オブジェクトと関数(2)中小企業関数

(中小企業問題を関数で考えます)

 

1)中小企業の定義

 

ロイターは次のように伝えています。

矢田稚子首相補佐官(賃金・雇用担当)は13日、ロイターとのインタビューで、2024年春季労使交渉春闘)について、大企業は「昨年を上回る賃上げが実現する」との見通しを示すとともに、これからその動きが中小企業まで広がっていくか「正念場」を迎えるとの認識を示した。

<< 引用文献

春闘、大企業は昨年上回る賃上げ 中小波及は「正念場」=矢田首相補佐官 2024/03/13 ロイター 杉山健太郎、梶本哲史

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/VFSB3TAKJJKDXJZX2KSOUF6AVU-2024-03-13/

>>

 

ここで、検討したいのは、政府の推論が、科学的な推論である因果モデルになっているかという点です。

 

一見して、因果モデルではないことはわかります。因果律の基本は、オブジェクト間の関数です。

 

中小企業は、統計上は、企業規模で分類された企業を指します。

 

一方、大企業の下請けの中小企業は、大企業とのリンク関数(中小企業関数)で、定義される企業です。

 

この2つは、別物です。

 

ローソンの食品は、系列企業の三菱食品が納入しています。

 

系列取引では、市場原理が働きませんので、ローソンの三菱食品の食品の納入価格は、市場で調達するより割高になります。これが、経済学の原則です。

 

三菱食品の食品の納入価格が、市場で調達するより割安になるのであれば、三菱食品が、系列取引をする理由はありません。

 

因果モデルを考える場合には、必ず、with-withoutを比較して考えます。

 

列子会社は、市場価格より高い価格で、中間財を販売できたと仮定します。

 

その場合には、競合企業とは、市場での競争がありませんので、市場の競争がありません。

 

列子会社は、市場での競争がありませんので、短期的には、DXをすすめて、生産性をあげなくとも、経営を続けられます。

 

競合企業は、DXをすすめて、生産性をあげなければ、つぶれますので、生産性をあげます。

 

こうして、競合企業が、生産性をあげると、市場よりも高い価格で販売できるという利点は、負荷になってしまいます。

 

もちろん、系列子会社の経営者が有能であれば、市場価格よりも高い価格で中間財を販売できる時代にも、DX投資を行なって生産性の向上をするはずです。

 

ただし、経営者の評価が実績主義であれば、DX投資は短期的には、企業収益にマイナスになりますので、経営者が、DX投資を行わないことが合理的になります。

 

2)株式会社と系列企業

 

資本主義の国の経済活動の中心は、株式会社です。株式会社は、市場原理を想定して、経済合理性にしたがった、利潤の期待値を最大化する経営を行ないます。

 

資本主義の国にも、同族会社のように、株式会社でない会社や株式公開をしていない会社もあります。これらの系列企業では、市場原理を想定して、経済合理性にしたがった、利潤の期待値を最大化する経営は行なわれません。

 

とはいえ、資本主義国では、経済活動の中心は、系列企業ではなく、株式会社です。

 

なお、以上の検討の株式会社は、株式会社というオブジェクトではなく、株式会社を関数で考えています。

 

企業登録の区分ではなく、経営方針の関数で区分しています。

 

中国では、系列企業である国有企業がかなりのシェアを占めていて、経済成長の足枷になっています。

 

日本の株式会社と系列企業の割合はどのくらいでしょうか。



日本企業では、最近、株式非公開に切り替える企業が続出しています。

 

これらの企業は、株式会社の関数で考えれば、株式会社ではなく、系列企業です。

 

過去30年、日本企業の生産性は、ほとんどあがりませんでした。

 

これから見ると、日本には、株式会社より系列企業が多いと予想できます。

 

系列企業が多いと、市場原理が働きませんので、生産性が向上しません。

 

官庁が非効率になるのと同じメカニズムです。

 

生産性が向上しないと、経済成長が起こりません。

 

金融緩和は、企業の内部留保を増やしました。経営者は、DXをすすめませんでした。

 

これは、日本国内の市場が、系列企業で寡占の状態で、合理的な判断が行なわれなかった可能性を示しています。

 

しかし、海外の競合企業がDXをすすめて、生産性をあげている時代に、DXをすすめなければ、国際競争力が失われます。

 

これは、経済合理性を欠いた経営判断です。

 

統計的データからみれば、企業の内部留保が増えた一方で、DXは進みませんでした。

 

筆者は、この結果を説明できる仮説は、ミームの違いであると考えます。

 

株式会社関数があてはまる株式会社では、経営方針のブリーフの固定化は科学の方法で行なわれ、期待値を計算して、期待値が最大になる経営方針を選択します。これは、プラグマティズムミームです。簡単に言えば、資本主義です。

 

市場原理を無視した系列企業では、経営方針は、法度制度に従って決められます。経営方針の決定は、社長や会長が認めたという権威の方法で決定されます。そこには、経済合理性はありませんので、経済成長は期待できません。

 

株式会社関数があてはまる株式会社では、DXによって、生産性をあげて、競合企業と競争優位になる経営戦略がとられますが、系列企業では、競合企業と競争優位よりも、系列(法度制度)の維持が優先されます。

 

3)年功型組織の疑問

 

年功型組織では、組織は拡大し続ける前提があります。

 

1990年以降、日本企業の組織は縮小し、レイオフが行なわれていますが、レイオフされた人を受け入れる労働市場は貧弱です。

 

ジョブ型雇用のジョブでは、能力は、オブジェクトではなく、関数です。給与は、オブジェクトに対して支払われます。年功型雇用では、給与は、ポストというオブジェクトにリンクされています。関数は給与に反映されません。

 

プログラマーを雇用する場合には、課題を与えて、プログラムを試作する試験を行ないます。プログラムは、コードの実装のこともありますし、モジュール設計のレベルのこともあります。どちらの場合も、プログラマーの関数の作成能力を評価して採用します。

 

ジョブ型雇用の採用には、同様に、関数の作成能力の評価が必要です。

 

年功型雇用では、関数の作成能力は問いません。

 

これは、オーケストラでいえば、日本企業の団員(社員)は、楽器をもって音を出すことはできますが、演奏技術は問われないことに相当します。楽器を手にしたら練習してくださいという方法です。つまり、アメリカの企業は、プロのオーケストラの水準、日本企業は、アマチュアオーケストラの水準です。

 

高度成長期と安定性成長期では、アマチュアオーケストラの水準の日本企業に、国際競争力がありました。これは、おもに、人権を無視して、つけを将来の世代に転嫁して、賃金を下げて、商品価格をさげたためですが、製品の製造に、高度なスキルが不要であったことも影響しています。

 

自動車を例にとれば、機械部品が中心の自動車では、モデルとなる自動車を分解して、リバースエンジニアリングをすれば、技術レベルをあげることは容易です。

 

一方、現在のように、制御の中心がソフトウェアにある場合には、リバースエンジニアリングは無力です。

 

現在、中国企業は、スマホやEVで新製品を開発していますが、これは、中国企業のソフトウェア開発部門が、プロのオーケストラの水準に達していることを示しています。

 

一方、年功型雇用の日本企業は、競争力のあるスマホの開発ができず、スマホから撤退しています。これは、日本企業のソフトウェア開発部門が、アマチュアオーケストラの水準に止まっていることを示しています。

 

企業の評価も売り上げ(オブジェクト)ではなく、関数で行なう必要があります。

 

なお、ここで、検討しているスキルは、統計学情報科学のスキルです。大学の卒業証書というオブジェクトとは関係がありません。

 

さて、疑問は、「年功型雇用は、売り上げの変動にどのように対処してきたか」です。

 

筆者は、系列子会社は、解雇のできない年功型雇用に調整機能を持っていると考えます。

 

親会社の大企業が系列子会社を独立させた場合と、企業内に内包した場合を考えます。

 

これは、子会社ありと子会社なしを比較するwith-withoutの比較です。

 

その場合、違いはどこに生じるでしょうか。

 

子会社を内包すると仕事がなくなっても、解雇することができません。

 

子会社が独立している場合には、倒産によって解雇することができます。

 

ガソリン自動車が、EVになれば、エンジン関係の部品の購入が減り、電池関係の部品の購入が増えます。

 

この場合、エンジン関係の部品の子会社を潰して、電池関係の部品の子会社を立ち上げれば、解雇規制を回避できます。

 

中小企業が、系列会社ではなく、株式会社関数の株式会社であれば、製品は、親企業以外に販売することが可能です。

 

以前は、販路の開拓は困難でしたが、現在は、インターネット上に、中間財の販売店がありますので、親企業以外に販売することは難しくありません。

 

公正取引委員会は、親会社が発注後に、納入価格を一方的に下げたとして、行政指導をしています。しかし、市場原理に従えば、親企業より購入価格がより高い他の企業に、販売先を変更すればよいことになります。

 

それが出来ない理由は、市場原理が働いていれば、親企業より購入価格が依然として、他の企業より高いか、独立した企業としての経済活動ができていないことになります。

 

日本は、プラグマテlズムの資本主義ではなく、法度制度のミームで、市場原理が働いていない可能性があります。

 

4)中小企業は弱者か

 

中小企業の労働者の賃金は、大企業の労働者の賃金より、見劣りします。

 

労働市場がありませんので、これは、身分制度になっています。

 

しかし、統計上の中小企業と大企業は、オブジェクトの区分で、経済活動による区分を行なうためには、関数による区分を行なう必要があります。

 

企業が労働者に支払うことのできる賃金は、企業サイズではなく、企業活動の関数に依存します。なぜなら、付加価値は、関数につながっているためです。

 

さて、中小企業の労働者の賃金が低いので、中小企業は可哀想といった風潮があります。

 

これは、どこかで見た風景です。

 

過疎問題では、過疎地が可哀想という演出をして、経済合理性を無視した利権に基づく予算配分をしていました。

 

NHKは次のように伝えています

岸田総理大臣は、3月22日の日本商工会議所の会合で、今後の経済成長には中小企業などに賃上げの流れを広げていくことが重要だとして、政策を総動員して後押ししていく考えを強調するとともに、経済界の協力を呼びかけました。

 

具体的には「中小企業が賃上げの原資を確保するため、人件費にあたる労務費を適正に価格転嫁できるようにする環境整備や、税制面などでの支援を推進していく方針を」示しました。

<<

岸田首相 “中小企業へ賃上げの流れ拡大 政策総動員で後押し” 2024/03/22 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240322/k10014399661000.html

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これは、中小企業に対する所得移転です。間接的には、大企業への所得移転です。

 

中小企業は、可哀想というイメージを作って、経済合理性(市場原理)に反した利権の政治誘導をしています。

 

建前は、「中小企業の賃上げ」で、本音は、「中小企業への補助金を増やして、政治献金を期待」になっています。

 

パーティ券問題は、政策決定には、まったく影響していません。

 

中小企業の労働者は、賃金が低くて、可哀想かもしれません。

 

しかし、中小企業の経営者の賃金は低くありません。

 

中小企業の労働者の賃金対策で、最も効率的な方法は、最低賃金の引き上げです。

 

この方法では、中抜き経済が生じません。

 

これが選択されない理由は、最低賃金の引き上げでは、政治献金が増えないためです。

 

最も効率的な中抜き経済が生じない政策は選択しないのです。

 

利権政治が経済の中抜きを促進しています。

 

アニマルスピリッツはなくなり、中抜きの利益を目指す人ばかりになりました。

 

中国経済は、鄧小平氏プラグマティズムが実施されるまでは、低迷していました。

 

それまでの、経済成長より分配を優先する社会主義では、貧困状態から、ぬけ出せませんでした。

 

鄧小平氏プラグマティズムにみるように、経済成長を優先して、原資をつくって、貧困層に配分するしか方法はありません。

 

配分優先で、経済成長(市場原理)を無視する方法では、貧困状態からは抜け出せません。

 

舞田敏彦氏は、格差について次のように述べています。(筆者要約)

2022年の総務省『就業構造基本調査』によると、年収が分かるのは5463万世帯。うち年収200万円台が811万世帯と最も多く、300万円未満の世帯が全体の3分の1を占める。これは世帯の単身化や高齢化が進んでいることによる。年金で暮らす高齢世帯だと100万円台、いや2桁もザラだ。

 

一般にジニ係数が0.4を超えると、常軌を逸して格差が大きいと判断される。よって今の日本の世帯収入格差のジニ係数0.4174は、許容範囲を超えていることになる。

 

政府の役割は、所得の再分配によってこうした格差を是正することだ。相次ぐ増税で、国の税収は過去最高になっているが、近年の内訳を見ると、所得税法人税よりも消費税が多くなっている。税金には累進性を持たせるべきであって、その逆のことをしている場合ではない。

<< 引用文献

過去30年で日本の格差は危険なレベルにまで拡大した 2024/03/21 Newsweek 舞田敏彦

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/03/30-76.php

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所得は再配分が必要です。

 

イギリスでは、下位20%の人の所得を再配分して、ジニ回数を目的値以下に抑える政策を行なっています。

 

日本では、ジニ係数は政策目標になっていません。

 

その理由は、日本の弱者救済は、経済発展の可能性の最も高い市場経済を排除して、本音の利権誘導をおこなうための建前(口実)にすぎないからです。

 

日本では、市場原理が破壊されて、中国の文化大革命のような状況になっています。

 

文化大革命の指導者たちは、その後、歴史の批判をあびています。

 

日本経済は、文化大革命時の中国と同じレベルに悪化しています。

 

これは、プラグマティズムの評価なので、イデオロギーは、フィルタリングして、除去してみる必要があります。

 

加谷 珪一氏は次のように言っています。(筆者要約)

裏金問題が政権を揺るがす事態にまで発展し、今の自民党内にアベノミクス云々を議論している余裕はないが、つい最近まで、自民党の安倍派を中心に、日銀のマイナス金利解除について「アベノミクスを否定するのか!」といった意見が出され、日銀の行動を強くけん制していた。

<< 引用文献

日銀が政策転換で日本経済は「アベノミクス終焉」へ…これから始まる「長く険しい道」2024/03/20 現代ビジネス 加谷 珪一

>>

 

これは、権威があれば、科学は無視できるという立場です。

 

政策の効果を検証するつもりはないし、検証すれば、粗が見えるので、エビデンスは計測しません。

 

ジニ係数が放置されるのは、当然と言えます。

 

法度主義のミームのもとで、利権政治を優先する政治家、官僚、経済人は、今後、歴史の評価をうけることになります。

 

太平洋戦争で、法度主義のミームのもとで、特攻作戦を主導した政治家、官僚、経済人は、日本では、今のところ、歴史の評価をうけていません。

 

利権政治を優先する政治家、官僚、経済人は、今後も、歴史の評価をうけることはないと安心している可能性がありますが、それは、正気とは思えません。