二種類の呪文(1)

前回は、「呪文」について、自分が、混乱していると申しあげましたが、この問題は、2種類の「呪文1」と「呪文2」を同じ、「呪文」と呼んでいることが、原因であると考えると、説明がつきそうです。まだ、整理しきれていないところもありますが、前回よりは、マシと思いますので、説明してみます。

呪文1

トランプ前大統領のツイッターは、実社会を変える「呪文1」です。議会の占拠事件では、死者が出ていますから、藁人形を作って呪い殺したわけではありませんが、「呪文1」によって、間接的に、死者が出ています。イデオロギーや宗教が、テロリストに転じる例もあります。宗教戦争や、十字軍にも、呪文の要素が認められます。科学が発展する前には、世界は宗教の呪文によって、記載されていました。お題目のある宗教が多いのはその名残です。コロナウィルスの感染拡大時に、一部の宗教者は、コロナウィルスに感染するのは、信心が不足しているからだと主張していましたが、賛同者を得られなかったようです。この「呪文1」では、賛同者が増えると、大きな社会的影響を与えます。宗教から、「呪文1」を取り除くと、何が残るのかという宗教の生き残り問題があります。歴史的に見れば、自然科学には、「呪文1」を弱める効果があります。

 

呪文2

この呪文は、「呪文1」と異なり、社会を変える効果はありません。2種類の「呪文2」があります。

呪文2A

「呪文2A」は、現実に合わせるように作った「呪文」です。小学生風にいえば、「いいわけ」になります。官僚風にいえば、「霞が関文学」になります。「呪文2A」を発している人は、行動変容するつもりはないので、「呪文2A」によって、行動変容を逃れられると考えています。冷泉彰彦氏は、日本のブラック組織について、「近年はコンプライアンス遵守が叫ばれる中で、日本の場合は(中略)、具体的には書面上の形式的なコンプライアンスが主となっています。」と指摘していますが、「書面上の形式的なコンプライアンス」も「呪文2A」に相当します。「書面上の形式的なコンプライアンス」があれば、それ以降の追求を逃れ、行動変容しなくても良くなりますので、その点では、この「呪文2A」には、社会を変えない効果があります。

西洋の基準で見れば、「呪文2A」は、「呪文」とは見なされずに、無視されます。例えば、m氏は、カナダでは、東京オリンピックパラリンピックが報道されないとして、「理由は明確である。全てがuncertain(不確実)であるからである。報道できる確実なものがないので、報道できないのだ。」と書いています。つまり、カナダの報道機関は、中身のない報道はしないし、中身のない報道をすると責任を取らされるとしています。この記事を見ると、日本の報道が、中身のない報道ができているのは当たり前ではないと思われます。カナダのマスコミは、「呪文2A」を排除するガイドラインを持っているのに対して、日本のマスコミは、「呪文2A」を率先して報道しているようにも見えます。

日本国内では、「呪文2A」は、社会(年功序列型組織)を変えないが故に、生き残るという屈折した特性を持っています。このような「呪文2A」が、生き残っている理由は、日本国内に、賛同者が多数いるためです。

例えば、日本の雇用の多くはジョブ型ではありません。その結果、サービス残業が常態化します。このため残業に支払う資金が不足して、サービス残業を表面化させない労働管理時間記録を使っている組織も多いと思います。こうした組織では、「書面上の形式的なコンプライアンス」が強まると、休日出勤は、単価が高いので、労働時間管理記録には記載されません。その結果、休日出勤で、事故が起こっても、労災認定がなされません。つまり、労働監督事務所の「書面上の形式的なコンプライアンス」は、労働者にとっては、給与は増えず、労災認定がなされなくなるので、マイナスです。しかし、労働監督事務所は、あくまで、「書面上の形式的なコンプライアンス」をチェックするだけです。この問題は、ジョブ型雇用に切り替えないと解決不可能ですが、その点はなおざりにされています。

昨年の教員の志望者は歴史的な低倍率になりました。教員の本務は、カリキュラムを教えることですが、生活指導や、クラブ活動、父母からのクレームの対応と本務以外の仕事が無制限に増えていて、サービス残業が止まりません。これが、志望者の少ない理由と思われます。しかし、文部科学省の学校への要求は、雇用形態には、メスを入れずに、「書面上の形式的なコンプライアンス」を求めています。冷泉彰彦氏は、こうした組織を日本のブラック組織という表現を用いています。「書面上の形式的なコンプライアンス」を使っているブラック組織は、非常に多いと思います。冷泉彰彦氏は、次のようにも言っています。


仕事には建前の世界と本音の世界がある、そこまでは程度の差こそあれ全世界で見られることです。ですが、決定は非合法かつ非公式な方法で進めて、それでは社会から批判されるので、建前の世界でも通るような記録は残す、それも高精度のねつ造をするというような非効率をやっているのは日本の一部の組織ぐらいではないかと思うのです。


冷泉彰彦氏は、問題は、「日本の一部の組織」と言っているのですが、「書面上の形式的なコンプライアンス」が通用する根源が、年功序列型の組織と雇用形態にあるのであれば、この問題は、日本国内に蔓延していることになります。冷泉彰彦氏は、「書面上の形式的なコンプライアンス」は、世界でも、日本の一部でしか見られない特殊な現象としています。年功序列型の組織と雇用形態は、世界では、日本でしか見られない特殊な現象なので、この2つが対応していても、不思議ではありません。仮に、この2つに対応があるとすれば、その理由は、年功序列型の組織と雇用形態では、しばしば、個人の自由より、組織の存続が優先する全体主義的な傾向が強いからです。年功序列型の組織と雇用形態は、野口悠紀雄氏が、指摘したように、戦時体制の中で生まれたもので、滅私奉公や特攻精神に通じるだだもれのサービス残業と、責任の所在の不明な意思決定のセットになっています。

 

今回は、ここまでです。後半は、次回に説明します。

 

https://www.newsweekjapan.jp/worldvoice/m/2021/03/post-5.php

  • 日本のブラック組織は倫理的に悪いだけでなく、絶望的に非効率; 冷泉彰彦; ニューズ・ウィーク;2021/03/02

https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2021/03/post-1218.php