日本のIT企業は何社使えるか

企業や官公庁のDXの問題、学校境域のデジタル化の問題、あるいは、オリンピックの食費ロスの問題、これらは、DXを受け入れる側の企業や組織のDX対応への遅れが問題であると解説されますが、本当にそうでしょうか。実は、日本のIT企業は、国際的にみれば、完全に競争力がなくなっているようにも思われ、原因がそこにあるとも思われます。

現在の消費者向けのITシステムはクラウドのサービスになっています。たとえば、教育のIT化にしても、マイクロソフトは、Office365をベースに、ミーティングソフトやレポート管理、評価などのツールを追加したサービスを展開しています。グーグルは、GoogleGoogleドキュメントを中心に改良した教育向けツールをパッケージで提供しています。アマゾンは、クラウドサービスで稼ぐ方針で、アマゾンのクラウド上に企業がサービスアプリを提供して、ビジネスモデルを展開することをサポートして、間接的に利益を上げる方針です。

クラウドサービスが本格的に、出てきたのは、2005年頃です。そのことは、日本のF社も、N社も、わが社にもクラウドサービスがありますと宣伝していましたが、結局、世界的なクラウドサービネットワークを構築できたところは、ゼロで、全て、撤退しています。

日本のIT活用の先進的事例として知られている重機のコマツと小売りのアマゾンを比較してみると、その戦略上の違いが、はっきりしています。アマゾンは、インターネット通販を効率的に進めるために、自社でクラウドネットワークを構築します。それも他社の半額くらいのサービス料金を設定して、圧倒的なシェアを獲得します。そして、現在では、クラウドネットワークの上で利用できる基本的なモジュールの提供も行っています。コマツは自社では、クラウドサービスを構築しませんでした。その結果、現在では、重機の監視サービスをアマゾンのクラウドサービス上に移植しています。

つまり、クラウドサービスや共通利用可能なモジュールがあれば、アプリケーション開発は、その先の部分だけを、コーディングすればよいので、圧倒的に効率化できます。そして、日本国内には、こうしたITのエコシステムを提供できるIT企業はありません。

中国の場合には、海外企業の参入を阻止して、自国で、クラウドシステムを構築しました。この方法が、今後も続けられるかは、不透明になりつつありますが、いまのところ、クラウドサービスの提供ができます。

今回のオリンピックやコロナ対策では、「オリンピックの食費ロスの管理」、「ワクチンの接種管理」、「COCOA」など、大金を投じて、開発したソフトウェアは、悉く、機能不全に、陥っています。新聞では、この問題は、発注者側の問題であるとされていますが、実は、受け入れ側のIT企業の能力不足であった可能性も大です。

ワクチン接種管理のVRSは随意契約でした。入札であれば、海外のIT企業がとって、問題は発生していなかった可能があります。

コロナで、リモートワークスが拡がりましたが、マイクロソフトは、クラウドサービスが広がる前から、ウインドウの開発をモジュール単位で、バンガロールで行っていました。現在は、クラウドサービスが充実していますから、世界中のどこにいようともメンバーを組み合わせて開発チームを作ることは容易です。マイクロソフトと同じ20年前に、日本企業も、モジュール単位で、人件費の安いところを組み合わせて、システム開発することは可能でした。それをするための要件は、「英語で開発すること」、「ジョブ型で、開発実績に合わせた賃金を支払うこと」の2点が必要でした。結局、日本の企業は、そうした戦略をとることなく、コストを度外視した社内失業の受け皿として、仕事を進めます。そして、その結果、国際競争力がなくなります。これは、IT企業に顕著ですが、土木・建築、電気など幅広い業種に当てはまります。国際競争力がなくなると、随契や談合で、官公庁の仕事をとるか、日本語の言語障壁で、海外企業が参入できない部分だけが、ビジネスできるテリトリーになります。そして、この分野は、官僚の天下りポストと結びついて、温存されます。こうして、国際競争が、なく、変わらない日本が出現します。

簡単に言えば、「随意契約天下りシステム」、「年功型雇用による社内失業の処理」が、日本のIT企業を、弱体化して、現在に至っている可能性があります。

筆者は、このシステムの善悪を論ずるつもりはありません。

何が、その時代の最適な社会システムであるかは、状況により判断すべきです。

しかし、現在のシステムを継続しても、未来はありません。

また、クラウドサービスの黎明期のように、IT関係では、10年単位で、新しい技術が実用化され、ビジネスチャンスが生まれますが、それが、有効なビジネスモデルになる時間が1、2年でそれを過ぎると、参入はできなくなります。もちろん、参入しても成功する確率は1割以下で、9割は失敗しますが、その失敗に耐えて、チャレンジする企業だけが生き残ります。

まとめると、日本の多くのIT企業には2つの問題点があります。

第1は、既に、国際競争力がなくなってゾンビ状態になっていることです。

第2は、ゾンビ状態から、抜け出すビジョンを描けないことです。

そしして、今回の話題は、IT企業でしたが、同じ問題を抱えている業種は多くあります。

その最大の原因は、

競争しないこと

失敗を許容しないこと

であると思います。

 

補足:

Shopifyがソフトウェアのコモデティ化に成功しています。AWSのライブラリにも、似た側面があります。簡単に言えば、コーディングせずに、アプリケーションを簡単に作ることができるサービスです。今までは、こうしたソフトウェアはWEBデザインなど一部に限定されていましたが、今後、適用分野が広がるでしょう。そこで、デファクトスタンダートになれない日本のIT企業は、生きのこらないでしょう。

 

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