コンパクトシティと集住率

2022/01/01/07の日経新聞のHPでは、「集住率」を使って、コンパクトシティ化の推進を評価する記事が出ていました。

データサイエンスの例題として、「集住率」を考えてみます。

集住率

「集住率」は市区町村ごとに「人口集中地区(DID)に住む人口」を「全人口」で割って計算する。ここで出てくる「人口集中地区」とは、総務省が5年ごとに公表する「国勢調査」で設定される地区。全国を約106万に分けた調査区ごとに人口密度を計算し 1)1㎢当たり4000人以上の調査区が隣り合わせで存在する 2)その調査区の合計で人口が5000人以上になる の2条件を満たすと「人口集中地区」になる。人口集中地区が1つもない市町村もあり、このような場合は集住率を「0」としている。 総務省国勢調査をもとに、比較可能な1990年から最新2020年までの7時点で集住率を算出した。人口減少下にあった2010~2020年の10年間の動きと、増加していたそれ以前とを比較するため、2000~2020年の5時点で集住率の10年前比増減ポイントを地図に示した。

集住率が高くなると、コンパクトシティ化(つまり、狭い面積に集中して住んでいる)とはいえない面があります。

茨城県の最近の人口

集住率は、DIDの人口増加だけでなく、DID面積の拡大によっても増えます。


  • 人口集中地区(DID)人口

人口集中地区は昭和35年から設定されたが,その全域人口に占める割合は,人口の都市化を示す指標の一つといわれている。茨城県の人口集中地区人口は,毎回増加しており,今回2020年は 118 , 265人増加して913 , 835人と初めて90万人台に達し,昭和35年時と比べると約2.3倍になった。全域人口に占める割合も増加を続け,今回32.1 %と初めて30 %を超え,これは前回と比較して 2.9ポイントの上昇である。

一方,人口集中地区の面積は,前回より33.5増加して196.1km2と,昭和35年時と比べると約3.8倍の広さになり,人口に比べてその伸びは高い。全域に占める割合も前回より0.55ポイント上昇して3.22 %となっている。

この結果,人口集中地区の人口密度は,前回より232.8人低くなって4660.0人と,昭和35年時の約62 %になったが,それでも全域の約10倍近い高さを示している。


つまり、DIDの面積が拡大すれは、 集住率は上がりますが、その場合には、人口密度は下がります。これを、コンパクトシティ化というのは無理があります。

コンパクトシティ化に対する批判

それから、よいコンパクトシティと悪いコンパクトシティがあります。

コンパクトシティ政策の見直し・修正(ウィキペディアによる)


ブームとなったコンパクトシティ政策であるが、失敗事例も相次いだ。商業施設には入居する店舗が少ない、撤退する店舗が相次ぐなど、思惑通りにいかないこともある。再開発ビルの失敗例としては、青森市の「アウガ」、佐賀市の「エスプラッツ」、秋田市の「エリアなかいち」などが挙げられる。

青森市の場合、郊外の住民に住んでいる不動産を売却してもらい、その売却益で中心部の住居(主にアパートやマンション)を買ってもらう計画だったものの、郊外の地域では買い手が付かない上に、売却益が安すぎて中心部の住居が買えず、住民は一方的に自治体からその計画を言い渡されて何の補償も得られていない。このため、一極集中型ではなく多極型の都市政策に転換を図った。

秋田市の場合、再開発により一定の成果が出たが、「コンパクトシティの名の下に縮小・衰退させた」との批判も出る中、郊外施設も容認する方向に転じた。


国土交通省の資料を見ると、先進事例地区が出てきます。

筆者は、地域計画の失敗の原因は、次の2つにあると考えています。

1)計画立案者のほとんどが、利害関係者です。

これによって、計画の中立性、客観性が損なわれています。特に、環境破壊が、進みます。

2)論理的に破綻している先進事例地区のケースの引用が多発しています。

ファッションであれば、人まねは最低です。各人が、ファッションで表現したい内容があり、TPOに合わせ、自分の個性を表現できるように何を着るかを選びます。計画立案の対象地区と、先進事例地区は、前提条件、歴史、個性が異なりますから、基本的には、先進事例地区を参考にしてはいけません。ところが、住宅の家具を、カタログで選ぶような意識で、先進事例地区のカタログから、よさそうな事例を引いてくる例が見られます。その結果、環境破壊が、壊滅的に進んでいます。環境の基本は、食物連鎖です。先進事例地区のデータには、食物連鎖のデータはありません。生態学の基礎知識があれば、この時点で、先進事例は使えないと判断するはずです。

つくばみらい市の例

2022/01/08の日経新聞の1面では、2020年と10年前を比べて、もっとも集住率が上昇して市町村のベスト10が書かれています。その第7位に茨城県つくばみらい市(25.6%上昇)が、載っています。 これは、関東では、埼玉県滑川町の第5位に次ぐ大きさです。

しかし、つくばみらい市(2020年人口は5.1万人)は、モデルケースではありません。

図1にみるように、人口増加は、団地のみらい平地区によっています。

図2にみるように、最近は、団地の分譲が一段落して、社会増は減りつつあります。

つくばみらい市は、おくれて開発されたつくばエクスプレスの影響で、人口増がおくれて起こっただけです。

5年前であれば、守谷市が、最大の人口増加でしたが、分譲が終わって、現在は、落ち着いています。

5年後のつくばみらい市は、現在の守谷市のように、なるはずです。

既存地区から、みらい平地区への移住があれば、もちろん、健全な集住率であると思いますが、既存地区の人口減少は、ほぼ、自然減によっています。つまり、市内での集住は進んでいません。

集住率の変動を見る場合、その原因を分析しないと、データサイエンスとしては、失格です。

データとして、10kmメッシュ程度の粗いものでも構いませんから、IDで個人の移動のデータを収集して公開する必要があります。現在の人口データには、ID についた属性値のデータがないので、因果レベルでの分析は困難です。

集住率を上げることは、過疎の促進になりますので、数字の変化よりも、過疎の促進に対する補償政策が機能しているかを、チェックする必要があります。

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図1 地区別人口の推移

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図2 既存地区とみらい平地区の人口増減の推移

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/regional-regeneration/population-density-map/

https://www.mlit.go.jp/common/001083358.pdf

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3

  • 令和2年国勢調査人口等基本集計結果(2020年(令和2年)10月1日現在)

https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/tokei/fukyu/tokei/betsu/jinko/kokucho/kokucho2020/index.html

https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/tokei/fukyu/tokei/betsu/jinko/kokucho/kokucho02-1/documents/kokucho02-1-doko.pdf

https://www.city.tsukubamirai.lg.jp/page/page000749.html

https://www.city.tsukubamirai.lg.jp/data/doc/1609155945_doc_2_0.pdf