アフガニスタン撤退と英国の立場 - computer

2021/08/17のブルームバーグは次のように報道しています。

バイデン米大統領は16日、アフガニスタンからの駐留米軍撤退を決めた自身の判断について、適正だったと強く擁護した。ただ、「完璧には程遠い」ことも認めた。反政府勢力タリバンが首都を制圧し、米軍撤退の決定がアフガンを混乱に陥れたとの批判が高まる中、バイデン氏は政権発足以来最大級の危機に直面している。

スケジュールの読み違えがあって「完璧には程遠い」が、撤退は予定通りということです。後半の「バイデン氏は政権発足以来最大級の危機」はブルームバーグの判断です。撤退の発端は「トランプ前政権の昨年のカタールでタリバンと和平合意した」ことです。合意署名後、アフガニスタン政府とタリバンの交渉が始まっています。つまり、上の記事でもバイデン大統領は、次のようにいっています。

「大統領として私が選択しなければならなかったのは、この合意の遂行だ。さもなければ、春の戦闘シーズンのさなかに再びタリバンと闘う準備をする必要があった」

合意を破棄して、戦闘を拡大するか、合意を尊重して撤退するかの2者択一に追いこまれています。

2021/04/14に、バイデン大統領は、アフガニスタンからの米軍の完全撤退計画を発表します。

2021/04/14のロイターの記事を見ると、米軍の撤退の発表と同時に、英軍も撤退計画を発表していますので、事前に綿密な連絡が取られていたことは明らかです。

この撤退を受けて、中国は、タリバン支持を確実にして、7月28日、タリバンが天津で王毅外相と会談するに至ります。

8月3日の安保理は、タリバンを非難していませんので、中国はタリバン支持、米国と、英国は、アフガニスタン撤退とタリバンの承認を前提とした協議が行われていたことになります。

2021/8/16のKyodoは、「中国は、タリバン政権掌握を容認」と言っていますから、これは、8月3日の安保理の想定した行動です。

2021/08/17のJIJIは、米国務省のプライス報道官は16日の記者会見で、「新政府承認『タリバン次第』」といったと伝えていますが、これも想定の範囲内です。

わからないのは英国の出方です。英国は、8月3日の安保理のメンバーですから、8月3日には、タリバン政権を容認しています。

カブール制圧前の2021/08/13のAFP JIJIは、次のように伝えています。

英国のベン・ウォレス（Ben Wallace）国防相は13日、アフガニスタンからの米軍撤収を批判し、旧支配勢力タリバン（Taliban）の復権は世界の脅威となる過激派の温床を生み出す恐れがあると警鐘を鳴らした。

2021/08/16の読売新聞は次のように伝えています。

英国のジョンソン首相は１５日、記者団に「どの国にも２国間でタリバンを承認してほしくない。同じ考えを持つ全ての国が結束してほしい」と述べ、タリバンを正当な政権として認めないよう各国に呼びかけた。アフガンを再び「テロの温床」にさせないため、国連安全保障理事会や北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）と連携して対処する考えを強調した。

これは、ずいぶん、不自然な発言です。安保理（常任理事国5カ国、中国、フランス、ロシア連邦、イギリス、アメリカ）のメンバーは、基本線では、事前承認していたと思われます。

2021/08/17の朝日新聞は、16日の安保理の報道声明を次のように報道しています。

第2パラグラフは、朝日新聞の解釈で、事実ではありません。

　国連安全保障理事会は16日、アフガニスタンの情勢について緊急会合を開いた。会合後には「全ての敵対的行為をすぐに停止し、包括的な交渉を通じて、新しい政府を樹立することを求める」とする報道声明を出した。

　安保理はこれまで、タリバーンの自称である「イスラム首長国」について「復活を支持しない」とする決議を採択してきた。だが、ガニ大統領が国外に逃げ、タリバーンが国政の主導権を握ることが確実な中、アフガン市民の民意を反映させることが必要だと釘を刺すものとなった。

2021/08/16の安保理の報道声明は2本です。タリバンの記載があるのは、「We Cannot, Must Not Abandon People of Afghanistan, Secretary-General Tells Security Council Meeting, Stressing ‘the World Is Watching’ 」なので、朝日新聞の元の記事は、こちらと思います。

このなかで、タリバンの単語が出て来るのは、次の2つのパラグラフだけです。

The United Nations is committed to supporting Afghans. We continue to have staff and offices in areas that have come under Taliban control. I am relieved to report that in large measure, our personnel and premises have been respected. We urge the Taliban to continue to do so and to honour the integrity and inviolability of diplomatic envoys and premises.

国連はアフガニスタン人を支援します。タリバンの支配下にある地域に、引き続きスタッフと事務所をおきます。国連の人員と施設が概ね尊重されていることを安心して報告します。国連はタリバンにこれを継続し、外交交渉にあたる人と施設の安全性と不可侵性の尊重を要請します。

The humanitarian crisis in Afghanistan affects 18 million people — fully half of the country’s population. It is vital that basic services continue to be provided. In a statement issued yesterday, the Taliban said that they would work with existing institutions. It is crucial that civil servant salaries continue to be paid, infrastructure is maintained, airports are reopened and health and education services continue.

アフガニスタンの人道的危機は、国の人口の完全に半分である1,800万人に影響を及ぼしています。生活に必要な基本的なサービスを継続して提供することが重要です。タリバンは、昨日の声明で、既存の機関と協力すると述べました。公務員の給与が引き続き支払われ、インフラが維持され、空港が再開され、健康と教育サービスが継続されることが重要です。

「包括的な交渉を通じて、新しい政府を樹立することを求める」とは、書かれていません。

タリバンを承認するつもりだが、その条件は、人道的危機に対応することだと読めます。

新聞は、出典を明示すべきです。

今回の話題は、英国の反タリバンの姿勢です。安保理の報道声明をみると、スタンスの違いが際立っています。何か、理由があると思われます。