権威の方法とオプションB

1)権威の方法の基本モデル

 

権威の方法では、ブリーフの内容で固定化するのではなく、ブリーフを発言者で固定化します。

 

つまり、ブリーフの固定化には、決まった方法論はありません。

 

これは、権威の方法を評価する上で、問題が生じます。

 

例えば、身分制度論者が大好きな名君がいると仮定します。

 

権威主義者の君主が、科学の方法を使って、合理的なブリーフの固定化を行う場合には、名君と呼ばれます。

 

ある人が君主になれるのは、世襲であるか、実戦で勝利して権力を得る場合になります。

 

つまり、君主になるためには、名君のノウハウは不要です。

 

これから、君主が名君になれる確率は高くないことがわかります。

 

君主が名君になるためには、優秀なアドバイザリーボード(advisory board)が必要です。

 

アドバイザリーボードを設けても、アドバイザリーボードが、科学の方法で、ブリーフを固定化できなければ、名君には、なれません。

 

君主がアドバイザリーボードを使わない場合、あるいは、アドバイザリーボードが科学の方法を使わない場合、ブリーフの固定化は、固執の方法、または、形而上学によって決められます。

 

問題点を整理します。

 

アドバイザリーボードを使わない場合 X

アドバイザリーボードを使うが、アドバイザリーボードが科学の方法を使わない場合 X

アドバイザリーボードを使うが、アドバイザリーボードが科学の方法を使う場合 〇

 

ここで、問題点は、科学の方法を使ったか否かの判定方法になります。

 

科学の方法は、エビデンスに基づいて、複数のブリーフを検証します。

結果が出る前にも、候補となる複数のブリーフを並べて、検討します。

フリーフはオプションA、オプションB、オプションCのように、複数の代替案を準備します。

 

例えば、政府の公的年金財政検証では、シナリオは1つだけです。オプションB以降はありません。これは科学の方法を無視しています。



2)オプションB

 

日本経済新聞は、霞が関の「無謬主義」を次のように定義しています。

 

<==

 

「ある政策を成功させる責任を負った当事者の組織は、その政策が失敗したときのことを考えたり議論したりしてはいけない」という信念。

 

==>

 

公的年金財政検証のシナリオが、1つだけであることは、霞が関の「無謬主義」に対応します。



日本経済新聞は、何故、霞が関の「無謬主義」が、起こるのかという原因を示していません。

 

権威の方法が、名君の場合のように、科学の方法を採用できる確率は高くありません。

 

ここで、仮に、霞が関が「無謬主義」を止めて、オプションB、オプションC等を解禁した場合を考えます。

 

これは、将棋の藤井聡太氏のような状況になります。藤井氏より権威のある(段位の高い)人はいますが、将棋の手(ブリーフ)の選択(固定化)において、藤井氏が、権威の高い人より優ることが判ります。将棋は、権威ではなく、実力(科学の方法)の世界ですから、権威者が負けても当然であると、一般の人は、考えます。

 

霞が関が「無謬主義」を放棄することは、政府の公的年金財政検証のシナリオより、実現する確率の高いシナリオの存在を認めることになります。政府は、複数の公的年金財政検証のシナリオを並べて、過去のエビデンスに基づいて、各シナリオの実現確率を提示し、現在選択されているシナリオの実現確率が最も高いことを示せなければ、権威を失います。

 

これを回避するために、霞が関の「無謬主義」をとり、オプションB以降を封印しています。

 

これは科学の方法ではありませんので、実現する確率は低くなります。

 

権威の方法をとる限り、政府の政策は、ほぼ確実に実現できないことがわかります。

 

有識者会議(アドバイザリーボード)を設定しても、有識者会議は科学の方法を使いませんので、問題解決はできません。有識者会議が、科学の方法を使っていないことは、オプションB以降が示されないことから判ります。



今回のサンプルは、公的年金財政検証でしたが、オプションB以降を封印して、科学の方法を回避している問題は、あらゆる政策に蔓延しています。

 

パースは、権威の方法をとる限り、問題解決ができるブリーフの固定化は困難だろうと予測していますが、日本は、パースの予測通りの道を進んでいます。