オブジェクトと関数(3)オブジェクトのレイヤー

(オブジェクトの一般化を考えます)

 

1)GISとレイヤー

 

GISでは、全てのオブジェクトは、位置と時間データを持ちます。

 

オブジェクトをIDで区別すれば、次のように定義できます。

 

(ID、x、y、x、t)

 

この形式のデータは、ベクトルデータと呼ばれます。

 

位置情報をチェスや将棋形状のタイル上の位置に変換したデータは、ラスターデータと呼ばれます。

 

マス目を大きくすると、精度が落ちて、1つのマス目に2つ以上のデータが乗ります。

 

GISでは、演算するときには、ラスターデータが好まれます。

 

これは、ラスターデータを使うことで、演算量が減るためです。

 

良く知られているラスターデータには、土地利用、標高、メッシュ人口などがあります。

 

少子化、過疎などという単語をもちい得ると簡単なオブジェクトがあると勘違いしがちですが、人口密度のオブジェクトは、メッシュ人口のラスターデータです。

 

GPS衛星が普及する前には、位置情報のデータを得ることは困難でした。

 

ラスターデータが普及したのは、今世紀に入ってからです。

 

GISでは、ベクトルデータとラスターデータを属性ごとのレイヤとして扱います。

 

論理的ではないのですが、ヒュームは、因果モデルでは、原因は、結果よりも先に起こる時間順性がある、なおかつ、その間のタイムラグが小さくとられる習慣があるといいました。

 

原因が起こってから、100年後に結果が発生する現象があっても、論理的な矛盾はありません。

 

しかし、そのような現象は観測が困難です。

 

なので、一般には、観測の容易なタイムラグは小さいという前提が用いられます。

 

同様に、観測の容易さから、原因と結果は、空間的に近い場所でおこるという前提をおきます。

 

ラスターデータは、この前提が成り立つ場合には、非常に扱いやすいデータになります。

 

書籍は、読むためにあります。

 

書籍を読むと脳の中に変化が起きて、感動したり退屈したりします。

 

書籍をスマホでダウンロードして読む人がいて、位置情報やユーザー属性へのアクセスを許可していれば、読書という関数のデータがえられて、それを、ラスターデータに流し込むことができます。

 

読んだ本に感動しましたかというアンケートをする方法もありますが、それをしなくても、購入履歴のデータがあれば、読書後、類似の本をダウンロードした場合には、恐らく、感動したのだろうと予測できます。

 

つまり、ある本の読書という関数についてのラスターデータをつくることができます。

 

ベストセラーになる本は、その時代の読者の要求にこたえた本です。

 

時代が変化すれば、読者の要求が変化して、ベストセラーが変わります。

 

人文科学で、古典の価値は変わらないという主張には、エビデンスはありません。

 

恐らく、データ不足を言い換えた表現であると思われます。

 

経済学の対象は、経済財とサービスです。

 

本は、経済財ですが、電子書籍はサービスです。

 

購入者が、つん読でも、本は売れますが、本来の使用目的ではないと言えます。

 

ラスターデータのレイヤでオブジェクトを見ると世界が変わってきます。

 

すくなくとも、位置情報のないデカルトの「われ思う」には付き合いきれない気がします。

 

2)レーヤーの重なり

 

GISでは、レイヤーの重なりを処理します。

 

一番簡単な演算は、ANDとORです。

 

メッシュ人口データの応用を考えます。

 

リスキリングを例にします。

 

リスキリングは、学習によってスキルレベルがあがることです。

 

数学などのカリキュラムには、階層性があります。

 

分数ができなければ、方程式が解けません。

方程式が解けなければ、微分はできません。

 

リスキリングとは、beforeスキルをafterスキルにグレードアップする仕組みです。

 

学習しても、100%目標に到達することは困難です。

 

これは、beforeスキルレベルのメッシュ人口データと、afterスキルレベルのメッシュ人口データをつくった場合、後者は、前者に包含されることに対応します。

 

この場合には、スキルレベルは、beforeスキルとafterスキルの2つで、2枚のレイヤを扱っていることになります。

 

スキルのステップのサイズは任意ですが、学校教育では、ステップは、1学年に設定されています。

 

そこまで、細かくなくとも、小学校、中学校、高等学校、大学、大学院のレベルであれば、逆転は困難でしょう。

 

俗に、学習理解度を753ということがあります。

 

これは、小学校レベルのスキルのメッシュ人口は、小学校卒業人口の70%、中学校レベルのスキルのメッシュ人口は、中学校卒業人口の50%、高等学校レベルのスキルのメッシュ人口は、高等学校卒業人口の30%であると解釈することもできます。

 

大学定員の70%は文系なので、数学について考えれば、753とは整合性があります。

 

ITエンジニアレベルのリスキルングは、大学院卒業レベルか、そのもう一段上のレベルと思われます。

 

3)学問の解析手法の世代のレイヤー

 

以下では、学問の内容ではなく、手法の完成について考えます。

 

近代農学は、19世紀初頭にドイツのテーア(A.D.Thaer)が、イギリスの輪栽式農法をドイツに導入するにあたり、科学的に輪栽式農業の合理性を説明しようとしたことに始まり、19世紀に主要な部分が完成して、日本に導入されています。

 

遺伝子組み換えの農学という分野もありますが、遺伝子組み換えの手法は生物物理学が生み出したものです。

 

国文学は、本居 宣長(1730年ー1801年)に完成しています。研究者によっては、その後の国文学は。本居 宣長を越えていないというので、18世紀には、完成したと思われます。

 

法学は、ジョン・ロールズが、1971年に刊行した「正義論」(A Theory Of Justice)で完成したように見えます。

 

以上の区分には、多くの反論があると思います。年代の区切りは見直せばよいと思います。

 

ともかく、学問の分野ごとに、手法が完成した世代を特定することができます。

 

GISのレイヤは、東経と北緯の空間データに対して、作成されました。

 

これと同様に、学問空間に対しても解析手法の世代のレイヤデータを作成することができます。

 

大学は専門分野には独立して、等しい価値を持っているという不可侵の前提があります。

 

しかし、専門分野によっては、数十年以上前の手法が現在も使われている場合が多くあります。

 

データサイエンスは、情報データをあつかう学問です。データサイエンスの手法は、情報データの種類に関係なく、汎用できます。

 

つまり、分野ごとの数十年以上前の手法を使うより、データサイエンスの手法を使う方が、科学的です。

 

問題は2つあります。

 

第1は、データサイエンスの視点でみれば、過去には代替手法がなく、正当化された手法で、現在では、使うべきでない手法を使っている専門分野が多数あるということです。これは、研究を対象にしています。



第2位は、現在では、使うべきでない古い代替手法が広くなく手法が広く教育されている点です。この問題は、教員に、新しい手法を教えるスキルがない(教員自身が、古い代替手法で研究を続けている)ことと、学生に、数学やプログラミングの基本的なスキルがないため、教育が不可能なことです。

 

同じ専門の中に複数の解析手法の世代が混在することもあります。

 

経済学では、微分方程式を使わないで理解させるために、図式をつかった解析手法が伝統的に行なわれてきました。しかし、経済現象は微分方程式で記述されるのですから、この方法は、回り道で、非効率です。

 

新しい解析手法の世代では、微分法方程式を数値的に解きます。このタイプの教科書は種類が少ないのですが、代表的な教科書の著者であるハル・ヴァリアンは、大学の経済学の教授から、Googleに転職しています。




4)ミームのレイヤー

 

学習スキルレベルのメッシュ人口データのレイヤが、リスキリング可能な人口を考える上で使えました。

 

エマニュエル・トッド氏は、家族制度が、ブリーフの固定化に影響を与えていると主張しています。

 

この場合には、家族制度のメッシュ人口データのレイヤをつくって考えればよいことになります。

 

一人当たりGDPのメッシュ人口データのレイヤを作ることもできます。

 

一人当たりの可処分所得のメッシュ人口データのレイヤを作ることもできます。

 

宗教のメッシュ人口データのレイヤを作ることもできます。

 

人間の行動を物理法則のように、正確に予測することはできません。

人間の行動は、家族制度、宗教、所得(一人当たりの可処分所得)の影響を受けます。

 

これらのレイヤを無視した行動予測はナンセンスです。

 

経済学は、人間は、便益を最大化する行動をとり、その結果、期待される最大の経済成長が得られるという前提をおいています。

 

しかし、実際には、人間の行動は、家族制度、宗教、所得(一人当たりの可処分所得)の影響を受け、便益を最大化しない(経済合理性を欠く)行動をとり、その結果、経済成長が小さくなります。

 

だから、経済学は無効だと主張する人文科学者もいますが。経済学は、デザイン思考で、期待される経済成長を最大化する学問なので、帰納法で批判することはナンセンスです。

 

多くの人文科学の予測は、特定のレイヤの元でしか成立しません。

 

エマニュエル・トッド氏は、家族制度というレイヤのもとで、予測が成り立つとレイヤを明示していますが、トッド氏のようにレイヤを明示している人はまれです。

 

パースは、ブリーフの固定化法のなかで、ブリーフの固定化には、固執の方法、権威の方法、形而上学、科学の方法の4つがあると問題を整理しました。

 

これは、ブリーフの固定化は、固執の方法、権威の方法、形而上学、科学の方法(プラグマティズム)の4つのレイヤの影響下にあると読み替えることができます、

 

この4つのレイヤはミームになっています。

 

科学の方法のレイヤの影響が強い空間では、ブリーフの固定化には、科学の方法が使われます。

 

一方、権威の方法の影響の強い空間では、ブリーフの固定化には、権威の方法が使われます。たとえば、イスラム教の権威の影響が強い空間もあります。

 

ある新興宗教の影響の強い小さな空間では、科学的な輸血が拒否されています。

 

日本は、法度制度の権威の方法の影響の強い空間です。

 

政治家の中には、当選したという権威があれば、フリーフの固定化を自分の思い通りにできると考えている人がいます。

 

このように、ミームのレイヤを考えることで、空間位置によるブリーフの固定化法の違いを整理することができます。

 

ここまでは、現状のデータを見える化し、あるいは、法度制度という集中定数を分布定数として扱うための準備です。

 

次にデザイン思考で、DXを使ったブリーフの固定化の設計図を作ってみます。

 

アメリカはプラグマティズムの国で、ブリーフの固定化は、科学の方法で行なわれています。

 

この場合は、科学の方法をDXに置き換える設計をします。

 

日本は、法度制度の国です。ブリーフの固定化は権威の方法によって行なわれています。岸田首相は、新しい資本主義というキーワードを提示しました。

 

新しい資本主義は、首相の発言であるという権威の方法によって提案されています。内容は不確定でした。

 

新しい資本主義というブリーフを提案するDXを作ることは不可能です。内容が不確定なものに対してDXシステムを構築したり、ブリーフを提案するAIをつくることはできません。

 

それでは、権威の方法のある中国はどうなっているのでしょうか。