(預金金利について考えます)
1)日銀の金融政策
日本銀行は、3月19日の金融政策決定会合で金融政策の見直しを決め、 マイナス金利政策を解除、イールドカーブ・コントロールをやめます。
1980年代のことです。
マレーシアの銀行が破綻しました。その原因は、貸付の利子をゼロにしたためです。
イスラーム教では、 利子は、不労所得であり、搾取の手段となるため 禁止されることがあります。
マレーシアの銀行は、イスラーム教に従いました。
このとき、「利子のない資本主義はない。マレーシアの経済発展は難しいのではないか」といった人がいました。
1990年代のことです。
バブルが崩壊して、銀行は、投資した土地の評価損を抱え、倒産寸前になりました。
政府は、金融機関の安定を優先するとして、預金金利をほぼゼロにしました。
これは、家計から、金融機関への所得移転になります。
「金融機関が破綻する場合のダメージより、所得移転の方が、ダメージが小さい。これは、緊急避難だ」と説明されました。
緊急避難は、30年続きました。
所得移転が、金融機関の負債の返済に当てられれば、経済成長しないことは自明です。
全ての金融機関の預金金利を制御することは、官製のカルテルです。
これでは、金融機関は、営業努力をしなくなります。
詳しくは、調べていませんが、リーマンショックの後で、アメリカの金融機関の金利にもカルテルが結ばれたのでしょうか。仮に、カルテルがあっても、短期だと思われます。
2010年代に入って、インフレターゲットの議論がなされました。
その時には、そもそもインフレ率が政策の目標になる訳がないという議論が主流でした。
過去には、ハイパーインフレになって、インフレを抑えるための政策を実施したことがありました。
経済成長すれば、インフレになる可能性が高くなります。
しかし、インフレになれば、経済成長するという推論は、原因と結果が逆です。
経済成長は、生産性の向上によってもたらされます。
インフレになっても、生産性は向上しません。
したがって、インフレになれば、経済成長するという推論は、間違いです。
「日銀は、賃金と物価がともに上がる「好循環」が強まり、2%の物価上昇目標の持続的・安定的な実現が見通せたと判断して、マイナス金利政策を解除した」という説明をしている報道もあります。
この説明では、生産性が向上しなくとも、経済成長することになります。
そもそも、誰も、生産性(付加価値)の議論をしません。
経済学は、市場原理に基づく、経済的に合理的な人間を仮定します。
カルテルのように、市場原理が壊れてしまうと、経済学の法則は使えなくなります。
ケインズは、経済発展に必要な条件として、経済的に合理的な人間だけでは不十分で、アニマルスピリッツが必要であると考えました。
ケインズは、経済発展には、2種類のミームが必要であると主張しました。
中国は、2000年以降、経済発展をとげ、その中で、アニマルスピリッツの持ち主が活躍しています。
日本は、1990年以降、所得移転政策を繰り返してきました。
その結果、日本では、アニマルスピリッツのミームが絶滅したように見えます。
外貨を得るためには、中国、シンガポール、ベトナムなどのアニマルスピリッツを持った経営者や技術者と競争して勝つ必要があります。
「賃金と物価がともに上がる好循環」には、アニマルスピリッツは感じられません。
新聞を読むと「官民で技術開発をして企業競争力をつけるために、補助金をつぎ込む」ような話ばかりです。
利権の構造が動けば、こうした話になると思いますが、海外の競争相手が、アニマルスピリッツの持ち主であれば、勝負になりません。
ホンダも、ソニーも、アニマルスピリッツの結果、成長しています。
3)カルマンフィルター
ある社会学者の解説を読んでいたら、小泉構造改革の話が出てきました。ウィキペディアの日本語版も、同じですが、話は、小泉構造改革から始まります。
しかし、これは、非科学的です。小泉構造改革は、少なくとも建前の上では構造改革を目指しました。しかし、実現できたものが、構造改革であったか否かは別のファクト(エビデンス)です。意図(建前)とファクトは区別する必要があります。
ロケットを打ち上げる場合には、計画した軌道に載せる必要があります。
ロケットには、目指す方向(進路、意図)があります。
しかし、風の影響や、エンジン出力のバラツキによって、ロケットの実際の進路(ファクト)は、計画した進路(意図)とはずれが生じます。このズレを計測して、ロケットの進路を補正します。一番簡単な方法は、カルマンフィルターを用いることです。
このロケットの進路補正をしなければ、ロケットは目的値につくことができません。
アベノミクスの金融緩和の2%のインフレは、ロケットの目指す方向(意図)です。
ファクト(現在位置)を計測して、進路を補正しないと目的地に着くことができません。
英語版のウィキペディアの「アベノミクス」の説明には、「アベノミクス」の評価がなされていないと書かれています。
「アベノミクス」の評価とは、目的とした位置と現在位置のズレを計測して、ズレの原因を分析したり、進路を補正することです。
日本銀行は、3月19日に金融政策決定会合を開き、黒田東彦前総裁が2013年にスタートして以来続いていた「大規模緩和」政策について、終了を宣言しました。
しかし、このことをもって、「大規模緩和」政策が目的地に到達したと判断してよいのでしょうか。
野口悠紀雄氏は、 現在の物価上昇率が2%程度の原因を「アメリカとの間で金利差が大きく開いたので、円キャリー取引が誘発され、為替レートが円安に動いた。そして、これが21年秋以降、日本の物価上昇率を引き上げることになった」と分析しています。
<< 引用文献
日銀がマイナス金利解除を決定、「金利のある世界」はどのような世界か 2024/03/21 DIAMOND 野口悠紀雄
https://diamond.jp/articles/-/340778
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詳しいことは判断しかねますが、ロケットの進路修正を考えると、現在の経済政策の決定過程では、ロケットが目的地に着くとはとても思えません。
日銀の総裁には、権威がありますが、意思決定が科学の方法に従っているとは思えません。