部分を占めます。

このような職域毎に、票割ができ、職域の指示を得て当選する戦略は、ここでは、プランAと呼ぶことにします。

厳密には、公明党は、創価学会とつながっていますので、職域ではありませんので、プランAの例外になります。

さて、プランAで、選挙に安泰で当選できる場合には、戦略を変更する必要はありません。

与党も野党も、所得再配分を持ち出してきたということは、プランAだけでは、選挙に当選することが難しくなっているためと思われます。

しかし、与党も野党も、プランAを取りやめるつもりはありません。そうなると、2足の草鞋(わらじ)をはくことができるかという点に、問題が集約されます。これは、基本的には、無理です。

所得再配分とプランAは、利害関係が相いれません。そうでなくとも、自民党の場合、支持団体の間に、利害関係があって、本来は、対立しても、不思議ではないところを、グレーゾーンで、調整して、ひとつの政党としてまとまっている訳ですから、これ以上のタコ足ができるとは思えません。

実際に、金融所得課税は、どこかにいってしまい、自民公約「党高政低」になっています。つまり、プランAに先祖帰りしています。

2021/10/13の毎日新聞によれば、立憲民主党は、 公約「政権政策2021」で、「1億総中流社会の復活」を掲げ、「新型コロナに対応した医療、介護従事者に20万円など慰労金を支給。一時的に、年収1000万円程度以下の人に所得税を実質免除し、低所得者に12万円を現金給付する。富裕層や超大企業への優遇税制を是正するため、所得税最高税率を引き上げる。法人税所得税同様の累進税率を導入する。これらの措置で所得再分配を強化し、『分配なくして成長なし』と」しています。

この公約は、政権をとれないから出しているようにも見えます。大企業の労働組合が支持母体であれば、この公約は、プランAと相いれません。

自民党は、国内で、対立する職域をグレーゾーンでまとめているため、外交においても、グレーゾーンを貫く傾向があります。

12日のG20でアフガン支援策が議論されました。2021/10/13のJIJI-AFPは、「EUは冒頭で、緊急人道支援や、タリバンから逃れたアフガン人を受け入れている近隣諸国への資金提供などに10億ユーロの拠出を約束。支援金は、他国から正式な政権として承認されていないタリバンの暫定政権ではなく、現地で活動する国際機関に対するものだと強調した」と伝えています。タリバン政権とは協議するが、当面は、正式な政権としては、認めないことを明確化しています。G20 には、タリバン政権を正式な政権として承認した、ロシアと中国は欠席しています。

2021/10/12の朝日新聞は、「日本政府によると、岸田首相は人道危機に対応するため、6500万ドル(約71億円)規模の新規分を含め、今年中に総額2億ドル(約220億円)の支援を行う考えを表明。『タリバンがテロ組織との関係を断ち切ることが不可欠』との認識を示した」と伝えています。

2021/10/13の 毎日新聞は、「首相はアフガンが深刻な人道危機に直面しているとの認識を示し、日本として総額2億ドル(約220億円)の支援を国際機関を通じて年内に実施する方針を説明した。支援の実施には援助従事者の安全確保などが欠かせないとし、『タリバンがテロ組織との関係を断ち切ることが不可欠だ』とも強調」と伝えています。

似たような表現ですが、朝日新聞には、「国際機関を通じて」の記載がないので、日本政府が、タリバン政権と交渉しているように読めます。朝日新聞の記事には、問題があります。ただし、毎日新聞も、EUや他の国の動向を伝えていない、つまり、日本政府の発表をコピーしているだけなので、問題です。

タリバン政権の取り扱いは、対中国問題でもあります。時間の問題で、グレーゾーン扱いは困難になると思われますが、それに、耐えられるかが問われるでしょう。

話を戻します。

与党も野党も、当面、大きくは実現の可能性のない所得再配分を取り上げてきたのは、プランAが破綻しかかっているからです。こうした申し訳程度の政策が議論されるのは、プランBを提示した政党がないためです。

プランBは、職域の利権保持ではなく、職域と関係のないカテゴリーで動く政党です。例えば、ゼロエミッションなどの環境政策や、人権政策、人材育成(教育)を優先する政党です。こうした政党がでてきれば、「プランA+所得再配分」といったまだら模様の公約は出せないはずです。

筆者は、所得再配分が悪いといっている訳ではありません。所得再配分は、憲法の健康で文化的な最低限度の生活を保障するところに根拠があります。ちょっと、お金をバラまけばよいというものではありません。これは、人権問題なのです。べーシックインカムなども含めて、論ずる必要があります。また、財源が必要ですが、課税、減税では、ゼロサムゲームになってしまうので、ともかく、労働生産性をあげないと前に進まないはずです。つまり、所得の再配分は労働生産性の向上とセットでないと実現しません。労働生産性の向上は、AIやロボット化になるので職域を破壊します。これが、DXの本質です。アマゾンがリアルな小売りを破壊したのは、その例です。GAFAに課税するとか、ロボットに課税するのは、そこに利益があって、所得再配分ができるからです。日本には、GAFAはないので、課税ができず、再配分する財源は現状では、ほとんどありません。

 

こう考えると、日本に、職域割り当てのプランAではなく、プランBを掲げる政党が出て来る時が、政治の変換点になると思われます。

 

14日に、主要政党の公約が出そろいました。お金をばらまくだけで、成長戦略はありません。結局、本質は、プランAであることが露見しています。

 

経済成長の原動力は、人材です。「経済成長の役に立つ教育ー>教育、再教育による所得の増加ー>労働生産性の向上」のプラスのループを作らずに、経済成長はないと思います。

 

 

 

 

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/10/post-97273.php

  • 首相「ぶれてない」と反論 金融所得課税巡り 2021/10/12 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/0682f73c7ac48f6356a0a5067bf070c2171306f7

  • 「ぶれ過ぎ」野党追及…早くも陰る首相の総裁選公約 防戦の印象拭えず 2021/10/13 西日本新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/4dad793b73486d3766688dd7d927b9639b2edce6

  • 自民公約「党高政低」浮き彫り 「岸田カラー」薄く 2021/10/13 JIJI.COM

https://news.yahoo.co.jp/articles/298f46047526e8ce19b8fe6c5946b3c26ce015a1

https://news.yahoo.co.jp/articles/073c463f702306e4ff80470f9a6667eeb47219f6

  • G20首脳がアフガン情勢を協議 首相、年内220億円の支援表明 2021/10/12朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/3069a48736dcd36e8ebcedb89e139a81b1935b73

  • 首相、アフガン人道支援表明 G20で国際会議デビュー 2021/10/13 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/c22370f1097db64f878567dae1f422a3f64c9655

https://news.yahoo.co.jp/articles/2ffdb419ffb1949970d25d13dd973e7e0699fcfb

https://news.yahoo.co.jp/articles/62062f52f086301defbb1d2034bcd1a3871e3b7f

https://news.yahoo.co.jp/articles/2ffdb419ffb1949970d25d13dd973e7e0699fcfb

  • G20首脳、アフガン人道支援で合意 EUは1300億円拠出へ 2021/10/13 8:10 JIJI-AFP

https://news.yahoo.co.jp/articles/66354732e2f641c4a2eec1aceff437395ca42306

 

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