今、日本で起こっていること(0)

順番が入れ替わっていますが、「今、日本で起こっていること」の冒頭の部分をつくりました。

 

概要



変わらない日本といわれて30年が立ちました。日本経済は依然として足踏みして、先進国からずり落ちています。日本の社会は、この状態からの出口を探しているように見えて、その実、30年間なにもせずに来たように見えます。ここには、大きな認知バイアスがあるように見えます。認知バイアスを外して、「今、日本で起こっていること」を見えば、何が見えるかを、ここでは考えます。

 

(日本のブードゥー経済学について説明します)

 

1)不思議の国日本

 

1-1)最近の状況

 

2023年1月に、アメリカでは、ビッグテックで大量の解雇が起こりました。労働市場は火の車です。過去20年間、アメリカの労働市場では、解雇と再雇用が繰り返され、そのプロセスで労働生産性の低い(給与の安い)企業は淘汰され、生産性が上がり、給与が上がっていきました。

 

一方、日本では、アメリカを対岸の火事と言わんばかりに見ていて、何も起こらず、生産性が下がり続けていますが、それを、気に掛ける人はいません。防衛費やこども予算のために増税が議論されています。生産性の低い部門を温存して、そこに補助金をつぎ込めば経済は回らなくなり、税収が減ります。その上で増税すれば、日本は、ますます生産性が落ちて貧しくなっていきます。

 

生産性があがれば、1人当たりGDPや、給与は確実に増えます。

 

アメリカなどの外国と比べて日本の生産性が下がれば、輸出競争力はなくなります。外国は解雇と再雇用とリスキリングで継続的に、生産性を上げていきます。輸出競争力を円安や非正規による平均賃金の引き下げで対応しても、それは、一時しのぎにしかなりません。

 

その結果、2022年の貿易収支が、約20兆円という巨額の赤字になりました。

 

日銀は、10年たっても、インフレ目標の話をしていて、生産性の改善には、まったく触れません。

 

アメリカに見られるように、DXを導入することで、劇的な生産性の向上が可能です。

 

しかし、そのためには、生産性の低いジョブをソフトウェアに置き換えることが必要です。

 

レイオフなしで、リスキリングして、給与を上げることはできません。なぜなら、レイオフなしで、既存の仕事を残せば、生産性が上がらないからです。

 

このレイオフは、例外なしに、全ての業種に及びます。

 

自分だけ、レイオフのリスクの対処外になることはありえません。

 

しかし、日本では、誰もがDXを対岸の火事のように見ています。

 

どうして、ここまで、不合理なことがまかり通るのでしょうか。

 

1-2)スノーの予言

 

今から60年以上前の1959年に、英国で、C.P.スノーが、「二つの文化と科学革命」という講演を行いました。

 

スノーは、「英国には、人文的文化と科学的文化がある。二つの文化の間には、解消できないギャップがある。英国は、科学的教育(エンジニア教育)を充実して、科学的文化の国にならなければ、将来、経済が破綻する」と予言しました。そして、エンジニア教育を充実させました。

 

エンジニア教育とは、簡単にいえば、生産性の向上に寄与する科学技術のことです。

 

そのころの英国教育では、人文科学の古典教育が一番価値があると思われていました。

 

これに対してスノーは、生産性の向上に寄与できない人文科学の教育を継続すれば、英国は貧しくなるといったわけです。

 

数学的には、自明の命題です。

 

人文的文化と科学的文化の違いは何でしょうか。

 

詳細は、以下の章で検討しますが、一番の違いは、エビデンスに基づく仮説の検証の有無と、そのための検証可能な仮説の提示にあると考えます。

 

検証可能な仮説とは、いいかえれば、数字付の仮説です。

 

日本は、スノーの予言の「科学的教育(エンジニア教育)を充実して、科学的文化の国にならなければ、将来、経済破綻する」を実証しているように見えます。

 

現在の日本では、科学的文化の数字で考えれば、ありえないような「不合理なことがまかり通」っています。

 

筆者は、その理由は、多くの人が、「今、日本で起こっていること」を人文的文化で、理解しているためであると考えます。

 

日本は、スノーが指摘した「科学的教育(エンジニア教育)を充実」しないで来た結果、科学的文化で、現実を見ることが出来なくなっていると考えます。

 

そこで、本書では、科学的文化から見て、「今、日本で起こっていること」を記述してみたいと思います。

 

1-3)人文的文化の問題点

 

最初に、人文的文化の問題点を述べておきます。

 

人文的文化では、データから仮説(物語)を作成します。

 

これらの仮説は、エビデンスで検証されないか、検証可能な形式をしていません。

 

人文的文化では、しばしば仮説の正しさを、歴史を経て生き残ってきたことに求め、原典主義をとります。

 

しかし、科学的文化は人文的文化の検証法を否定します。

 

立春(節分)には、豆をまいて、鬼を追い払います。

 

これは、「病気の原因は鬼である」という仮説です。

 

この仮説は、1000年以上の時を経て生き残ってきました。

 

しかし、現在は、豆をまけば病気にならないと考える人はいません。

 

これは、「病気の原因は鬼である」という仮説が間違っているからです。

 

科学的文化では、仮説の検証が行われますが、人文的文化では、仮説の検証は行われないので、誤りが生き続けます。「病気の原因は鬼である」という仮説は、1000年も生き続けました。

 

こうした仮説が、日本人の心情に訴えることは、妖怪をテーマにした漫画やアニメの多さを見れば理解できます。だからといって、「病気の原因は鬼である」という仮説を、真にうけて、医者の代わりに祈祷師に見てもらう人はいないでしょう。

 

雑誌の記事のタイトルには「○○できない本当の理由」といった記事も多くあります。

 

これらの記事は、仮説を提示しているだけです。

 

人間には、正しい仮説を選んで作り出す能力はありません。

 

間違っていても仮説を作り出すことは、ウェルカムです。

 

問題は、その先に検証がないことです。

 

1-4)科学的文化の特徴

 

理論科学の典型と考えられている物理学では、公式(定説、または仮説)は微分方程式で記載されます。

 

これは、大まかに言えば、時間微分(時間変化)を問題にする視点です。

 

自動車を運転するときに、メーターに表示されるのは速度です。

 

一方、エンジンやブレーキの能力を決めるのは、速度の時間変化である加速度です。

 

自動車の設計では、速度よりも、加速度の方が重要です。

 

アメリカのFRBはインフレに対応して、金利を変化させます。

 

この時に考慮すべき第1の点は、物価上昇率に対する金利の上昇率です。

 

あるいは物価の2階微分物価上昇率の変化)に対する金利の上昇率です。

 

これは、アクセルとブレーキの能力のバランスをとる考え方です。

 

これから、FRB微分方程式を理解していることがわかります。

 

日銀は、微分方程式を理解しているのでしょうか。

 

ここに2つの仮説があります。

 

(1)日銀は、微分方程式を理解している。

 

(2)日銀は、微分方程式を理解していない。

 

次にエビデンスを見ます。

 

日銀は、金融緩和(金利変化)と物価上昇率に因果関係があるといいます。

 

これを微分方程式で考えれば、金利変化と物価上昇率を見ることになります。

 

金利は10年前に下げられました。そのときには、インフレ率に変化はありませんでした。

 

日銀は、低金利を続ければ、物価上昇するといっています。

 

日銀の説明には、低金利金利変化率の混乱があるか、金利変化率を無視しています。

 

FRBは金利変化率を問題にしているはずです。

 

エビデンスに基づけば、(1)が成立する可能性は低く、(2)が正しいように見えます。

 

これは、常識に反します。

 

しかし、スノーが、「二つの文化と科学革命」で指摘した二つの文化のギャップを認めれば、説明ができます。

 

日銀は人文的文化に基づいて意思決定をしていると仮定します。その場合、日銀は、微分方程式で考えるより、過去の類似パターンの引用に基づいて意思決定をしていることになります。



本書では、二つの文化のギャップがあるとして、そのギャップが現在の日本に与えている影響を考えます。