問題の所在

(問題の所在を考えます)

 

1)テーマ

 

もう、すっかり忘れられていますが、「新しい資本主義」という単語がありました。

 

次のように書かれています。

 

新しい資本主義の実現に向けて

 

成長も分配も実現する「新しい資本主義」の実現に向け、あらゆる政策を総動員します。

 

経済再生の要は、「新しい資本主義」の実現です。

 

市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる、中長期的投資の不足、そして持続可能性の喪失。行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差。自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機。

 

世界でこうした問題への危機感が高まっていることを背景に、市場に任せれば全てが上手くいくという、新自由主義的な考え方が生んだ、様々な弊害を乗り越え、持続可能な経済社会の実現に向けた、歴史的スケールでの「経済社会変革」の動きが始まっています。

 

成長と分配の好循環による「新しい資本主義」によって、官と民が全体像を共有し、協働することで、国民一人ひとりが豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていきます。

 

様々な弊害を是正する仕組みを、「成長戦略」と「分配戦略」の両面から、資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化していきます。

<< 引用文献

「新しい資本主義」ってなに?

https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/newcapitalism/

>>

 

「市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた」という下りは、事実誤認です。政治資金を補助金にキャッシュバックすることで、公平な分配が行なれませんでした。

 

経済学では、市場に替わる原理はありません。

 

市場均衡が成り立たないと、経済学の公式は、まったく使えなくなり、経済政策が成り立ちません。市場は、放任すれば、なくなってしまうので、公正な競争が実現するように制御する必要があります。

 

市場がなくなった社会主義の経済政策がいかに、悲惨な結果をもたらしたかは、歴史を見ればわかります。そこには、飢餓と貧困があふれています。

 

労働市場がないので、スキルのある人の賃金が上がりません。

 

「資本主義がもたらす便益」は、経済学者が読めば、理解不可能です。

 

今から読みかえしてみても、アメリカやイギリスの政府は、ここまで、大胆に新しい経済学を創造することはないと思います。

 

さて、それはさておいて、「新しい資本主義」のテーマは、「経済成長」と「分配(貧困対策)」でした。

 

「経済成長」は、第1に、労働生産性の向上です。

 

「分配(貧困対策)」は、イギリス流にいえば、所得階層で、下位から20%の人の所得を再配分によって確保することです。

 

この2つの問題を提示すれば、学会や産業界の叡智を集めて、政策提案を競えばよいことになります。

 

実際には、利害関係者の専門家会議が、利益誘導を続けています。

 

おそらく、選挙に負けるまでは、「経済成長」と「分配(貧困対策)」は建前であって、本音では問題は気にしていないという状態が続くと思われます。

 

欧米の政権をみれば、経済政策が失敗すれば、与党が入れ替わります。

 

野口悠紀雄氏は、「新しい経済成長の経路を探る」という連載で、経済政策の問題点をしてきしています。筆者の視点では、帰納法偏重に見えますが、基本的な指摘は、正しいと思います。

 

しかし、政府には、経済政策の問題点を改善するつもりはまったくありません。

 

過去の政策をモニタリングして、問題点を把握して改善することもしていません。

 

つまり、本音のところでは、政府は、「経済成長」と「分配(貧困対策)」には、関心がないことになります。

 

2)変えないこと

 

政府は、「経済成長」と「分配(貧困対策)」には、関心がないのですが、それは言い換えれば、現状維持をしたいということです。

 

変わらない日本という表現がなされることがありますが、政府の政策の目的は、現状維持であり、現在の利権構造の継続にあります。

 

1月15日に行われた第1回のアイオワ州党員集会でトランプ候補が50%を超える支持を獲得しました。

 

トランプ前大統領は、共和党の政策を大きく変えました。

 

2013年6月14日発表の「日本再興戦略]」で全体像が明示されたアベノミクスは、第3の矢の産業構造の変革を生みませんでした。

 

10年間産業構造を凍結すれば、生産性があがらず、貧しくなるのは自明です。

 

政府は、産業構造を変えないことを選択して、その結果、日本は貧しくなりました。

 

産業構造の変革には、時間がかかり、慣性があります。

 

米電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は24日、中国の自動車メーカーは、貿易障壁がなければ世界の競合相手を「駆逐」するだろうと述べた。

 

<< 引用文献

イーロン・マスク、中国EVを警戒...貿易障壁なければ「世界を駆逐するだろう」2024/01/24 Newsweek

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2024/01/ev-49.php

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イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が今年の売上高の伸びが鈍化するとの見通しを示したことを受け、売りが広がり、1月25日の米株式市場で電気自動車(EV)大手テスラの株価が12%大幅下落しました。

 

トヨタの売り上げは大きくなっていますが、イーロン・マスク氏が問題にした中国の自動車メーカーとの競合問題については、安泰とは言えません。

 

トヨタのEV展開も、最短でも2、3年かかります。



日本人には、トランプ候補の人気が高い理由が理解できない人が多いようです。

 

しかし、アメリカ人からすれば、日本を変えない候補が選挙に勝てる理由はわからないというでしょう。

 

2020年のThe New York Timesの記事は、トランプ支持者は、「安定した中産階級層の源だった製造業は共和党民主党の双方から見放された。だが、トランプはアメリカの産業の救世主」だといいます。

 

<< 引用文献

トランプ「経済政策」がこんなにも人気の理由  2020/10/29 東洋経済 The New York Times

https://toyokeizai.net/articles/-/385030

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同じ論理を当てはめれば、「新しい資本主義」が問題にした「格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる、中長期的投資の不足、そして持続可能性の喪失。行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差。自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機」は、自民党の政権下で起こっています。

 

つまり、自民党内に、トランプ氏並みの過去の政策を否定する候補が現れない限り、選挙にかてる理由はみつかりません。

 

日本に、トランプ氏のような政治家が現れないことが、悲劇の原因かもしれません。

 

本音は変えないことにあると理解すれば、現在起こっていることは、理解可能です。

問題の所在を、考えないと、努力は徒労になります。