インフレ目標の謎

(数学でインフレ目標を理解することは困難です)

 

1)インフレ目標

 

政府と日本銀行が「共同声明」を公表した2013年1月22日から日本でインフレ目標政策(インフレ・ターゲティング)が採用されました。

 

2023年4月24日の現代ビジネスで、竹中 正治氏は、4月16日のNHKスペシャル「証言ドキュメント、日銀『異次元緩和』の10年」は、商品の売買を通じて物価と直接に関わるマネーストックと、銀当座預金残高と日銀券の発行残高の合計はであるベースマネー(あるいはマネタリーベース)を混同していると批判しています。

 

2000年に、それまであったベースマネーマネーストックの一致はなくなり、以降、この2つは分離しています。

 

つまり、日銀の金融政策で、ベースマネーを増やしても、マネーストックは増えていませんので、金融緩和は、商品の売買や物価には連動していません。

 

一方、竹中 正治氏は、「インフレ目標の2%」自体は望ましいと考えています。

 

2)因果モデル

 

 2023年1月26日のBloombergによると、同日のインタビューで、国際通貨基金IMF)のゴピナート筆頭副専務理事は、「インフレ率を日本銀行が目標とする2%より高く保つためには、日本の名目賃金が例外なく3%上昇することが必要だ」と述べています。

 

2023年1月17のForbsで、伊藤 隆敏氏は、「インフレ目標2%を達成するためには、名目賃金が3%で上昇を続けるニューノーマルの実現が必要」といっています。

 

筆者には、この2つの話はよくわかります。

 

給与が増えれば、沢山消費するようになります。

 

日本のように年金生活者が多く、その年金も将来の減額が確定しているような状態では、消費が増えて、インフレになるとは考え難いです。

 

つまり、可処分所得(原因)が増えれば、インフレ(結果)なると考えるのは自然です。

 

賃金の変化は、労働生産性に比例しますので、窓際族をレイオフして、リスキリングして、雇用しなおせば、賃金があがり、インフレになります。

 

金融緩和で、インフレになるという因果モデルを、筆者は、思いつきませんでした。

3)ストックとフロー

 

連邦預金保険公社FDIC)は5月1日、米地銀ファースト・リパブリック銀行(カリフォルニア州)が経営破綻したと発表しました。

 

3月には、シルバーゲート・キャピタル傘下のシルバーゲート銀行とシグネチャー銀行の2行に加えて、シリコンバレー銀行が破綻しています。

 

破綻の促進要因には、電子取引による急速な預金の引き出しがあると言われています。

 

これは、マネーストックの移動速度が速くなっていることを意味します。

 

ベースマネーマネーストックは、ストックです。

 

インフレは変化速度ですので、フローです。

 

米地銀の破綻は、フローの速度が増していることを意味しています。

 

ベースマネーの量が変わらなくとも、フローの速度が2倍になれば、1%のインフレは2%になります。

 

しかし、ストックの量とフローには直接の関係はありません。

 

一般には、ストックとフローの関係式は次の形をしています

 

フロー=k x Δストック

 

Δストックはストックの変化量を意味します。

 

現在のマネーストックと1年後のマネーストックの間に、増分=Δマネーストックがあれば、それれは、係数kを通じて、フローに変換されます。

 

例えば、可処分所得が3%増えれば、Δマネーストックは、3%増になりますので、その一部は、消費(フロー)にまわります。

 

電子取引などのDXは、kの値を大きくする効果があります。

 

また、DXは労働生産性の向上に関係しますので、DXが進んでいれば、賃金は上昇します。

 

ベースマネーをふやしても、賃金があがらなければ、Δマネーストックはかわりませんので、インフレにはならないはずです。

 

筆者は、経済学の素人ですので、どこかで間違っている可能性があります。

 

とはいえ、初歩的な微分方程式の理解では、インフレ目標に意味は見出せませんでした。



なお、筆者は、DXで労働生産性をあげることはできないと考えます。

 

DXは手段であって目的ではありません。

 

社内失業を抱えるようにな労働生産性の向上を目的としない組織では、DXが進むはずはありません。

 

因果モデルで考えれば、労働生産性が上がらないのは、労働生産性をあげると、賃金が増える給与体系でないからです。

 

DXが原因であるというのは、経営者の保身のために問題のすり替えです。



引用文献

 

どうする植田日銀~過去10年、金融政策だけでは達成できなかったインフレ目標 2023/04/24 現代ビジネス 竹中 正治

 

日本、インフレ目標達成には3%の賃金上昇必要-IMFゴピナート氏 2023/01/26 Bloomberg 野原良明

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-01-26/RP383ET0AFB401

 

インフレ目標政策の10年 2023/01/17 Forbs 伊藤 隆敏 

https://forbesjapan.com/articles/detail/53357

 

米ファースト・リパブリック銀が破綻:識者はこうみる 2023/05/01 ロイター

https://jp.reuters.com/article/koumiru-first-republic-idJPKBN2WS0TY

 

JPモルガンチェースのダイモンCEO、破綻した銀行救済に復帰 ファースト・リパブリック銀行と連邦預金保険公社も救う 2023/05/02 Newsweek

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2023/05/jpceo.php