理系の経済学(7)中世化の課題

(日本の中世化を考えます)

 

1)2つの勢力

 

前回の検討を要約すると次になります。

 

世界では、資本主義や民主主義といった、いわゆる近代的システムがうまく機能しなくなって、中世化の進展が見られる。

 

日本では、世界に先んじて中世化が進んでいるため社会の階層の固定化がみられる。

 

スターウォーズのような映画は世界を単純化して、世界は2つの勢力の攻めぎあいの場であると考えます。

 

この視点には、連続分布を、バイナリーで近似するバイナリーバイアスがあります。

 

その点に配慮するにしても、バイナリーの世界観は、連続分布の理解が困難な人間の脳に訴えやすい特徴があります。

 

一般に流布されているバイナリーの世界観は、次のものです。

 

資本主義や民主主義のグループは、G7のような先進国で、日本も、ここに含まれます。

 

社会主義独裁政権のグループは、中国、ロシアが中心で、グルーバルサウスと呼ばれる国も、このグループに傾倒しています。中世化しつつある世界と思われます。

 

しかし、この世界観では、日本では、世界に先んじて中世化が進んでいるという事実を説明できません。

 

日本国内にも、バイナリーの世界観を適用することは可能です。

 

資本主義や民主主義のグループは、経済合理性を優先する勢力で、市場原理の信奉者です。小さな政府が良い政府であると考え、政府による産業への介入は排除すべきであると考えます。政策決定のようなブリーフの固定化は、エビデンスに基づく科学の方法に基づくべきであると考えます。これは、プラグマティズムの信念です。

 

中世化推進グループは、経済合理性を否定する勢力で、市場原理を否定します。大きな政府が良い政府であると考え、政府による産業への介入を進めます。これは、市場原理を否定していますので、社会主義の派生形になります。



スターウォーズのような世界は2つの勢力の攻めぎあいの場である(スターウォーズの世界観)と考えれば、日本国内では、資本主義・民主主義グループと中世化推進グループが対立していることになります。

 

2024年3月8日の「国際女性デー」を前に、英誌エコノミスト経済協力開発機構OECD)に加盟する38カ国のうち29カ国を対象に、2023年の「女性の働きやすさ」を比較しました。総合ランキングで日本は、29カ国中27位でした。



日産自動車は、過去30年、割戻金の名目で下請け業者に代金の引き下げを迫っていました。

 

銀行や日本の大手企業では、政策株を所有して、経営トップを親会社から派遣しています。これは、市場原理に基づく株式会社の原則に反します。

 

経営トップを親会社から派遣するのではなく、経営トップは、会社の利益を最大化する能力のある人を採用しないと、株主の利益に反します。

 

子会社の社員は、経営トップにはなれませんので、ここには、労働市場も人権もありません。

 

1990年以降国家議員に占める2世議員、3世議員の割合は増加しています。



この事実を、スターウォーズ世界観でみれば、日本では、中世化推進グループの勢力が大きいことになります。



2)中世文化の研究

 

日本では、太平洋戦争の特攻が起きた理由を解明する文化の研究がなされています。

 

脇田晴子氏は、特攻の背景には、中世以来続く、天皇中心の文化の影響があると主張しました。

 

水林章氏は、日本には、天皇制を中心とした法度制度が、日本語を介して生き残ってきたと考えています。

 

脇田晴子氏は、中世文化の専門家ですから、太平洋戦争の時に、日本は強く中世化した結果、特攻が発生したという見解です。

 

敗戦によって、日本は、新憲法を受け入れたのですが、それによって中世化がなくなったとは言えません。

 

靖国神社は、中世化の権化ですが、特攻で亡くなった人の霊魂は、靖国神社という中世の論理によって救われると理解する人が多くいます。

 

水林章氏は、日本には、天皇制を中心とした法度制度が、日本語を介して生き残ってきたという主張ですから、中世が引き続き存在するという主張です。

 

年功型雇用は、戦時経済の中で採用されました。年功型雇用は、徴兵制度と密接な関係があります。

 

イギリス、アメリカは志願兵制に基本を置いてきました。アメリカの徴兵制度の歴史は非常に複雑なので、説明を省きますが、基本的には、志願兵制度と徴兵制度の間を揺れ動いています。

 

志願兵制度の場合には、兵士の給与水準が問題になります。

 

日本の自衛隊は、志願兵制度で、定員割れしています。

 

ある戦闘が、自衛のためか、否かという形而上学はさておいて、戦闘に置ける死亡確率が高くなれば、給与をあげないと、志願兵はいなくなります。

 

IT戦争であれば、生命の危険は少ないかも知れませんが、体力勝負の人材では、使い物になりません。

 

防衛費の予算の話が先行していますが、例によって、人材確保の問題は無視されています。

 

3)経済学の限界

 

スターウォーズの世界観でみれば、日本では、資本主義・民主主義グループと中世化推進グループの勢力が争っていて、後者の影響圏が拡大していることになります。



経済学は、市場原理が成り立っていないと適用できません。

 

日本で、中世化推進グループの勢力が拡大すると、経済学の理論が使えなくなります。

 

経済学者の野口悠紀雄氏は、アップルが成功した原因は水平分業にあるといいます。

 

これは、アップルのスマホの製造データを帰納法で分析した結果です。

 

この指摘は正しいと思います。

 

問題は、次のステップです。

 

日本企業も、アップルのように水平分業していれば、経済成長したのでしょうか。

 

公取委によると、日産は2021年1月から2023年5月、自動車部品を製造する計36の下請け業者に対し、総額30億2367万円の減額を求めていました。発注時に決めた金額から一方的に数%を減額していました。

 

つまり、水平分業するよりも、発注時に決めた金額から一方的に数%を減額すれば、より簡単に、製造コストが下がります。

 

大手企業は、政策株を所有して、子会社に経営トップを送り込んでいます。

 

ローソンは三菱商事の子会社となっていて、商品の多くを三菱商事のグループ会社である三菱食品から仕入れています。

 

つまり、ここは、中世化推進グループの勢力範囲で、資本主義・民主主義グループの勢力が及んでいません。

 

これから経済合理性が機能しませんので、水平分業が行なわれなかったと解釈できます。

 

アメリカは、資本主義・民主主義グループの勢力範囲ですので、水平分業という経済合理性が機能しています。

 

日本の中世化推進グループの勢力範囲では、経済合理性ではなく、法度制度の系列取引が優先されます。株式会社は、利潤の追求よりも、法度制度の維持を優先しています。

 

日本では、中世化推進グループの勢力範囲が広いので、資本主義・民主主義グループの勢力範囲でのみ利用可能な経済学は限定的にしか使えません。

 

4)予言された失敗

 

 1975年 6月から 7月にかけて OECD調査団は、社会科学に関して日本国内の実態調査を

行いました。その結論として日本の社会科学(経済学、人口統計学政治学社会学社会心理学、法律の社会的な側面の研究、教育の社会的な側面の研究を含む)の研究と教育について次のような指摘をしました。

彼らは書物から学んだ しばしば日本とはまったく異なった社会に関する研究から引き出された一般的な原理をそのまま学生に伝えるだけである。

 

研究の大部分は高度に抽象的な研究者個人の「机上」研究である。日本の重要かつ複雑な社会・経済問題を解明するために必要な多くの専門にまたがる実地研究は非常に少ないと言える 。

<< 引用文献

OECD調査団報告:日本の社会科学を批判する」文部省訳(1980)、講談社学術文庫

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スターウォーズの世界観で、このOECDの調査報告読めば、日本では、資本主義・民主主義グループと中世化推進グループの勢力が争っていて、後者の影響圏が拡大しているので、経済学は、「書物から学んだ しばしば日本とはまったく異なった社会に関する研究から引き出された一般的な原理」になっています。

 

竹中構造改革では、派遣を自由化すれば、労働市場における競争原理が働いて、経済成長と所得増加ができるという主張でした。

 

これは、「書物から学んだ しばしば日本とはまったく異なった社会に関する研究から引き出された一般的な原理」にすぎません。

 

アメリカでは、資本主義・民主主義グループが優勢ですが、日本では、中世化推進グループの勢力が優勢です。

 

したがって、 1975年のOECD調査団の報告書は、竹中構造改革の失敗を予言していたことになります。