繰り返しますが、レンズの物理性能は、次の条件の制約を受けます。
(C1)径の大きなレンズは、径の小さなレンズより性能がよい
(C2)ズームレンジが狭いレンズは、スームレンジの広いレンズより性能がよい、単焦点レンズは、ズームレンズより性能がよい
(C3)構成するレンズの枚数が増えるとレンズは暗くなる
(C1)の条件は、フルサイズセンサーカメラでは余り問題になりません。
フィルム時代には、小さなレンズもありました。
しかし、デジタルカメラになって、レンズ性能への要求が強くなり、小さなフルサイズセンサー用のレンズはなくなりました。
つまり、フルサイズセンサー用のレンズでは、「(C2)ズームレンジが狭いレンズは、スームレンジの広いレンズより性能がよい」、「単焦点レンズは、ズームレンズより性能がよい」という公式があてはまります。
下剋上問題が起こるのは、APS-Cセンサーが混在した場合です。
APS-Cセンサーに、フルサイズセンサー用のレンズをつけると、中央部分がクロップされます。周囲の画質の悪い部分は使われません。これは、クロップされる外のレンズの性能は、画像には関係しないことを意味します。レンズを小さくしても、性能が劣化しないのです。
ですから、クロップセンサーでは、(C1)のレンズの径の公式があてはまらなくなります。
フルサイズセンサーのカメラの画質は、クロップセンサーのカメラの画質よりよいと考えられています。
これには、前提があります。
第1は、同じレンズを使った場合の比較です。
第2は、ダイナミックレンジの違いです。これは、明暗の差の大きなシーンでは効きますが、通常のシーンでは問題になりません。
第3は、解像度の問題です。フルサイズセンサーは、ピッチに余裕があるので、解像度をあげることができます。プロのカメラマンは、解像度の高いセンサーを好みますが、これは、写真を印刷するためです。プリンタは、ディザ法をつかうので、ディスプレイよりも遥かに高い解像度が必要になります。写真の99%は、ディスプレイで見るものですから、その場合には、高い解像度は不要です。
第4は、良し悪しの問題ではなく、物理特性の問題です。画角と被写界深度は、物理的にきまります。ポートレートで、モデルとの距離が3mと固定されれば、フレームに入るモデルの大きさは換算画角できまります。フレームに入るモデルの大きさ以外は、レンズの物理特性できまります。クロップセンサーでは、フルサイズセンサーより画角は望遠になります。同じ物理特性のレンズを使って、クロップセンサーで、同じフレームをとるには、より距離をとる必要があります。モデルとの距離がとれるかという問題もありますが、被写体との距離が大きくなると被写界深度が深くなります。ボケなくなります。
もうひとつの問題は、フィルム時代からのカメラマンは、フルサイズセンサーの画角と被写界深度が基準として頭に入っている点です。クロップサイズの場合には、画角と被写界深度に違和感が出てしまいます。
この2つが圧倒的に効く場合は、ポートレートです。プロの写真家のビジネスモデルでは、ポートレート、特に、結婚式の写真が大きな比率を占めています。この分野では、クロップセンサーのカメラは明らかに不利になります。
それ以外の場合には、ボケ量は、ほとんど問題にはならないと考えます。
なぜなら、物理的に同じスペックのレンズが使えるからです。
カメラのレビューをしている人は、ほとんどが利害関係者なので、クロップセンサーのカメラは、ポートレートには向かないとは言いません。
レンズの性能が違って、ダイナミックレンジが大きくなければ、クロップセンサーのカメラの画質が、フルサイズセンサーカメラの画質より良くなることがあります。
これは下剋上ですが、その点を明確に書いたレビューはほとんどありません。
なお、クロップセンサーのカメラでも、マルチショット合成をすれば、弱点を補うことができます。
ISO感度を変化させたマルチショット画像を合成すれば、ダイナミックレンジが広がります。
センサーを横に動かして、ハイレゾショットをとれば、解像度をあげることができます。
マルチショット合成のボケはfujifilmのコンデジが採用していました。ミラーレスでは、逆にフォーカス合成があります。
また、OMDSには、NDフィルター機能があります。
マルチショット合成の問題点は、複数画像のコンテナ形式が標準化していないことで、RAW現像ソフトでの合成が不便です。また、合成方法は、いまの時点では、発展途上です。
写真1は、フイルム時代のレンズSuper takumar 55mm f1.8で撮影しています。
フィルター径は、49mmです。現在のフルサイズセンサー用のレンズで、フィルター径49mmは少ないと思います。