メタ判定基準と市場原理

(間違いは必ず起こります。問題は、メタ判定基準です)

 

1)スノーの指摘とメタ判定判定

 

スノーは、人文的文化と科学的文化の間にギャップがあると主張しました。

 

「二つの文化と科学革命」は、日本では、二つの文化の間のキャップをうめるべきであると、ギャップの問題を指摘した本であると解釈されています。

 

しかし、筆者は、スノーは、「二つの文化には、断絶がある。メインストリームは、科学的文化である。だから、エンジニア教育を拡充すべきだ」と主張したと考えます。

 

この「二つの文化と科学革命」の解釈は、日本で一般的に流布している解釈とは異なります。

 

ここで、問題にしたいのは、どちらが正しいのかということではなく、何を基準にしたら、どちらが正しいと判断できるかという問題です。

 

どちらが正しいのかという判定問題ではなく、判定の手順と基準は何かというメタ判定問題です。

 

実は、筆者は、人文的文化のメタ判定問題が理解できていません。

 

2つの異なる仮説があり、どちらが正しいかという問題は、科学的文化では、検証問題として、手順のルールが決められています。

 

科学的文化に属すると主張しながら、実態は経験科学にすぎない分野を除けば、仮説の検証の手続きは、常に検討され、バージョンアップされています。

 

スノーの「二つの文化と科学革命」の意図は何かという問題に対して、「二つの文化の間のキャップをうめるべきであると、ギャップの問題を指摘した」という解釈と「二つの文化には、断絶がある。メインストリームは、科学的文化である。だから、エンジニア教育を拡充すべきだと主張した」という解釈のどちらが正しいのか筆者には、わかりません。

 

ここで、筆者が採用したメタ判定問題の解答は単純です。それは、英語版のウィキペディアを採用する方法です。

 

ウィキペディアの記載については、意見が分かれることがあります。その場合には、ディスカッションが行われ、妥協点が検索されます。ディスカッションが収束しない場合には、その旨が記載されています。

 

スノーの「二つの文化と科学革命」は英語で書かれていますから、英語のウィキペディアを見れば、最大公約数の解釈がわかります。

 

筆者の解釈は、英語のウィキペディアの解釈のコピーです。

スノーの「二つの文化と科学革命」に、限りませんが、ウィキペディアでの日本語版と英語版(あるいは原典に近い言語版)を読み比べると、説明が異なっていることがあります。

 

その場合、筆者は、違いを分析して、どちらが、もっともらしいかを考えます。殆どの場合には、日本語版より英語版の方が妥当であると思います。

 

2)メタ判定基準の重要性

 

人文的文化の人がよく使う判定基準は、「地位の高いポストについている」、「読者が多い」、「新聞やテレビに取り上げられた」といったものです。

 

「地位の高いポストについている」という基準には、問題があります。ヒトラースターリンホロコーストを起こしています。毛沢東も大躍進のときに、2000万人といわれる餓死者を出しています。

 

アメリカのトランプ前大統領も一部の人から批判されています。

 

「読者が多い」という基準も曖昧で、アマゾンなどの商品レビューでは、サクラの記事の追放に苦慮しています。Twitterのツイートの多くが、特定の意図のもとに作成されています。防衛3文書には防衛省が認知戦を行うことがはっきりと書いています。つまり、「読者」は捏造されます。

 

「新聞やテレビに取り上げられる」という基準はあいまいです。財務省は省庁の予算審査で、成果の説明にマスコミに取り上げられたことを求めます。このため、族議員が活躍するような特定の分野では、定期的に、新聞やテレビに情報提供をして記事を作成してもらっています。これは、財務省に対して、認知戦を行うようなものです。

 

マスコミ、特に、新聞は、記事がツイッターよりは、客観的であると主張しますが、その主張には根拠がありません。

 

科学的文化の基準でみれば、人文的文化には、メタ判定基準がないように見えます。

 

「地位の高いポストについている」人の行動が正しかったか、間違っていたかは、ホロコーストのような惨事が起こればわかります。しかし、事態がそこまで深刻になるまえに、ストッパーがあれば、事態の深刻さは低減できます。

 

こう考えると問題は、「地位の高いポストについている」人の行動が正しいか、正しくないかではなく、ストッパー(メタ判定基準)が機能しているか否かです。

 

行動が正しいか、否かは、結果が出るまでに判断することは困難です。

 

この点でも、問題は、ストッパーの存在です。

 

3)経済学のメタ判定基準



資本主義経済では、メタ判定基準は、市場原理です。

 

英国のトラス前首相は、経済政策の失敗により金融市場が混乱を招き、その影響が政権内部にも波及して求心力が低下した結果、49日で退任しています。

 

日銀は、2022年12月20日に金融政策の見直しをしています。

 

日銀の金融政策には、株式市場、債権市場、為替市場の3つの市場がかかわっています。

 

このうち、株式市場、債権市場は日銀の政策によって機能不全になっています。結局、為替市場が、金融緩和政策に変更を求めたといえます。

 

トラス政権は、退任に追い込まれる前に、内閣内で、ストッパー機能が働かなかったことが問題です。

 

同様に考えれば、日銀が、為替市場によって、金融緩和政策に追い込まれる前に、ストッパーが働かなかったことが問題です。

 

日銀の金融緩和は10年続きました。これは、ストッパーが機能した結果でしょうか。そうであれば、インフレにならないにもかかわらず金融緩和を続ける合理的な理由を説明すべきでした。

 

間違いはある確率でなからず起こります。問題は、エラーリカバリ―が機能したかどうかです。

 

トラス前首相も、日銀も最終的には、市場原理によって軌道修正させられています。

 

これから見る限り、日銀でも、エラーリカバリーは機能しなかったと判断するのが妥当でしょう。

 

4)国際労働市場

 

岸田文雄首相は2023年1月4日に、訪問先の三重県伊勢市で開いた年頭記者会見で、今年の経済運営に関し「成長と分配の好循環の中核である賃上げを何としても実現しなければならない」と述べました。

 

少子化対策については、4月のこども家庭庁の発足を待たずに①児童手当など経済支援強化②学童保育や病児保育、産後ケアなど全ての子育て家庭への支援③仕事と育児を両立する女性の働き方改革の推進─を中心に議論を開始して「異次元の少子化対策に挑戦し、大胆に検討を進める」と語りました。

 

これらの政策は、有識者会議の提案をうけたものですが、有識者会議の提案に間違いはないのでしょうか。

 

有識者会議は、日本の子育て支援が海外より遅れているといっています。

 

一方、西村カリン氏は次のようにいっています。(筆者要約)

 

<==

 

「子育てについては、フランスの経済支援のほうが手厚い」と私に言う日本人は多いが、必ずしもそうではない。

 

日本では子供手当がある以外にも15歳までは医療費が無料だったり、ランドセルの購入支援をするところもある。国公立の小学校の給食は安い。小さい子供たちの支援策は十分だ。

 

政府はさらにお金を配ることを考えている。私は支援に反対ではないけれども、今までと同じ考え方でいくらお金を配っても、少子化の問題は解決されないと思う。

 

理由の1つは、対象が小さな子供中心であり、教育費用がかかるようになる15歳以降への支援が足りないこと。もう1つはパンデミックや気候変動、戦争といった社会状況から、経済力があっても子供をつくりたくない人が増えているから、である。

 

==>

 

要するに、比較している補助金以外の条件が違いますので、有識者会議の論理は破綻しているといっています。



有識者会議の提案は目前の問題に対して補助金をばら撒くものになっています。しかし、財源は不透明です。有識者会議の提案には、労働生産性の改善は含まれていません。筆者には、補助金をばら撒く前に、ジョブ型雇用で、出来高に合わせて、若い人にもっと多くの給与を支払うべきと考えます。現在の政策は、十分な給与を支払わずに、補助金胡麻化していないでしょうか。

 

ストッパーが機能しない場合には、経済政策と同じように、市場原理がストッパーになると思われます。

 

最近、ITエンジニアを中心にエンジニアの海外流出が続いています。

 

これを、国際労働市場で見れば、海外でも、使える人材の育成に成功していますので、情報科学の高等教育には、合格点がつけられます。

 

一方、日本のビジネススクールの卒業生の頭脳流出は、ITエンジニアに比べれば、まだ、数が少ないので、情報科学の高等教育には成功していません。

 

NTTデータGAFA予備校と呼ばれるように、ビジネススクールを卒業して、コンサルタントファームで働いてかた転職する人もいるようですが、今のところ少数でしょう。

 

国際労働市場は、この二つ以外の分野は、高等教育に失敗していることを示しています。

 

日本の大学院のオーバードクター問題は、いわれて続けて長いですが、海外では、博士をもった人材の就職口は沢山あります。国際労働市場を見れば、日本の大学院のドクターコースが、高等教育に失敗しているので、オーバードクターが発生しているとみなすことができます。オーバードクターの原因は、質の悪い高等教育にあります。

 

新年には、経済新聞の広告面で、企業の経営者の挨拶が載ります。

 

日本の企業の経営者は、どのくらい優秀なのでしょうか。

 

本当に優秀なら、ヘッドハントされて、海外の企業の幹部を経験していると思われますが、そうした人は少ないです。

 

新聞の広告をみていると、「日本の会社の社長は、私立のA大学の卒業生が多い。社長になりたければ、A大学にいくべき」という記事もあります。これは、後任の社長を、前任の社長が指名することを前提としています。

 

ここには、株主の利益も、労働市場もありません。

 

本当は、トラス前首相のように、国際市場のストッパーが働くまえに、メタ判定基準が働くとよいのですが、今のままで行くと、大量の人材流出の後に、国際労働市場を受け入れることになりそうです。

 

トラス内閣の総辞職のように、日本の高等教育の総辞職が起こる可能性があります。



引用文献



お金を配っても止まらない少子化──問題は「子育ての楽しさ」をメディアが報じないこと2022/12/07 Newsweek 西村カリン

https://www.newsweekjapan.jp/tokyoeye/2022/12/post-137.php