1)オブジェクトとインスタンス
オブジェクトとインスタンス、あるいは、変数と値の違いは、プラグマティズムでは、形而上学の判定に使います。
カント氏は、アプリオリが大好きですが、プラグマティズムは、アプリオリを否定します。
カント氏は、哲学もまた数学や自然科学にならって、必然的で普遍的な思考方法を獲得しなければならないと主張し、そのためには、人間のあらゆる経験から独立して、理性自身が認識のわく組みを決めることができなければならない(アプリオリな認識)としました。アプリオリな認識のうち、経験がまったく混入していない認識を「純粋理性」と呼びました。
プラグマティズムの発案者のパース氏は、カント哲学の否定からスタートしています。カント氏は、言語による思考は、数学のように完全であるという前提で推論します。しかし、プラグマティズムは、言語の完全性の仮定を認めません。言葉(記号)が、リアルワールドの値に対応が必要であると考えます。これは、自然科学のメンタルモデルです。
プラグマティズムは、リアルワールドの遺伝子を扱います。遺伝子は生まれた時に既に、コード化されているので、アプリオリに近い働きをしますが、コードはコピーエラーを含んでいて、カント氏のアプリオリな認識とは、かけ離れています。
1959年に毛沢東氏は、大躍進という政策を実施しました。その結果、経済の生産性が落ちて、推定の幅がありますが、2000万人が飢饉でなくなりました。
変数名{値}という表記法によれば、次になります。
大躍進{2000万人の飢餓}
変数名とネーミングと値の間には、関係はありません。
コンピュータのプログラムで、つぎのようなコードを書くことができます。
EVEN = [1,3,5,7]
偶数(EVEN)は、 [1,3,5,7]ではありませんが、この変数の命名で問題は起こりません。
問題は、変数名ではなく、インスタンスです。
2)アベノミクスの要約
アベノミクスで起ったことは、生産性向上の停滞、円安、企業の利益の増大、労働者の賃金の低下です。これらが、インスタンスになります。
経済学の基本では、経済成長には、輸出の拡大か、内需の拡大が必要です。
政府と財界は、労働者の賃金を低下させ、内需を潰しました。基準通貨のドルでみれば、賃金は、半分になっています。
アメリカでは、フォードは、T型の自動車を製造するときに、労働者の賃金を上げました。その結果、労働者は、フォードの自動車を買うことができるようになり、フォードは成長することができました。マルクスは、資本家は労働者を搾取すると言いましたが、労働者を搾取すると企業成長を阻害する事例が見つかりました。
第1次世界対戦後のベルサイユ条約で、敗戦国のドイツは、膨大な賠償金のために、財政赤字になり、それは、ナチス政権の出現の原因にもなりました。
第2次世界大戦の後では、戦勝国の考え方は変化していました。支払い不可能な膨大な賠償金を要求するよりも、復興援助をして、製品を売るマーケットを作った方が、より大きな利益が得られると考えるようになりました。ただし、安定経済成長期の日本や、最近の中国のように、軒先を貸して、母屋をとられることは予想外でした。
アベノミクスのように、内需を潰してかなわないという判断は、ベルサイユ条約レベルの理解能力で、経済学がまったく理解できていないことになります。
アベノミクスのもう一つの成果は、貿易黒字がなくなったことです。
10年前には、自動車と電気製品が、貿易黒字を生み出していました。
しかし、電気製品の輸出はなくなりました。
今後自動車の輸出がなくなると、貿易黒字はなくなります。
日本の自動車メーカーは、EVに出遅れています。
電池の製造価格では、中国が圧倒的に競争優位になっていて、あと10年はその地位が変わらないだろうと言われています。
ドイツの自動車メーカーは、EVへの移行を遅らせています。
EVへの転換速度が変化しなければ、日本の自動車の輸出の減少を避けることは不可能です。
日本の自動車メーカーの海外生産比率は、80%に達しています。
中国のEVメーカーは、海外で生産工場を展開しており、日本の自動車メーカーと競合しています。
中国は、世界最大の自動車のマーケットなので、中国のEVメーカーには、技術開発における規模の経済の優位性があります。
つまり、日本の自動車メーカーが、EVの技術で、中国メーカーに勝つことは非常に困難です。中国は、技術系の大学を拡充してきましたので、エンジニアの確保が容易になっています。
アベノミクスのインスタンスは、日本の存続のリスクを極限まで高めたことです。
仮に、日本の自動車メーカーが自動車を輸出できなくなった場合、貿易赤字は増大しますが、外貨がないので、モノを輸入することが出来なくなります。
政府は、「日本製は良い、日本製品を愛用すべき」と宣伝しますが、内需を潰してしまったので、購入する資金がありません。インバウンドが増え、日本人のお客が減ったのは、そのあらわれです。
現在でも、国際収支が黒字である理由は、海外投資に対するリターンが、赤字を埋めているためです。しかし、デジタル赤字の拡大のような成長産業の輸入片加速に、海外投資に対するリターンの増加速度が追いつくことはあり得ません。
自動車が輸出できなくなった場合、その近い将来に、日本は、内需と貿易黒字をうしなって、1950年頃の経済に逆戻りします。
食料とエネルギーを輸入する外貨がないために、食べるために、皆が農業をする農業国に戻ります。食料自給率は、100%になりますが、飢饉は止まりません。
1945年の敗戦、日本は、飢餓状態にありました。周りが海であったこと、周辺の国も日本と同じく貧しかったので、難民は発生しませんでした。
アメリカの医師の10%以上は、インド系です。これはインドから、頭脳流出した結果です。日本もインドのようになれば、高度人材の流出は止まらなくなります。
野口悠紀雄氏は、2024年8月25日の朝日新聞を引用しています。
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今年の5月、日本の造船会社がインドネシアからの技能工を採用する予定だった。提示した時給は1200円。ところが、韓国が1700円で提示して、結局、韓国に取られてしまった。
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これは、円安が原因であるとして、1ドル=109円という水準に、円ドルレートがもどれなければ、日本は、「人材獲得競争」には勝てないといいます。
<< 引用文献
円安のせいだ!日本が韓国に「人材獲得競争」で敗北…!インドネシアの技能工が日本ではなく、韓国を選ぶ「深刻すぎる理由」2024/09/04 現代ビジネス 野口悠紀雄
https://gendai.media/articles/-/136579
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3)自民党の総裁選
自民党の総裁選の候補者が出そろいつつあります。
候補者は、キーワード(オブジェクト)を振り回していますが、そこには、インスタンスは示されていません。
岸田首相の「新しい資本主義」も「所得倍増計画」のキーワードだけで、インスタンスは、アベノミクスの継続(利権の政治の継続)でした。
候補者は、本当にインスタンスを変えるつもりがあるのならば、アベノミクスに反対して、離党したはずです。
つまり、候補者は、形而上学で、選挙に勝てると思っています。
候補者が、政策を提案した場合に、「その政策で、量的にどこに違いが生じますか」と聞けばよいのです。
その違いが生じる対象が、所得の中央値、男女・正規非正規の賃金格差のような経済指標であれば、もっとよいです。
さらに言えば、政策効果を点検するための前向き研究が含まれているべきです。
リアルワールドの変化を問題にして、解決する方法が科学の方法です。科学の方法を用いていれば、これらの質問に答えられますが、形而上学では、答えられません。
プラグマティズム(科学の方法)は、権威の方法、形而上学、前例主義を打倒します。
しかし、そのプロセスは、多様です。科学の方法が通用するようになったときには、既に、日本は、飢饉の国になっていることもあり得ます。
毎日新聞によれば、大学生が「いま節約しているもの」(最大三つまで選択式)のトップは、食料品で51・0%です。
<< 引用文献
大学生の98%が物価高を実感 いま節約しているものは? 2024/09/03 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240903/k00/00m/020/036000c
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ノーベル経済学賞の受賞者で、飢饉問題の専門家であるセン氏は、ベンガル飢饉の分析から飢饉は、食料へのアクセス能力の差で、最弱者に対して生まれると言います。
大学生は、食料へのアクセス能力の最弱者ではありません。
既に、日本国内では、先進国ではありえない飢饉が、最弱者で発生してる可能性が高いです。
利権を優先して、現在の政策を継続すれば、大躍進と同じように、飢饉が発生する可能性が高いです。
そのとき、候補者のキーワードは、大躍進と同じように、歴史に残ることになります。
キーワード{何万人もの飢餓}