トランプ大統領の読み
トランプ大統領は、WHOのテドロス事務局長と手を切って、独自路線を行く方向で進んでいます。
一般的に考えれば、トランプ大統領に、分はないのですが、テレビのショー番組で生き残ってきたので、受け狙いの意味では、政策選択に対するセンスにも無視出来ないものがあります。
一方のテドロス氏も海千山千みたいでよくわからないところがあります。
日本国内では、国連は正義の味方みたいな評価ですが、選挙でポストを得るためには、なんでもありの世界です。選挙違反で捕まることはないのでやり放題です。これは、違反を取り締まるところが、国連にはないためで、制約条件は参加国が国内法に準じて、紳士的にふるまってくれることを期待しているだけです。ですから、国連では贈収賄は、送る側と受けとる側が問題がないと考えればそれでOKです(注1)。
もちろん、これは、国連が悪いといっているわけではなく、国際法の仕組みそのものです。
国内法ですと、法律を破れば、警察が動きます。しかし、国連警察はありませんし、国連刑法もありません。インターポールは情報交換のための組織でしかありませんので、国連職員を逮捕することはありません。
戦争を防ぐためには国際法が必要で、国際法は順守するための警察がないので、破られても当然なのですが、意外と守られることが多いので成り立っています。
ですから、日本のようにマスコミが、国連べったりの国は敗戦国の論理を引きづっているだけです。普通は2国間協議と国連のバランスをとって外交します。日本も、一時期、安全保障理事会の非常任理事国を続けていたことがありますが、あまりの選挙対策費用(接待費用も含む)の高騰に根をあげて、中断しています。
ですから、トランプ大統領のように国連と2国間協議のバランスを図ること自体は、自然な外交手段です。
こうした手法は、以前の大統領も行っていますが、トランプ大統領の場合には、「自分が」決めたことを誇示して、選挙に有利に持ち込みたいので、あえてセンセーショナルに政策を打ち出すので、目立っていますが、本質的には、それほど奇異な政策ではありません。
最近のテドロス発言
WHOのWEBを見ると、事務局長のテドロス氏は3日ごとくらいに、プレス発表をしています。その中には、新しいXXというクスリが有望そうであるなどという発言もありますが、日本国内に紹介されることはありません。事務局長のプレゼンは、すべてYouTubeでみることができ、これは日本の首相と同じです。ただし、視聴回数が少ないので、ほとんど使われていないと思われます。ですので、テドロス氏の発言のうち、国際的に紹介されるものは、極く一部です。
最近引用されたテドロス氏の発言に、6月22日のドバイで開催の「世界政府サミット」のキーノート・スピーチがあります。以下では、この内容を見ます。
世界政府サミット
この「世界政府サミット」がまず、第1の問題点です。これは、筆者の印象では、スイスのダボス会議の途上国版を狙って作られた会議のようで、先進国からは、若干の参加者がありますが、基本的には途上国の声を代表する会議です。どちらかというと日本国内では無視したい関係者が多いです。今年のテーマーはコロナウィルスで、テドロス氏がキーノート・スピーチをしています。このスピーチを紹介したのは、外電系が多かったです。
会議の紹介は以下のようで、正確なのはロイターだけと思われます。会議名を言いたくない場合の工夫が見てとれます。
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ロイター:テドロス氏はドバイ政府がオンライン形式で開催した世界政府サミット
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日テレ:オンライン形式の国際会議
発言内容
第2の問題点の発言内容のポイントを出典ごとに示すと以下です。
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AFP:同事務局長は、世界が直面している最大の脅威はウイルスそのものではなく、「地球規模の結束とリーダーシップの欠如」と指摘。「分断された世界ではパンデミックを打ち負かせない」「パンデミックの政治問題化が事態を悪化させている。われわれが皆安全になるまで、われわれの誰もが安全ではない」と話した。
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ロイター:テドロス氏は「国が結束すること、国際社会が団結することを世界は切実に必要としている。パンデミックの政治化がこうした結束を弱めている」と述べた。「今われわれが直面している最大の脅威は新型ウイルス自体ではなく、世界的な団結や指導力が欠けていることだ」と強調した。
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日テレ:「我々が直面している最大の脅威は新型コロナウイルスではない。国際的な連帯や指導力の欠如だ。分断された国際社会ではウイルスの世界的流行には打ち勝てない」
元の英文は、探したけれど見つからず、1日分の会議のYouTubeから探すしかなさそうなのであきらめました。
日テレの「我々が直面している最大の脅威は新型コロナウイルスではない。」はさすがに言いすぎなので、(WHOはいらないでしょうというツッコミが入ります)ロイターの「今われわれが直面している最大の脅威は新型ウイルス自体ではなく、世界的な団結や指導力が欠けていることだ」が無難な訳でしょうか。
何を言いたいのか
ツッコミが入るか否かは別にして、テドロス氏の発言は、完全にトランプ大統領の思うつぼにはまっています。
というのは、「世界的な団結や指導力が欠けている」という指摘は、国連の事務局長が発言すれば、それなりに、価値のある指摘になると思いますが、WHOが発言すれば、WHOは政治的組織であることを内外に認めていることになります。特に、実際に、WHOは台湾を排除していますので、「世界的な団結」発言には無理があります。この発言は、おそらく、トランプ大統領のWHO政策に対する批判であることはわかりますが、具体的にWHOのミッションは何で、今後、必要な行動を示す必要があったと思います。
コロナウィルスの世界データは、WHOに国連のルールで上がってきますが、その内容は、かなりおざなりで、送られてきたものを受け取ってまとめている程度です。例えば、日本のデータでは、都道府県単位のデータが含まれていないことは、このブログで指摘しています。また、デジタルデータを発信したり、グラフ化したり、GIS上に表示するサイトは全てWHOの外にあります。国連のシステムはインターネットができる前に、テレックスでデータをやり取りする時代にできました。国際会議をするために世界中から、航空機を使って、会議場に人を集める必要があり、そのために膨大な費用がかかっています。しかし、コロナウィルスの結果、こうした機能の多くは、Zoomなどの会議システムで代替し、在宅勤務で問題がないことがわかってきました。ですから、WHOは何をすべきか、国際機関は何をすべきかは、決して特殊でなく、現在重要な一般的な問題なのです。
結局、テドロス氏は、何を言いたいかがわからない発言をしてしまったと思います。
なお、今後、第2のWHOができた場合には、在宅勤務を使った組織になる可能性があります。第2のWHOが成功した場合には、その成功は、国際組織の在り方を変えていく原動力になると思われます。ですので、トランプ大統領の第2のWTO政策も(本人がそこまで理解していたかはわかりませんが)、技術的には成功する可能性が高いと思われます。国連職員の給与は参加国の職員の給与の中で、一番高い国に合わせて支給されます。ですので、途上国の人にとっては、国連職員は大変魅力的なポストになります。在宅勤務ですと、実際の生活費に合わせた給与になると思われるので、途上国の人は、反対すると思われます。一方、出資国からみれば、出資額の大幅減少が期待できるので、在宅勤務は進めたい改革です。
注1:IOCの東京誘致でも不適切な接待や収賄があったのではないかと問題視されていますが、これは、それそれの国の国内法に照らし合わせて、判断されるものです。IOC自体には、警察機能はありません。
引用
【6月22日 AFP】(更新)
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ(Dubai)当局が主催した保健分野に関するビデオ会議で同事務局長は、世界が直面している最大の脅威はウイルスそのものではなく、「地球規模の結束とリーダーシップの欠如」と指摘。
「分断された世界ではパンデミックを打ち負かせない」「パンデミックの政治問題化が事態を悪化させている。われわれが皆安全になるまで、われわれの誰もが安全ではない」と話した。(c)AFP
https://www.afpbb.com/articles/-/3289776?cx_part=search
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新型コロナとの闘い、最大脅威は国際的指導力の欠如=WHO
ロイター 6/23(火) 1:46配信
テドロス氏はドバイ政府がオンライン形式で開催した世界政府サミットで「国が結束すること、国際社会が団結することを世界は切実に必要としている。パンデミックの政治化がこうした結束を弱めている」と述べた。「今われわれが直面している最大の脅威は新型ウイルス自体ではなく、世界的な団結や指導力が欠けていることだ」と強調した。
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-who-idJPKBN23T2MA
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国際社会の連帯欠如「最大脅威」テドロス氏
日テレNEWS 6/23(火) 7:23配信
テドロス事務局長「我々が直面している最大の脅威は新型コロナウイルスではない。国際的な連帯や指導力の欠如だ。分断された国際社会ではウイルスの世界的流行には打ち勝てない」
テドロス氏は22日、オンライン形式の国際会議に参加し、国際社会の分断が感染対策の妨げになるとの見方を示しました。
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20200623-00000107-nnn-int