(問題を裏返して解く方法を説明します)
1)30年の見方
日本のGDPがドイツに抜かれ、世界順位は4位に転落しました。日本だけがほぼゼロ成長であり、他国は普通に成長しているので、日本の順位が一方的に下がっています。
これは、日本だけが、労働生産性が上がらなかったことを意味します。
諸外国にはなく、日本にだけある特殊な条件は、法度制度と年功型雇用です。(注1)
これは、労働市場がないことを意味します。
更に、系列取引によって、中間財の市場も不完全です。
円安政策やインフレ政策は、中期的には、生産性の向上とは関係がありません。
日本では、経済合理性が働きませんので、日本が、経済成長しないことが予測できます。
つまり、日本が過去30年間経済成長しなかった原因探しをする「失われた30年」という問題設定は不適切です。
政府と経済界は、日本が経済成長しない現状を維持することを望んでいて、有権者も経済成長をさせない政治家を選んでいます。
政府の政策は、過疎問題や弱者対策を建前に掲げて、経済合理性を無視した利権誘導を繰り返しています。
人権宣言を読めばわかりますが、人権とは、能力を発揮する機会を確保することで、実現不可能な弱者救済の建前を振り回すことは人権ではありません。
新卒一括採用で、大学と企業の選択で、生涯賃金が決まる法度制度の年功型雇用は、能力を発揮する機会を与えない人権無視です。
南米には、貧困対策と称して、現金をばら撒いて、財政破綻を繰り返して、まったく経済成長できない国がありますが、最近の日本政府は、赤字国債を財源に、現金や補助金をバラまいています。
赤字国債は、将来の世代が支払いますが、ジム・ロジャーズ氏は、将来の世代が働いても、利益が、赤字国債の返済に当てられば、経済成長はあり得ないといいます。
企業の経済活動には、投資がリターンを得るまでに、3年程度のタイムラグ(時定数)があります。
教育のタイムラグはさらに大きく、10年から20年あります。
マスコミは、法度制度のミームを毎日拡散しています。
教養があれば、まともな経営ができるという間違った法度制度のミームをまき散らしています。
教養があっても、経営で将来何が起こるかは予測できません。
将来何が起こるかが予測できなくとも、対策はあります。
ギャンブルで、将来何が出るかは、予測できません。
しかし、優秀なギャンブラーは、勝つ確率を最大化する方法を選択します。
経営において必要な知識は、技術開発の知識と統計学です。
日本の経営者は、統計学が理解できないので、不適正な経営をしています。
科学的な根拠のない過去の成功例をコピーしています。
日本の大学の定員の7割は文系です。文系と理系という制度は、日本にしかありません。
数学、特に、統計学を習得していなければ、エンジニアのスキル習得は不可能です。
現在のベトナムは、漢字を廃してローマ字に切り替えています。
ベトナムの義務教育では、漢字は教えませんし、古典の教育も行ないません。その時間は、数学などに使われていると推測されます。
源氏物語が読めなくても、スマホのソフトウェアは開発できます。
スマホのソフトウェアを開発するためには、数学ができないと先に進めません。
教養が重要であるという主張は、こうしたエビデンスを無視しています。
このまますすめば、ベトナム人の方が、日本人よりスキルが高くなります。
加谷珪一氏は、日本のGDPについて、次のように発言しています。(筆者要約)
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このままの状態を放置すれば、近くインドに抜かれる可能性が高く、中長期的にはブラジルやインドネシアなどに追い付かれることもあり得るだろう。これは異常事態であり、日本経済は危機的状況にあるとの認識が必要だ。
過去30年におけるドイツの平均成長率(実質)は約1.2%。これに対して日本の成長率は約0.7%しかない。同じ期間でドイツの経済規模は2.3倍に拡大したが、ドルを基準にすると日本はなんとマイナスになっている。
最大の問題は、ここまで状況が深刻化しているにもかかわらず経済界にまったく危機感がないことである。多くの国民が生活苦を訴えるなか、GDPの順位低下について日本商工会議所の小林健会頭は、「購買力平価で考える必要がある」「一喜一憂する必要はない」など、にわかには信じ難い発言を行っている。
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<< 引用文献
日本のGDP「4位転落」は危機的状況...最大の問題は、「一喜一憂する必要なし」という認識の甘さだ 2024/03/15 Newsweek 加谷珪一
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2024/03/post-271.php
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日経連は、自民党の利権システムを高く評価しています。
利権システムの一部になった年功型雇用システムでは、経営幹部は、自分の所得や、企業の短期的な利益にしか関心がなくなります。
法度制度をバックにした利権システムのミームは、日本経済に深く浸透しています。
日経連や日本商工会議所は、本音では、日本の経済成長や人材育成には関心がありません。
つまり、日本は過去30年間、予定通り経済成長しなかったことになります。
法度制度をバックした利権システムのミームが生き残っていれば、日本は次の10年間も、予定通り経済成長しなくなります。
タイムラグを考えれば、次の10年間も、日本経済は経済成長しないことがほぼ確定しています。
それがわかれば、資金が日本企業から逃避するので、バブルの時の山一証券のような企業が続出するはずです。
Una Galani氏は、マイナス金利解除の影響を次のように考察しています。(筆者要約)
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国際決済銀行(BIS)の四半期報告書では、年間の利益が利払い費を下回る企業をゾンビ企業と定義している。日本には昨年11月末時点でそうした企業が25万1000社あり、全企業の6社に1社ほどを占めている。
中小企業はグローバルな銀行や投資家の注目を集めないかもしれないが、日本の労働人口の約60%を雇用している。
マイナス金利解除の影響は、中小企業を直撃して、日本の労働人口に大きな影響を与える可能性がある。
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<< 引用文献
コラム:マイナス金利解除、日本の暗部「ゾンビ企業」に打撃か 2024/03/09 ロイター Una Galani
https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/FLSN2LQIYVOADO6BLK265JW7DA-2024-03-05/
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簡単にいえば、中小企業では、年功型雇用が完全に崩壊して、労働者を集められなくなります。DXが進められれば、賃金があげられますが、中小企業は、それができないので、倒産が増えます。
大企業が経済合理性に基づいた経営をしていれば問題は少ないですが、政策株で天下りしたり、下請け企業に価格転嫁をしています。
つまり、中小企業がなくなると、大企業は動きがとれません。
経済合理性からすれば、水平分業が望ましいのですが、安定した品質の中間財を確実に提供してくれる水平分業先の確保には、数年単位の時間がかかります。
バスやトラックの運転手不足、薬の不足は、日本経済崩壊の予兆に見えます。
いうまでもありませんが、市場原理以外の解決策はありません。
現在のように市場に介入を繰り返すと経済は、ますます悪化します。
注1:
文系と理系の区別もあります。
2)問題の再定義
日本は過去30年間、予定通り経済成長しなかったと考えると、問題は、「1990年まで、なぜ、日本経済は成長できたのか」になります。
おそらく、経済学の視点でみれば、この設問が、一般的な疑問です。
今回は、ここまでです。
「1990年まで、なぜ、日本経済は成長できたのか」は、次回に考えます。