河合 雅司氏が、「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」を出して、ベストセラーになったからかもしれませんが、最近、書店には、未来予測の本が多数積んであるので、それなりに、売れているのでしょう。
ただし、翻訳物を除く国産は、ほとんどが、単なるトレンド推定です。
また、人口問題については、各省庁で、検討していますが、基本的には、「わが省庁の仕事はなくならない」という結論に合わせた検討ですので、トレンド予測の計算を自分でするのが面倒な場合には引用すると便利ですが、それ以上の価値はありません。
未来予測については、トレンドで問題を提示することではなく、トレンドで、問題があれば解決していくことが重要です。これには、筆者が、アンパンマン方式と呼んでいる、未来の課題(バイキンマン)を、アンパンマンがやっつけて、ハッピーエンドになると情報提示が望ましいと考えています。つまり、問題を提示するより、問題解決のSF小説をかくことの方が、世の中に役に立つはずです。
それでは、トレンドを離れて、どのように、未来の解決物語りを構築できるかという点が問題になりますが、方法の一つは、フェルミ推定です。
今回は、フェルミ推定を使って、2050年の医療の未来を考えてみます。
まず、医療のニーズの大きさですが、国土交通省の資料によれば、日本の人口は、「2008年にピーク、12,808万人、高齢化率22.1%」が「2050年、10,192万人、高齢化率 37.7%」になります。高齢者は、2830万人(2008年)が3842万(2050年)となり、1.35倍になります。医療費の大半は高齢者がつかっています。ただし、高齢者の場合には、医療と介護の境はあいまいです。また、英国のように、高齢者の保険適用に、上限を設定している場合もあります。健康寿命の後の医療のあるべきは、今後、検討が進むでしょう。不確定要素が多いですが、ここでは、2050年まで、医療需要の基本総量に大きな変化はないことをベースシナリオとします。
フェルミ推定の大きなポイントは、マイクロソフトのCEOのナデラ氏の「コロナ後も、患者の診療は最初がAIチャットボットアプリでされ、その次に遠隔医療の診察があり、それでも不十分な場合のみ外来患者の診察をする、というのが残っていくと考えています」に基づいて、医療を人間(DR)とAIが分担するというシナリオを検討する方法です。
なお、ナデラ氏の発言では、米国は既に、遠隔医療にシフトしてしまっていて、元に、戻ることはないだろうという話なので、日本の医療が既に、取り残されていることがわかります。
なお、医療従事者は、医師(DR)、看護師、そのほかの従事者で構成されています。今回は。DRのみを考えます。
図1が、フェルミ推定の結果です。数字は、仕事の量を表しています。これはイメージの数字ですが、検討の手順が、示すことに主眼があります。
難易度は、診断や、治療の難しさを示しています。難易度0は、健康診断などの予診です。
左の縦の列が、2020年の現状です。多くのDRの診断と治療はほとんどの場合、軽症に当てられます。難しい病気は、DRの数が多く、分業ができる大病院が担当することになっています。
一方、難易度が1または2の軽症の場合には、AIチャットボットアプリで十分と思われます。難易度が、2と3の場合には、遠隔医療の診察が使えます。難易度が4または、5の場合には外来が必要でしょう。難易度0の0は病気になっていないという意味です。難易度0の予診は、2050年には、アップルウオッチのようなツールが普及しているでしょう。トイレでは、毎日尿検査も自動で行えます。これらの器具の使用は任意ですが、使わない場合には、保険比率が下がるようになるでしょうから、ほとんど人は使っているはずです。その結果、病気になる間に、スクリーニングされる人が増え、病気の人は減るはずです。
図1の左の2020年では、予防の仕事を10ポイント、治療の仕事を90ポイントにしています。
右の20250年では、予防の仕事を80ポイント、治療の仕事を70ポイントにして、予防効果で20ポイント減ると考えています。
AIチャットボットアプリや、遠隔医療の診察を活用すれば、簡単な治療にかける労力が減るので、その分DRは、難易度の高い病気の治療に専念できます。その効果を難易度4では、7->10ポイント、難易度5では、3->5ポイントでみています。
Sum1は、治療にさかれる仕事のポイントの合計です。これは、予防の効果で、20ポイント減るとしています。
Sum2は、予防も含めた、全ての仕事を表すポイントです。この合計は、150と1.5倍に増えます。
次に、AIのコストですが、人間のDRの10分の1と仮定しました。
costが、予想される経費です。人件費が置き換えられ元の37.5%になります。
sum3は、2050年の難易度別の仕事の合計です。ここでは、仕事量の半分以上が、難易度0の予防に割かれますが、基本は無人なので、コストアップには、なりません。
以上の試算では、2050年のDRの数は、2020年の25%になります。もちろん、この数字は、仮定の下での値です。仮定を変えれば、数字は変化します。
フェルミ推定の有効な理由は、パラメータの感度分析ができる点です。
数字は変化しますが、試算してみるとわかりますが、25%を50%以上に変えることは容易ではありません。ですから、かなりの数のDRが、失業することになると思われます。
米国の場合、医療費が高くて、売薬を買う以外に、治療を受けられない人が多数存在します。これは、先進国の医療として問題ではありますが、患者にとっては、医療を受けられない状態と、AIチャットボットアプリや、遠隔医療の診察を比べれば、どちらが良いかは明白です。遠隔医療の診察の場合、英語ができるインド人や、フィリピン人のDRにかかる選択もあります。米国の公的医療保険が十分でない問題点は、こうした医療改革の上では、強みになります。したがって、この分野の技術革新は速く進むでしょう。
ここでは、一般の医療を例に検討しましたが、より大きな変革は、獣医の世界で起こります。それは、人間の医療と比べ、次の条件が異なるからです。
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難易度の高い治療は、ほとんどありません。考えられるのは、ペットだけで、それ以外の動物では、回復困難な難病になった時点で、治療はしません。
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公的保険はありませんので、コストの問題が、大きく影響します。これも、影響が少ないのは、コスト度外視のペットだけでしょう。
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犬は、日常的に首輪をつけていますから、予防機器との相性はよく、人間より容易に、予防医療の比率が高くできます。
ポイントは、無駄なコストを抑えると、国民が豊かになれるということです。財政赤字は、その投資が、後で、リターンになれば、有効な使い道になりますが、リターンを生まない場合には、破壊的効果を持ちます。
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001361256.pdf
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変貌する未来 講談社現代新書 62.p
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未来の年表 人口減少日本でこれから起きること 河合 雅司
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