(ブリーフの固定化に従って、ブリーフの説明と理解を考えます)
1)ブリーフの理解
政治家は、説明すれば理解できるといいます。しかし、この「理解」の用語の意味は特殊です。
日曜日の政治討論を聞いてても、そこで展開される論理展開は、エビデンスベースのデータサイエンスでは、ほぼ、否定されている間違った推論です。これを聞いていると、科学の方法では、とても理解できない論理(とは言えない?)展開がなされています。
パースは、ブリーフの固定化に用いられる方法は、(1)固執の方法、(2)権威の方法、(3)形而上学、(4)科学の方法であると主張しました。そして、どの方法も選択できるが、リアルワールドを改善できるのは、(4)科学の方法だけであると主張しました。
さて、検討を、次のステップに進めます。
ブリーフの説明がなされたと仮定します。
ここで、パースの分類を適用すれば、ブリーフは、(1)固執の方法、(2)権威の方法、(3)形而上学、(4)科学の方法のいずれかに基づいて説明されたと思われます。
2)科学の方法
ブリーフが科学の方法によって説明された場合には、その説明が理解可能か判断できます。
細かく分けると、神様はサイコロを振らないという確定論の立場と確率論の立場がありますが、どちらの立場でも、説明の妥当性については、統一した見解が得られるでしょう。
3)権威の方法
国王や天皇が発言する場合は、権威の方法になります。この場合には、発言内容が論理的に理解できるかを考えるひとはいません。また、英国や日本では、権威は、実政治に関する発言はしないルールになっています。
こう考えると、大臣などの政治家の発言は絶対的な権威の方法に分類しなくて良さそうです。
もちろん、発言者が権威の方法を使っていると考えている場合もあり、グレーゾーンがあります。
福島県の原発事故の処理水放出問題に対する説明は、権威の方法に拠っているのでしょうか。少なくとも、日本の政治家の権威は海外では通用しないと思われます。
権威の方法の留意点は、世代によって権威の方法の通用する人の割合が変化していることです。
4)形而上学
戦争はない方が良いですし、核兵器もない方がよいです。
リアルワールドと切り離した形而上学で論ずれば、ブリーフの固定化はブレません。
しかし、リアルワールドをみれば、日本には、自衛隊がいます。
リアルワールドでの問題の解決法を、形而上学は提示できません。
平和主義からは、適切な軍隊(自衛隊)の規模は、求まりません。
消費税などの税は、少ない方が良いと誰もがいうでしょう。しかし、消費税をあげなかった結果、法律の改定が不要な社会保険料があがってしまいました。
税+社会保険料でみれば、負担率は約50%です。計算の仕方がよくわからないのですが、赤字国債は将来増税によって返す必要があります。この分も、将来の負担率増加として加算すると、負担率は70%を超えているという人もにいます。
財務省は、増税によって、赤字国債を減らすように主張していると言われます。
しかし、社会保険料を含めたトータルの議論は今までなされていません。
2022年は、円安で、税収は大きく伸びました。増税は不要に見えます。
財政赤字が問題であれば、支出を減らすべきですが、まったく補助金は減りません。
税金は少ない方が良いというのが、一般国民の形而上学であるとすれば、財政が赤字か、黒字かにかかわらず、税収は多い方がよいというのが財務省の形而上学であると思われます。
これは、宗教の対立のようなものですから、理解しあえることはあり得ません。
政府が提案する産業構造の入れ替えや、リスキリングも、形而上学で、実体はありません。
就職では、大学の成績よりも、卒業証書に価値があります。大卒であれば、成績に関係なく、初任給は同じです。このため大学生は、留年しない程度の学習で十分であると考え、勉強しません。日本の企業では、スキルは、給与に反映されません。この状態を放置して、リスキリングをする人はいません。
平和主義と同様に、誰もが、「スキルはないよりも、スキルがあった方がよい」といいます。つまり、この点で、リスキリングは、形而上学です。
形而上学では、説明は言いっぱなしで、相互理解はあり得ません。
5)固執の方法
固執の方法とは、何が起こっても、同じブリーフを繰り返す方法です。
筆者は、「ブリーフの固定化法」を最初に読んだ時には、固執の方法は、宗教が使う極端な例外であって、通常は考慮の必要がないと考えていました。
しかし、鉄の三角形は、固執の方法だと考えるようになりました。
政治家は、民間企業に補助金を流し、見返りに、選挙での投票に協力を求めます。
補助金の一部がキャッシュバックされることもあります。これは、議員個人が受け取れば、犯罪になりますが、政党への寄付であれば、合法です。
ここで重要なことは、補助金を流すことであって、補助金の目的ではありません。補助金の目的が明確であえば、補助金の効果の判定がしやすくなります。それは、あまり好ましくないので、補助金のタイトルには、リアルワールドと直接関係しない形而上学が好まれます。
リスキリングやSDGsは、好都合なキーワードです。
CO2削減はリアルに近いので、あまり良くはありませんが、世界的な課題なので、避けるわけにもいかないことになります。
官僚は、補助金予算や法案作成を手伝うことで、天下り先を確保します。
企業は、株主が強くなければ、補助金が入るので、良いことになります。
ただし、株主が強い場合には、天下りや、補助金の受け入れを拒否することがあります。
その理由は、補助金で黒字を出せば、国際競争力がなくなり、中期的には、明らかにマイナスだからです。
とくに、ビッグテックのように、開発費に数兆円をかけている案件では、100億円単位の補助金をもらって、自由な活動が出来なくなることは、明らかにマイナスです。
また、補助金をもらった案件については、かなりの情報が開示されてしまいますので、最先端の分野を避ける必要があります。
政治家が選挙に出る場合には、正面切って、補助金で投票を依頼していますとは言えません。そこで、課題のキーワードを並べて、キーワードを解決するために、補助金を確保しますと公約で述べます。この部分は、一見すると形而上学に見えます。このため、今まで筆者は、固執の方法ではなく、形而上学が使われていると思っていました。しかし、例えば、「デジタル問題を解決するために、デジタル庁を作り、デジタル庁を通じて補助金を確保します」という命題は、形而上学にしては、あまりに薄っぺらです。ここには、理論や因果モデルはありません。そこで、この形而上学は、固執の方法に対するカモフラージュではないかと考えます。
固執の方法が使われているのであれば、補助金の配分は止められないことになります。
しかし、鉄のトライアングルでは、固執の方法は、形而上学のカモフラージュの下に隠れています。
この形而上学の方法はカモフラージュなので、理論はありません。ひたすら、キーワードが繰り返されるだけです。
固執の方法は、判断放棄であって、異常です。
しかし、日本は、現在は、高負担かつ低福祉という異常な状態になっています。
その差額は、補助金として企業に還元しています。
そして、企業は補助金が無くては、黒字にできないゾンビ企業になっていきます。
筆者は、大阪万博に、海外のパビリオンが1つも建築できそうにないのは、結局、日本で展示するメリットがないからだと考えます。
日本は、人口減少、技術低下が進んで、市場としても、技術パートナーとしても、全く魅力がありません。付き合いがあるので、正面切って、展示しないとは言いませんが、出来れば、最小限に止めたい企業が多いはずです。
これはモーターショーをみれば、はっきりしています。
固執の方法で、鉄のトライアングルを維持する論理は以下です。
補助金が回転しなくなると、政治家は、選挙の支援と寄付金が得られなくなる可能性があります。
補助金が回転しなくなると、官僚は、天下り先がなくなり、生涯収入が減ります。
補助金が回転しなくなると、ゾンビ企業は赤字になりつぶれてしまいます。
この流れをどこかで止めてしまうと、新しいシステムを構築する必要があります。
固執の方法を回避して、新しいシステムを構築できるための必要条件は以下です。
高齢者かつリスキリングができない人は、新しいシステムを構築を排除しますので、除く必要があります。簡単に言えば、年功型雇用が、新しいシステム構築の障害です。
新しいシステム構築のための推論は、帰納法では出来ないので、アブダプションを用いる必要があります。
なお、ここで言う新しいシステム構築は科学の方法に限定されていません。
ともかく、変わる条件という意味です。
アブダプションの問題は次に検討します。
6)まとめ
「ブリーフの固定化法」の4つの分類は、問題を分析する場合に、有益なフレームワークです。
政府が鉄のトライアングルに固執の方法を適用する場合、説明するとは、形而上学風のキーワードを繰り返すことになります。
このキーワードはオブラートであって、主旨は、固執の方法を継続するということになります。
この説明では、キーワードを聞いただけで、理解できたと感じる人を除けば、理解できる人はいないことになります。