darktableで花を撮る(1)

3種類の花の写真

ポートレートの説明が続いて、ちょっと、飽きてきたので、題材を変えて、花の写真を取り上げてみます。

ポートレート写真は、フレームに1人または、2人が写っている構図が基本で、これに変化を付けて、アップであれは、上半身だけ、離れれば、グループ写真になります。卒業アルバムのクラスの全体の写真のように、50人くらいが、フレームに入る写真もたまにありますが、このサイズでは、表情は殆ど判断できないので、ポートレートとは呼びません。つまり、ポートレートでは、ズーム比で言えば10倍は違いません。

花の写真は、これに対して、はるかに多様です。クローズアップでは、顕微鏡で撮ったような写真がありますし、ワイドでは、風景写真そのものの花の写真もあります。ですから、これらを、全て、一言、花の写真でくくってしまうには、無理があります。

表1に、花の写真の種類を分けてあります。クローズアップ写真を撮影するには、マクロレンズが必要です。標準レンズに近くて、使いやすい点で、入門用のマクロレンズとしては、フルサイズ換算で、60㎜くらいのレンズが売られています。しかし、本当に大きく撮影するのであれば、フルサイズ換算で120㎜くらいのレンズが必要になります。コンデジでは、マクロ切り替えスイッチが、ついていることが多いですが、機種によって働きが違います。最も簡単な場合は、オートフォーカスの探索範囲が違うだけです。この場合には、マクロレンズで撮影したような写真はとれません。

以下では、特殊なレンズが必要なマクロ撮影は、当面は対象外とします。そうすると、標準から広角側の画角で撮影する庭園写真(ガーデンフォト)と標準から望遠側の画角で一株の花を写す場合(以下では、フラワーフォトと呼ぶことにします。)に分けられます。

  • ガーデンフォト:基本は風景写真です。複数の花が、画面を構成していますので、2枚と同じ写真は撮れません。絞りはf8まで、絞ります。

  • フラワーフォト:1株の植物の全体、または、一部を撮影します。

     

ここまで、整理しても、フラワーフォトでは、何が良い写真かという点で、問題が残ります。ガーデンフォトは、風景写真と同じで、写真を見て行ってみたいと思えれば、良い写真です。つまり、このタイプの写真では、場所の個性が消えることはなく、その差を強調することが良い風景写真を撮るポイントになります。個性の差を強調することが良い写真になる点は、ポートレート写真でも同じです。フラワーフォトはこの点では2つのタイプに分かれます。

  • 個性の差を強調しない写真:花の写真では、個性の差を強調しない写真が良い写真である場合があります。植物図鑑に載せる写真です。この場合は、植物は、隅々まで、ピントが合っていることが望ましくなります。被写体の個性である一部が枯れている、一部が虫に食べられている、一部の形が変形していることがないようにします。スーパーで売っている、野菜や果物の選定基準と同じです。光線は、弱からず、強からずがよいです。カメラマンの個性は出してはいけません。ですから、写真を見ても、カメラマンはわかりません。

  • 個性の差を強調する写真:ポートレートや風景写真では、基本になる個性の差を出すことは、フラワーフォトでは容易ではありません。園芸品種の花は、きれいなものを選んで、品種改良しています。ポートレートでいえば、美人以外は、ジェノサイドでいなくなったような世界です。あるいは、韓国の整形美人は、皆同じような顔をしていて個性が全くないといわれますが、韓国の整形美人のポートレートを撮影するような世界です。この中で、個性の差を強調することは、容易ではありません。花の世界では、フラワーアレンジメントがあります。これは、複数の種類の花を並べることで、個性を表現する方法です。つまり、一種類の花の中での個性の表現は、あきらめています。一輪挿しというアレンジメントもありますが、例外です。一輪挿しでも、フラワーアレンジメントになる理由は、花器とのアレンジメントがあるからです。一枝の花の写真は、一輪挿しと同じなので、アレンジメントにはなりません。花器のない写真で、個性をだすのは、更に、困難です。筆者が考えられるアレンジメントは、花と虫だけです。

以上のように、「花はきれいだ。きれいなものを撮影したらきれいな写真になる。」という公式では、個性の表現というハードルを越えることができません。実は、写真関係の本を見ると、一番多いのが、ポートレート、結婚式で、その次が、風景写真になります。花の本は、クローズアップ関連で少しある程度で、極めて少ないです。つまり、花の写真(庭園写真を除く)では、食べられないのだと思われます。

 

表1 花の写真の種類

種類 画角(mm) コンデジ
庭園写真 30-50
植物1本、一枝、一株 50-90
クローズアップ、植物の一部 マクロ 顕微鏡モード、深度合成

実例

以下は実例での検討です。

写真1は、梅の枝の写真です。f5.6ですが、背景の枝とは距離があるので、それなりに背景がボケています。この程度の画角であれば、表1では、庭園写真に近く、「いってみたい梅林」が表現できればよいと思われます。カメラはコンデジですが、センサーは1インチくらいなので、ある程度ぼかすことは可能です。換算24㎜なので、表1でコンデジの列の〇に相当します。

 

写真2は、花を一輪とった一輪挿しタイプの写真です。背景はボケていて、花を際立たせることには成功していますが、写真の個性はほとんどありません。このタイプの写真では、伝えたいメッセージの表現は困難です。

写真3は一株の花にアゲハチョウが来ている写真です。チョウをいれるとアレンジメントの効果はでますが、チョウが思ったところに入ってくれることはまれで、撮影機会が得にくい問題が発生します。後ろの花はボケています。一方、一番手前のチョウの右の羽もボケてしまっています。チョウの羽が、ボケないためには、絞りを絞る必要があります。つまり、ボケ狙いの写真だけでは、上手くいきません。ちなみに、この25㎜レンズのf値は1.4です。写真3はプログラムモードで撮影しています。絞り優先モードで、絞りを更に絞って撮影する必要があります。一般に、絞り優先モードでは、ぼかさない場合は、f8~11、ぼかす場合はレンズの最少f値を使います。中間設定で絞り優先は、かなりレベルの高い撮影技術になります。また、アレンジしただけでは、メッセージには達しません。

次の3枚は失敗写真の例です。

写真4はf1.6、写真5はf1.4の撮影です。この2枚に共通する問題点は、1つの花を見てもピントがあっておらずぼけている点です。写真3のf1.8でもボケが多きすぎたのですから、写真4と5(f1.6とf1.4)で、被写体深度が浅すぎるのは当然と思われます。

写真4と5でははっきりしませんが、ピントのもうひとつの問題は、ぎりぎりまで、接写した場合には、カメラで焦点が合っているマークが表示されても、実際には、焦点があっていない問題です。この問題の発生頻度は、カメラにより異なりますが、注意をして撮影することが望ましいと思われます。

写真4と5のもうひとつの問題は、色飽和が起きていることです。色飽和には2種類あって、RAWのレベルで起こる色飽和と、RAWでは飽和しないが、Jpegのレベルで起きている色飽和があります。後者であれば、darktableで修正可能です。

 

写真6は、明るい広角レンズ(換算26㎜)で、花を一輪撮影したものです。最大限ぼかそうと最少f値の1.4を使いました。被写体深度が浅すぎて、花1つがボケてしまっています。写真4と5より重症です。30㎜前後の単焦点広角レンズでは最少f値が1.7くらいのものがおおく、1.4はまれです。広角ではf値をあまり小さくしないのは、扱いが難しくなるからとも思われます。広角で、大きく写すには、標準や望遠より、更に近寄る必要がありますが、これも容易ではありません。表1の植物1本に広角を入れていないのはこのためです。

まとめると、

  • 花全体、あるいは、花一株とチョウをボケないで撮影するには、ある程度絞らないとだめです。

  • 花を最短距離で撮影する場合、合焦マークの精度が落ちる場合があります。

  • 色飽和が起こりやすいので、RAWで問題がある場合は、露出を下げて撮影すべきです。

  • どのような写真に編集するかは、伝えたいメッセージによりますので、撮影する時には明確なメッセージを持つべきです。

 

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写真1 LX100 f5.6 1/1000sec 12mm(24mm) ISO200

 

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写真2 E-PL6 f1.8 1/4000sec 45mm(90mm) ISO100

 

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写真3 E-PL6 f1.8 1/4000sec 25mm(50mm) ISO200

 

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写真4 E- PL6 f1.6 1/4000sec 25mm(50mm) ISO100

 

 

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写真5 E-PL6 f1.4 1/200sec 25mm(50mm) ISO200

 

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写真6 EOS M3 f1.4 1/3200sec 16mm (26mm) ISO100