人口減少と産業構造(9)

アイリスオーヤマの研究(2)

人口減少と産業構造のシリーズは、小説の下調べです。

小説のテーマは、財政破綻しそうな自治体をDXで救うビジネスマンの話です。小説ですから、このDXツールは、かなり優秀な性能を持っています。そこまでは、プロットを作りました。

しかし、そこで、筆が止まりました。

DXが成功する条件は、DXツールの性能だけではなく、受け入れ側の組織に必要な条件があるのではないかという疑問です。その条件を明確にしないと、小説の執筆が進みません。

大手家電メーカーは、LEDを作って売っています。最初は、高級品です。しかし、量産効果が出てくれば、価格が下がって普及品になります。アイリスオーヤマは、従来の4分の1くらいの価格設定をして販売します。(注1)アイリスオーヤマ以外にも、中国などの途上国のメーカーは、同じような価格設定をしています。大手家電メーカーも同じような価格設定をできれば、同じように売れますが、そうでなければ、売れなくなります。コモディティになった製品では、価格を下げられないと売れなくなります。

大手家電メーカーもLEDを売り続けるためには、人件費の安い海外で生産するか、ロボット工場で生産するしかありません。

LED以外の家電製品では、大手家電メーカーでは、海外生産も増やして低価格製品も販売しています。しかし、アイリスオーヤマのように、国内工場はロボット化、海外工場は安い人件費と割り切っているメーカーは少ないです。

アイリスオーヤマのもう一つの注目すべき例は、サッカーグランドの販売にみられます。

2008年にグループ会社となったアイリスソーコーは、ゴルフの練習場に使う人工芝でトップのシェアです。そこで顧客から『競技場用の照明も手がけているので、競技場用の人工芝も合わせて提供しては』という声が寄せられ、参入を検討するようになります。

2018/05/23に、アイリスオーヤマは、角田I.T.P.構内に、サッカーグラウンド(105m×68m)ナイター照明塔6基を、新設します。LEDと人工芝は自社製です。LEDをつかうと、消費電力が少ないので、特別な電源施設がなくても、夜間照明付きのグランドが作れます。(注2)

2019/03 には、スポーツ施設市場に本格参入し、「LED照明やサイネージ、競技場・多目的グラウンド向け人工芝、スタジアムチェアなどの内装商品を主力とし、完成後のメンテナンスも請け負って」います。

この2つの例は、他社と比べたビジネスのモデルの違いを際立たせています。

アイリスオーヤマでは、総売上高・新商品売上高比率約60%を目標にしています。(注3)

これは、Google Xやアマゾンと同じ方針です。つまり、経営環境が目まぐるしく変化し、プロジェクトをスタートする適期を判断できない、いっぽうで、チャンスを逃すと後がない状態と考え、ひたすら、新しいチャレンジをして、失敗したら撤退する方針です。

企画から商品化まで3ヶ月というスピード開発は、達成目標があって、逆算して、開発スケージュールを決める方法で、複数の工程を同時並行で進めないとできません。文献には、書かれていませんが、3か月で開発するということは、販売開始から、遅くとも、3か月で、状況判断をして、6か月で、ダメなら撤退しているはずです。撤退するには、事前に判断する時期をきめないと撤退できません。もちろん、3か月、6か月と予想通り、または、それ以上の売り上げがあれば、商品は製造、販売し続ければよい訳ですが、撤退するには基準が必要です。

アイリスオーヤマでは、大手家電を退職した技術者を中途採用しています。そうすると、大手家電との違いは、技術にあるのではなく、経営の問題にあると考えられます。

大手家電の経営では、バックキャストが出来なかったと考えられます。バックキャストはヒューリスティックではありません。スロー回路を使う必要があります。ファスト回路ばかり使ってきたので、スロー回路が使えない、認知上の問題に達していたのでは、ないでしょうか。

 

注1:江崎によれば、「2010年3月に LED 照明事業に本格参入をした。当時、他社が1個1万円程度で販売していた LED 照明を、アイリスオーヤマは2500円程度で製品化することに成功した」

注2:江崎によれば、「敷地内には人工芝を敷き詰めたサッカーグランドもある。これはアイリスオーヤマのスタジアム用の LED 照明を販売する際に、人工芝もセットで発注できるように考えられたとのことである。スタジアム用の LED 照明は発電機で設置できるため、大規模なインフラ電気工事が不要であり、コストも抑えられ導入がしやすい」

注3:江崎によれば「様々な部門が(「新商品開発会議」を通じて)同時に商品開発に関与する「伴走方式」によって企画から商品化まで3ヶ月というスピード開発が、総売上高・新商品売上高比率約60%を可能にしている」

[アイリスオーヤマ]スポーツ施設市場に本格参入! その背景と今後の展望に迫る 2019/06/01 建設通信新聞 https://www.kensetsunews.com/web-kan/323639

サッカーグラウンドを新設しました 2018/05/23 https://www.irisohyama.co.jp/news/2018/0523.html アイリスオーヤマに学ぶ急成長ビジネスモデル 長崎県立大学論集(経営学部・地域創造学部) 第53巻 第1号2019/6/30 江崎康弘 http://reposit.sun.ac.jp/dspace/handle/10561/1564 http://reposit.sun.ac.jp/dspace/bitstream/10561/1564/1/v53n1p1_ezaki.pdf 急成長するアイリスオーヤマの現在(いま)江崎康弘 経営センサー 2019.10 東レ経営研究所 https://cs2.toray.co.jp/news/tbr/newsrrs01.nsf/0/27B027B45CFBE08F492584940028D743/$FILE/K1910_024_028.pdf アイリスオーヤマ株式会社の競争戦略 内田康郎 富大経済論集,第62巻第1号,2016.7,pp. 173-185

https://toyama.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=13313&item_no=1&page_id=32&block_id=36 アイリスオーヤマ株式会社の成長プロセスに関する戦略ケース 内田康郎 富大経済論集,第61巻第3号,2016.3,pp. 487-500 富山大学経済学部

https://toyama.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=12578&item_no=1&page_id=32&block_id=36

 

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