君たちはどう生きるか(8)

11-4)デジタル貿易の理論

 

高度経済成長は、加工貿易の理論を中心に展開しました。加工貿易の理論のメンタルモデルの共有を図るために、政府は、小学校の社会科のカリキュラムまで、動員しています。

 

現在の政府が、普及しているメンタルモデルは、橋の哲学のメンタルモデルです。経済成長を犠牲にしても、弱者を救済しなさい。市場原理は、強欲資本主義です。企業は、政府と一丸となって、中抜き経済を推進しましょうというものです。

 

旧態依然とした現在の科学の水準でみれば、間違ったカリキュラムを教えている大学が権威で、18歳の大学の入学試験が唯一の成功のチャンスで、次のチャンスはありません。

 

これでは、「創造的破壊のダイナミズム」のメンタルモデルはなくなります。

 

財務省が2024年9月2日に公表した23年度の法人企業統計の経常利益は前年度比12.1%増の106兆7694億円となり、3年連続で過去最大を更新しました。企業の内部留保に当たる利益剰余金は8.3%増の600兆9857億円と、12年連続で過去最大となりました。

 

ここで、なされる議論は、内部留保はよいか悪いかという問題です。視点(メンタルモデル)は3つあります。

 

第1は、1つの企業の経済活動としては、問題はありません。

 

第2は、政府の経済政策としては、これは失敗です。内部留保されたお金は、回転しませんので、経済成長に寄与しません。政府は、法人税を減税すれば、設備投資が増えて、経済成長すると主張していました。ほぼ同じ時期に、消費税増税をしました。つまり、家計から企業への所得移転が起ったわけです。内部留保分のお金は、所得移転しないで、家計においた方が回転率があがったはずです。つまり、政府は経済成長を阻害しまた。

 

企業の利害関係者は、内部留保は悪くないといいます。法人税減税は、法改正のプロセスを経ているので、法的には、悪くはありません。しかし、法人税減税は、経済団体の希望で実施しています。最終的な責任は、与党になります。しかし、企業が経済成長の阻害に協力していますので、「君たちはどう生きるか」という企業倫理の問題が起こります。SDGsに違反している訳です。

 

第3の視点は、デジタル貿易の理論の視点です。

 

高度経済成長期に、池田首相は、家計から企業への所得移転は経済成長に繋がると主張し、その時には、設備投資が増えました。この時は、農業から工業への産業のレジームシフトがおこりました。

 

高度経済成長期の産業のレジームシフトを図式で書けば、次になります。

 

(旧産業)農業=>(新産業)工業

 

デジタル貿易の理論の産業のレジームシフトを図式で書けば、次になります。

 

(旧産業)工業=>(新産業)情報産業(デジタル産業)

 

加工貿易の理論のときには、家計から、(新産業)工業への所得移転がありました。

 

アベノミクスの時には、家計から(旧産業)工業の所得移転がありました。

 

これは、加工貿易の理論で考えれば、家計から、(旧産業)農業への所得移転に相当します。

 

アベノミクスの第3の矢は、産業構造改革でした。

 

しかし、アベノミクスは、産業構造改革をブロックするために、家計から、(旧産業)工業の所得移転を行ないました。この場合、生産性が上がらず、トリクルダウンは起こりません。



カッツ氏は、「日本経済の未来を賭けた戦い:起業家対大企業」で、起業家(ベンチャービジネス)が日本経済の救世主であると主張しています。

 

これから、本来行なわれるべきであった、デジタル貿易の理論がわかります。

 

法人税減税をしなければ、内部留保に相当する資金は、政府の手元に残ります。この資金を起業家(ベンチャービジネス、新産業)に投資すれば、「創造的破壊のダイナミズム」が実現できたはずです。

 

あるいは、早急に、法人税増税して、内部留保の一部を回収して、得た資金をベンチャー企業に投資すればよいことになります。工業型の企業は、増税に反対します。しかし、これは、加工貿易の理論の時に、農業者に起こったことと同じです。

 

デジタル貿易の理論のメンタルモデルの普及と共有を図る以外に、方法はありません。