<11-4)の後半を改訂して、11-5)にしました>
11-5)「創造的破壊のダイナミズム」を阻止するもの
Jcastニュースは、次のように伝えています。
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Xへの流出文書によると 伊藤忠商事が大幅な給与改定を行い、 2024年度の利益目標を達成した場合の25年度の年収は、2024年度比の総平均で10パーセントの上昇を予定しているようです。さらに、役職別の成績優秀者の年収水準も掲載されていて、利益目標を達成した場合、「GRADE3」と呼ばれる担当者級でも現行だと年収2200万円のところ、改定後は2500万円になる、「日本経済界でも突出した高給」になるようです。
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<< 引用文献
伊藤忠商事、優秀社員は「日本経済界でも突出した高給」へ Xで社内向け文書拡散...広報「事実」も「労働組合と交渉中」2024/09/04 Jcastニュース
https://www.j-cast.com/2024/09/04492585.html
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人材獲得には、賃金を上げることが必要です。しかし、問題は、適正な賃金の評価です。「利益目標を達成した場合」は、成果主義であって、能力主義ではありません。
「利益目標の経過が立つことは、新産業のベンチャーの活動ではないことを意味します。成果主義は、短期的には効果がありますが、画期的な製品やサービスを生みません。能力主義は、可能世界を考えないと評価できません。
伊藤忠商事には、直接該当する訳ではありませんが、円安と法人税減税で、企業の付加価値は増えていて、給与を上げることは可能です。しかし、それが、「創造的破壊のダイナミズム」に繋がらない場合、中期的には、日本経済の停滞と混乱の原因になる可能性が高いと思います。年功型賃金は、前例主義で、労働者の評価をしていません。この状態で、能力主義ができないので、人事担当者は、能力主義と思っているかも知れませんが、実態は、前例主義に成果主義をミックスした状態になってしまいます。
例えば、 「2024年度の利益目標を達成した場合」、その原因は、担当者の能力によるとは限りません。景気やポストの特性にもよります。
大学では、能力主義ではなく、論文の本数で、評価する成果主義が導入された結果、解決が簡単な改良型の研究ばかりになってしまいました。
筆者は、「2024年度の利益目標を達成した場合」の評価基準は、成果主義であって、能力主義ではないと主張します。
筆者には、大企業の経営の経験はありません。
筆者は、どうして、評価基準に問題があると主張できるのでしょうか。
経験がゼロの筆者の主張は間違っているのではないでしょうか、
読者が、疑問に答えられるのであれば、問題はありませんが、筆者は、この質問に答えられない読者も多いと考えています。
解答を書きます、
筆者は、評価基準に問題があると主張する根拠(理由)は、統計学(科学)のメンタルモデルで、容易に、反例の反事実が提示できるからです。
根拠1:積分時間の問題
仕事の業績を評価する場合には、業績を積分する時間が問題になります。
年功型組織では、2年程度で転勤することもあり、その場合には、中長期の問題解決が放棄されるリスクがあります。
OJT中心で、メンタルモデルの共有が文書ではなく。
根拠2:ボラリティの問題
株価の評価は、株価の値だけでなく、ボラリティ(分散)を問題にします。
人事評価基準には、ボラリティが考慮されていません。
これは、評価基準を作った人が、統計学のメンタルモデルを持っていないことを意味します。
評価基準を作った人は、前例主義やベーコン流の帰納法のメンタルモデルの持ち主の可能性が高いと思われます。
根拠3:機会費用の考慮
機会費用が考慮が必要です。機会費用は、反事実に基づく推定値です。
このため、ベーコン流の帰納法のメンタルモデルの持ち主は、機会費用を考えることができます。
企業は、ハッカーに狙われています。
ハッカー対策の専門家の便益は、ハッカーをブロックすることで、失われない費用になります。
丁寧に書けば、ハッカー対策の専門家がいる場合には、次になります。
A=ハッカー対策の専門家がいない場合のハッカーによる企業の損失(反事実)
B=ハッカー対策の専門家がいる場合のハッカーによる企業の損失(事実)
機会費用 = B ー A
ここで、損失の符号はマイナスです。
20年前に出現した因果推論の科学を使えば、機会費用の推定を科学的に行なうことができます。
因果推論の科学は、統計学をバージョンアップしたものです。
因果推論の科学のメンタルモデルのない人は、機会費用を正確にイメージできません。
経済学にも、機会費用の概念がありますが、計算方法は確立していません。
DXの推進についても、機会費用を考えることができます。
A=DX対策がない場合の利益(事実)
B=DX対策がある場合の利益ーDX対策費用(反事実)
機会費用 = B ー A
根拠4:期待値と反事実の問題
不確実性がある場合、反事実の視点でみれば、成果が出ない(失敗した)場合でも、失敗の原因の100%が担当者にはありません。
成功の評価より、失敗の評価がずっと重要です。
根拠5:形而上学の問題
形而上学は、形式が内容を優先する、あるいは、オブジェクトが、インスタンスを優先するという考えです。
労働者の新卒の一括採用は、人材の内容については不明です。
役職で、給与がきまるシステムは、形式が内容を優先しています。
11-6)評価問題の例
形而上学は、費用対効果が無視されます。
人材の評価と給与の水準の評価(費用)は、能力(効果)に応じる必要があります。
効果の推定も、上記に検討したように、非常に複雑で、「年度の利益目標の達成」で済ませることは出来ません。
ところが、年功型雇用では、ポストに付いていれば、固定給を払うことが原則です。
ここには、人材の評価と給与の水準の評価はありません。
日本の組織は、年功型雇用によって、人材の評価と給与の水準の評価を放棄してきたため、評価が必要になるジョブ型雇用が不可能になっています。
評価が成立する場合には、評価をする人と、評価をされる人の間で、メンタルモデルが共有できて、コミュニケーションが成立している必要があります。
これが出来て、はじめて、給与の金額の協議が可能になります。
ジョブが、単純労働の場合には、「年度の利益目標の達成」で済ませることも可能です。
これは、社会主義におけるノルマと同じ発想です。
しかし、高い給与に値する高度人材に求められるジョブは遥かに複雑です。
ジョブディスクリプションに指定されている内容も複雑になっているはずです。
逆にいえば、メンタルモデルの共有ができていなければ、ジョブディスクリプションはかけません。
人事の評価基準は、経営者に対するチューリングテストになっています。
評価基準をどこまで、メンタルモデルの共有ができるように書くことが出来ているかをみれば、経営者のあるべき経営(経営目標)の理解度が判定できます。
部下に、利益をあげろと指示する経営者は、経営の具体的な内容(エビデンス)が理解できていません。この状態では、DXが進まず、「創造的破壊のダイナミズム」は、不可能です。
加谷珪一氏は、次のようにいいます。
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今の日本では、多くの企業が、賃上げを行っても役職手当を廃止するといった方法で総人件費が増えないよう調整している。どうしても総人件費が増えてしまう場合には、(中略)そのシワ寄せは、取引先の中小企業などに及んでしまう。日本全体で賃上げが進まないのは、企業が基本的にコスト削減のみで利益を維持しようと試みるからである。
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<< 引用文献
日本企業が「賃上げ」をできない「根本的な理由」…経営者たちが「仕事をサボっている」驚きの現実 2024/08/28 現在ビジネス 加谷珪一
https://gendai.media/articles/-/136289
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加谷珪一氏が指摘しているように、<経営者たちが「仕事をサボっている」>のであれば、改善の期待ができます。
一方、科学の方法のメンタルモデルがない場合には、パース氏の分析では、まったく不合理な前例主義(固執の方法)、人事権の乱用で口封じをする(権威の方法)、実態を無視した形式主義(形而上学)が使われます。この場合には、メンタルモデルの共有ができないので、コミュニケーションが成立しません。