11月に、エマニュエル・ドッド氏の新しい新書「老人支配国家 日本の危機」(内容は、雑誌の記事の再集録に、前書きをつけたもの)が出ました。
この中で、2011年5月に出た中国の人口統計について、「合計特殊出生率が、1.3という衝撃的」な値であること、「その人口統計自体が信頼できないというのは、研究者として初めて直面する事態である」といっています。
なので、人口データに関する情報を整理してみます。
というのは、遠藤 誉は、中国は、2035年まで「台湾統一」に動かないだろと判断していますが、その根拠は、「2035年にはおそらく確実に中国のGDPがアメリカを抜いているので、その時なら『統一』を図ってもアメリカは抵抗できまいという、習近平の長期的戦略」にあるとしているからです。逆に、言えば、「2035年にはおそらく確実に中国のGDPがアメリカを抜」くことがなければ、状況判断は異なります。
2021年5月に、日本銀行のグループは、「中国経済は、過去の東アジア諸国・地域の経験等から示唆されるキャッチアップ過程を今後も辿れば、2035 年までに経 済規模が倍増することは可能と見込まれる。もっとも、農業の生産水準を維持する必要性や、輸出依存型の製造業の拡大の限界、少子高齢化の進展といった中国 が抱える状況を踏まえると、キャッチアップ過程を辿るためのハードルは高い」と推計しています。
なお、このワーキングペーパーには、2011年5月に出た中国の人口統計は、反映されていません。
2021/03/09の大和総研のレポートで、齋藤 尚登氏は、第13次5カ年計画(2016 年~2020 年)の主要目標と実績を評価していますが、実質GDP成長率と1人当たり労働生産性は、目標値に達していません。
日本のように、人口減少に転じた場合には、労働生産性の向上が大きくないと、GDPは、伸びません。人口の減少が本格化する前に、労働生産性を上げることが急務になります。
エマニュエル・ドッド氏は、「5月の人口統計は、信頼できない」といいます。実際は、どうなのかは、わかりませんが、いくつかの推計があります。
なお、トッド氏の「人口統計は信頼できない」という意味を、2021/07/14のリコー経済社会研究所の武重 直人は、グラフでわかりやすく説明しています。
以下に、総人口のピーク推定例を示します。なお、生産年齢人口のピークは2013年です。
総人口のピークの推定例
2018年 易富賢氏 Reuters Next
2020年 フィナンシャル・タイムズ(FT)2021/04/27
2022年 「環球時報」2021/04/29
2026年 王豐氏(2021年より5年以内に減少)
2027年 于学軍 2021/07/21
2031年 2019年の国連中位推計
どれが、正しいかは、一概にはいえませんが、2031年よりは、前になると思われます。
最近の不動産業界や、学習塾へ締め付けを見ていると、フィナンシャル・タイムズの予測のように、既に、人口減少局面にある可能性も否定できないです。
中国の中長期的な成長力─キャッチアップの持続可能性に関する考察─ 2021/05 日本銀行ワーキングペーパーシリーズ 佐々木 貴俊・坂田 智哉・向山 由依・吉野 功一 https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2021/data/wp21j09.pdf
中国:成長率目標を設定できない本当の理由 2021/03/09 大和総研 齋藤 尚登
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/china/20210309_022143.pdf
- 深刻化する中国の人口問題 2021/07/14 リコー経済社会研究所 武重 直人
https://blogs.ricoh.co.jp/RISB/china_asia/post_704.html
- 専門家が中国政府の人口統計に疑問符 実際の人口は12.8億人程度か=台湾報道 2021/21/03 WOW Korea
https://news.yahoo.co.jp/articles/2c05e162b4a75862a695595ee9f4bcc3a0d662f9
- 専門家等の見解:発表の遅れた中国国勢調査が暗い見通しを示唆 2021/07/08 INDO-PACIFIC DEFENCE FORUM
- 中国の出生数、今年も減少する見込み-国家衛生健康委の于副主任 2021/07/21 Bloomberg News
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-21/QWL5X1DWLU6J01
- 老人支配国家 日本の危機 エマニュエル・ドッド 文春新書 1339