年功序列の闇

平均寿命が延びて、年金を受け取る期間が増えた結果、財政負担は、年金制度を始めた頃には、予想できないほど大きくなりました。これに追加して、次の条件が、大きく変わりました。

少子化が進んで、若年人口や、労働人口が減少しました。

年金制度の普及、土地価格の上昇、株式市場の拡大によって、それまであった「働かざる者食うべからず」というモラルが崩れました。過去には、各段の富裕層(戦前であれば、大地主など)以外は、「働かざる者食うべからず」というモラルは当たり前でした。特に、敗戦によって、富裕層の切り崩しが進んだことで、富裕層を意識する人の数が激減します。その結果、このモラルはいったん当たり前になりますが、その後、バブル期に崩壊してなくなります。

詳しく説明します。

第1に年金制度の拡充によって、富裕層以外でも年金生活する人の数が増加します。

第2に、土地バブルによって、地主であれば、サラリーマンが一生働いても得られないような所得を短期間に得ることができるようになります。

第3に、これは後でわかったことですが、バブル期前ごろを境に、世界的に労働配分率が低下して、サラリーマンとして、一生懸命働いて所得を増やすことはできなくなります。簡単にいえば、サラリーマンとして、一生懸命働いて、より多くの収入を得るというライフスタイルはもっともであるという支持を失います。これは、ピケティの問題提起でもあります。

高齢化と少子化は日本で極端に発生している現象ですが、世界的な傾向でもあり、定年年齢の延期や、年齢による差別の廃止が導入されている国も多くあります。

日本も、いつものパターンですが、外国の手法をコピーして、定年を延長することで、この問題を回避しようとしていますが、これは不可能です。

不可能な理由は、非正規雇用の拡大と、年功序列型の雇用にありますが、非正規雇用は、年功序列型の雇用からのドロップアウトですから、ともに、ルーツは、年功序列にあります。

現在は、年功序列が崩れている場合もあるので、バブル前の典型的な公務員の年功序列を記載してみます。

学校:中学校、高等学校、大学(+大学院2年)で10年か、12年学習します。

実務担当:22歳で新規採用され、20年くらい実務担当をします。42歳くらいになります。

管理職:10年程度管理職をします。52歳くらいになります。今では、信じられませんが、昔は、定年は、53から55歳くらいでした。

天下り:60歳まで年金がでませんので、どこかで天下りして、収入を得ます。現在の再雇用に近い感じです。

年金生活:60歳から。その頃の平均寿命からすれば、15年くらいの年金生活です。

年数でいうと、学習(10年)、実務(20年)、管理職(10年)、天下り(年金予備生活、8年)、年金生活(15年)です。

現在は、90まで生きるのであれば、70歳定年で次になります。

学習(10年)、実務(20年)、管理職+年金予備生活(28年)、年金生活(20年)です。

問題は、大学でならったことで、最低20年、管理職を含めれば30年を過ごすことです。On the Job Trainingできるのも20年だけになります。現在は、定年が65歳になったので、管理職+年金予備生活の長さが23年に伸びています。これが、定年70歳になると28年になります。

現在の定年延長は、定年が伸びるとその分仕事をするという前提で議論されるようですが、年功序列のままで、定年を伸ばすと、年金予備生活の長さが増えるだけなので、実質的な仕事は何もできません。昔の退職年齢である53歳でも、実務を離れて10年は経っているので、実質的な仕事は難しいです。さらに、最近では、技術革新が速いので、知識や技能を更新していかなければ、実務はできません。ちなみに、データサイエンスもこの一部です。

つまり、年功序列のまま、定年を伸ばすことは限りなくブラックです。一方では、年功序列を飛び出してしまうと、まともな、国内では、労働市場がないので、不利になります。おそらくは、海外の労働市場を目指す人だけが、年功序列から、ドロップアウトします。しかし、これでは、国内には優秀な人材はいなくなります。

結局、年金問題に対処するには、年功序列をどうして解体するのかという問題を避けて通れません。日本の社会福祉は今までは企業に丸投げしてきました。年功序列を採用している企業の中では、解体問題はタブーです。しかし、この問題を解決しないと、日本経済は立ち直りません。おそらくは、ベーシックインカム級の荒療治をしなければ、離陸できないのではないでしょうか。