フュージョンと良い写真をめぐる考察(7)

画角とフュージョン

画角とフュージョンの話題の結論は、85㎜を目指せということにつきます。

ストリートフォトの鉄則は85㎜で撮影することになっていますが、なぜ、85mmが良いのかという説明はなされません。筆者は、これは、フュージョンの破綻効果のためと考えています。

人間の視野は、画角でいうと換算50㎜と言われています。これが、標準レンズが50㎜である理由と説明されることが多いです。

換算50㎜が、人間の視角であることは事実です。このことは、50㎜より広角の画角をカメラは1ショットで撮影しますが、人間は、1ショットでは全体が見えないので、視点をずらして、50㎜相当ずつ対象を見て、頭の中で再構成するフュージョンを行っていることになります。ですから、50㎜より広角であっても、違和感はありません。

それでは、50㎜より望遠になった場合には、何が起こるでしょうか。

肉眼では、ありえないように拡大された画像になります。周囲がトリミングされます。

これは、本来では、ありえない画像なので、脳が働いて原因を究明するようになると思われます。

つまり、注意が集中するようになります。おそらく、これが、85mmが、ストリートフォトに鉄則の画角になる理由と考えます。ポイントは、標準画角より、すこしだけ望遠の場合と思われます。画角が200㎜を越えると、少しずれた標準画角ではなくなので、脳は、フュージョンに戻そうとは機能しないと思われます。また、逆に60㎜でも、50㎜との違いが小さすぎて違和感がなく、脳は機能しないと思われます。80㎜から100㎜くらいが、こうした効果が発生する範囲と思われます。

リード問題

実は、ここで、写真から目や脳は画角を判断できているのかという問題があります。

写真の入門には、画角の説明写真が付けられていますが、そのサンプルがカメラと被写体の位置を固定して、異なった画角で撮影した写真を比較したものです。その範囲では、画角が広くなると画面に映る範囲が広くなります。ただし、実際には、カメラと被写体の距離が不変ということはありません。例えば、標準画角50mmのレンズでも被写体との距離を詰めれば、より、狭い範囲が写ります。また、被写体との距離を広げれば、より、広い範囲が写ります。したがって、被写体との距離を変化させれば、画角とフレームに写る範囲の対応は単純ではなくなります。

とはいえ、レンズには、最短撮影可能な距離があり、それより接近すると焦点が合わなくなります。また、逆に、被写体と距離をとりすぎると被写対象が小さくなりすぎて、細部が判別できなくなります。したがって、画角ごと(レンズごと)に被写体とレンズの距離の大まかな制約があります。

一番よくわからない点が、画角と被写体の立体効果(圧縮効果)の組み合わせです。例を示します。

写真1は、換算35㎜で撮影した犬です。写真2と写真3は、写真1をトリミングして作った、換算50㎜と換算85㎜の画像です。画角はイメージで、正確な値ではありません。被写体が壁にかけられた絵のように奥行のないものであれば、トリミングして作った画角の異なる画像と、実際に、レンズを交換して(あるいはズームさせて)異なる画角で撮影した画像に差はないと思われます。しかし、被写体が犬のように立体的な場合には、実際に望遠系のレンズを使うと奥行に圧縮効果が働いて、トリミングした画像とは微妙に異なる画像が得られます。問題は、その差に、目や脳が反応しているのかわからない点です。

どうして、こんなに面倒くさいことを問題にするのかと思われるのかもしれません。顔の表情をアップして表現したければ、望遠85㎜で撮影すればよいというのが基本理論です。しかし、対象が犬の場合には、ポーズをとって、止まってはくれませんので、85mmのレンズでは、被写体が切れてしまうのです。50mmで撮影して、トリミングしないと、画面に収まらないのです。この点は、リードが制約になります。リードで、被写体とレンズの最長距離が制約されますので、85㎜で、被写体が切れないように離れて撮影することはできません。

結局、画角では、次の3つが効くのですが、その相互作用まで踏み込んで解説している教科書はありません。

  • レンズの画角の圧縮公開

  • レンズの画角と距離と映る範囲

  • レンズの画角と最短撮影可能距離

個人的には、この3つの相互作用を、フュージョンの関連で整理する必要があると思っています。

この問題を、筆者は、リード問題と呼んでいます。

現実的な解決として、現在は、換算50㎜で撮影して、85mm相当にトリミングしています。圧縮効果は変わりますが、この程度では、問題にならないと考えています。本当は60㎜くらいで撮影した方が良いのかもしれませんが、単焦点レンズは50mmの次は、80から90mmが多く、その間はありません。

 

 

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写真1 換算35㎜

 

 

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写真2 換算50㎜

 

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写真3 換算85㎜