人口減少と産業構造(5)

バックキャストの問題点の整理

人口減少と産業構造が起こって、それでも、一人当たりの高いGDPが、例えば、2050年に実現していたとします。それが、どんな世界か描ければ、バックキャストで、これからの計画を立てることができます。

囲碁や将棋で考えても、1手先、2手先は読めるでしょうが、50手先になると読めません。将来のことは、時間的に先になるほど、実現しそうな選択の幅が広がって、何が起こるかわからなくなります。その時は、フォーキャストでは、対応できなくなるわけです。

バックキャストでは、例えば、2050年に考えられる複数の世界を想定します。そして、その中で実現して欲しい世界を、将来像に設定して、バックキャストで、計画を立てます。選択する世界は、複数でもかまいませんが、バックキャストできるように、具体的であることが必要です。バックキャストという単語の意味は、単なる後ろ向き推定にすぎませんが、それを実行するためには、未来像を明確に描く必要があります。

未来像は、フリーに描けるわけではなく、制約があります。例えば、2050年に、一人当たりGPDが、上がっているのであれば、労働生産性があがっていることが制約条件になります。この場合には、労働生産性の低い分野で働く人は減っているはずです。具体的に考えれば、介護や1次産業で働く人は減っているはずです。撤退するか、変容している企業も多いはずです。そのためには、DXは必須でしょう。しかし、DXは魔法の小箱ではありません。適切な使い方と、技術開発があれば、現在の水準を越えることはできますが、無制限ではありません。量子コンピュータが普及して世界が変わっているのでしょうか。

振り返って、30年前には、エネルギー問題とCO2問題は、2030年には、核融合で解決していると予想している人もいました。現在、2050年のカーボン・ニュートラルに対して、核融合がキラー技術であると考えている人は少ないでしょう。技術制約とはこのようなものです。

原発核融合が、有望でない理由は、技術のフュージョンが進んでいない点にあります。原発の制御システムは、50年前の古典制御理論のままと思われます。コンピュータの能力は、低いレベルにあります。現在の技術革新は、DXに見られるように、コンピュータを組みこんで、技術のフュージョンを起こすことで実現します。ですから、原子力の技術進歩が加速度的に進むことはありません。

河野大臣が、総裁選に立候補しました。テレビで発言を聞いていて、気になる点が2つありました。

第1は、原発は、つなぎで、稼働するのが現実的で、新規建設は認めないという点です。理屈はわかりますが、既に、新規建設ができないので、当初の耐用年数を過ぎた原発を動かしています。つまり、この方針は、事故リスクが高いと言えます。

第2は、5Gを使って、リモートワークを促進するという発言です。河野氏は、リモートワークで、都市と地方の格差が是正されると言っていました。この方針でよいと思いますが、問題は、副反応対策をどうするかです。都市と地方の格差が是正されるだけでなく、国内と国外の格差も是正されて、リモートワークでは、世界的に同一労働、同一賃金になります。この流れは、止まらないと思いますが、インドのバンガロールのような競争相手が、世界中に出現します。つまり、教育や、賃金は世界システムの中に取り込まれていきます。教育や賃金で、それに取り残されない対策ができないと、社会不安が起こります。

前回、EVによる豊田自工会会長の失業予測を取り上げました。

2021/09/09のロイターは、悲観的な見通しと、楽観的な見通しを示しています。


(悲観的な見通し)

最大で半分が最終的に職を失う可能性がある。

広報担当者は、ディーゼル車用のパワートレイン・システムの製造にはEV用の10倍の労働者が必要だ、とも説明した。

世界中で5000万人の労働者を代表するインダストリオール・ユニオンの副事務総長、ジュディス・カートンダーリング氏は「移行の進め方について明確な計画が無ければ、数百万人の雇用が危機にひんする」と訴える。

(楽観的な見通し)

最近の調査では、クリーンエネルギー産業が生み出す雇用を勘案すると、2030年までに失われる雇用は(1460万人の雇用のうち)正味3万5000人分にとどまると試算されている。加えて、EV充電インフラの製造、設置、運営で10万人以上の新規雇用が生まれそうだという。


予測の幅は広いので、フォーキャストは無効でしょう。バックキャストで、社会システムの再構築をしないと立ち行かなくなります。

 

これは、筆者が、執筆中の小説の下調べです。2050年のSFを書こうとすると、どんな生活をしているか予測しないと書けません。空間的なバリアが融けて、個人は、リモートワークで、複数の会社に属して、複数の仕事を同時並行にこなしている世界になると思いますが、その前に、バリアに依存している自治体や都市計画等はアウトになっている可能性も高いと思われます。都市と地方のバリアも、国内と国外のバリアも半分融けているのではないでしょうか。

 

 

  • 焦点:欧州EV革命、大量解雇の恐れ 抗議活動も 2021/09/09 ロイター

https://jp.reuters.com/article/volkswagen-germany-id3-production-idJPKBN2G306L?rpc=122

 

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