政治主導の経済効果

(政治主導の経済効果を考えます)

 

1)田中角栄氏の社会主義

 

かつて「日本列島改造論」をぶちあげた田中角栄は、郷里・新潟の過疎の60戸の村に12億円の費用をかけてトンネルを作り、猛烈な批判を浴びました。

 

週刊現代」2016年10月29日号に掲載された、ジャーナリスト・松田賢弥氏(故人)の取材・執筆による、知られざる「角さんの素顔」は、田中角栄氏の次の反論を伝えています。

 

このトンネルについて、60戸の集落に12億円かけるのはおかしいとの批判があるが、そんなことはないっ。親、子、孫が故郷を捨てず、住むことができるようにするのが政治の基本なんだ。だから私はこのトンネルを造ったんだ。

 

トンネルがなかったら、子供が病気になっても満足に病院にかかれない。冬場に病人が出たら、戸板一枚で雪道を運んで行かなきゃならん。同じ日本人で、同じ保険料を払っているのに、こんな不平等があるかっ。

<< 引用文献

「こんな不平等があるかっ」田中角栄はなぜ「北陸のたった60戸の過疎地」に「12億円のトンネル」を作ったのか…?  2024/0/1/13 現代ビジネス 松田 賢弥

https://gendai.media/articles/-/122788

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現在の自民党の政治主導のルーツをつくったのは、田中角栄氏です。

 

田中角栄氏を師と仰ぐ政治家は、田中角栄氏の不平等解消が政治の目的であると考えていると思われます。

 

資本主義も、人権思想も、問題にしている平等は、能力に応じた所得が得られる機会の平等であり、結果の平等ではありません。

 

結果の平等を求めると、社会主義になり、市場経済を破壊して、効率性が失われます。

 

シリコンバレーで、問題になっている効果的利他主義(EA)と効果的加速主義(e/acc)の間の議論は、資本主義の市場経済の中での議論であり、社会主義の議論ではありません。

 

資本主義は、成長を分配より優先します。

 

効果的利他主義(EA)と効果的加速主義(e/acc)でも、成長しなければ、分配の原資がありません。

 

AI推進者のアルトマン氏は、ベーシックインカムの推進派ですが、AIによって、労働生産性を高くすれば、ベーシックインカムの原資を生み出すことができるという論理になっています。

 

社会主義は、分配を成長より優先します。

 

社会主義は、市場を破壊して、経済成長を阻害します。

 

その結果、配分する原資がなくなります。

 

年金問題で、社会保険を含めた現役世代の負担率が、50%近くになっています。

 

現在のトレンドでいけば、今後も現役世代の負担率をあげる必要があります。(注1)

 

一方では、現役世代の負担率をあげても、年金の支給額は減る計算です。

 

経済学者は、この問題の解決のためには、経済成長が必要であるといいます。

 

生産活動に必要な全要素を使った場合、供給能力をどれだけ増大させられるかを示す指標は、潜在成長率と呼ばれ、中長期的に持続可能な経済成長率を示すと考えられています。

 

試算によりバラツキはありますが、潜在成長率は1%に過ぎません。

 

実際の経済成長率は、1%未満であり、潜在成長率まで、あげる余地があります。

 

しかし、それ以上の経済成長を実現するには、産業構造の変革が必要になります。

 

シリコンバレーでは、ベーシックインカムの議論をしていますが、日本では、年金問題すら、解決しませんので、ベーシックインカムは夢のまた夢です。

 

アルトマン氏も、竹中平蔵氏も、ベーシックインカムを論じますが、原資の実現可能性を考えれば、まったく、別次元の議論になっています。

 

シリコンバレー流に言えば、日本の年金問題は、分配を成長より優先した自民党政権が生み出した問題になります。

 

注1:

筆者は、賦課金方式の年金は、人権侵害であり、できるだけ早急に解消すべきという立場です。

 

2)ゾンビ企業の経済学

 

自民党の政策は、つぶれそうな企業に補助金を出す、DXの遅れている企業に補助金を出すと言った、分配を成長より優先する政策です。

 

過疎の村にトンネルを国費でつくるのと同じ政策です。

 

これは、ベーシックインカムを個人ではなく、企業に出しているような政策になります。

 

その結果、ゾンビ企業が蔓延しています。

 

加谷珪一氏は、日本企業の半数は、PBRが1倍割れの状態であり解散した方が合理的であるといいます。

 

PBRが1倍割れの企業の全てがゾンビではありませんが、合理的な経営が出来ている企業が少ないことは確実です。

 

<< 引用文献

日本の現実は「解散した方が合理的」な企業がほぼ半数...そこで起きた「株高」の理由と、期待感とは?2024/02/02 Newsweek  加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2024/02/post-265.php

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ロイターは、JALの次期社長について、次のように伝えています。(筆者要約)

 

JAL鳥取三津子代表取締役(59)は4月の次期社長に選ばれました。これは、日本が変わりつつあると同時に、2010年の経営破綻から故・稲盛和夫氏の下で再生を果たしたJALの組織的な変化を象徴しています。

 

稲盛氏は、経営と現場が価値観を共有することを重視し、JAL破綻後初の社長に指名したのは整備出身の大西賢氏でした。その後任は元操縦士の植木義晴氏、整備出身の赤坂祐二・現社長で、元CAの鳥取氏と続いています。4人に共通するのは「現場」の人間だったという点です。

 

JALはロイターの取材にコメントを控えていますが、関係者は、「JALをつぶしたのは歴代の経営企画系出身トップと考えている社員が多い」、現取締役会長の植木氏も、今回の人事で「経営企画系の出身者に(トップを)戻したくないという思いがあった」と言います。

<< 引用文献

焦点:CA出身のJAL新社長、経営破綻が異例の人事に道筋 2024/02/02 ロイター 白木真紀、Anton Bridge

https://jp.reuters.com/world/japan/LAA6DVUWXJIGPL57B4KTC3S2HE-2024-02-01/

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鳥取氏には、是非成果をあげていただきたいと期待します。JALは、年功型雇用なので、経営の自由度が低く難しい面もあると思います。

 

JALをつぶした経営企画系出身トップ」や、PBRが1倍割れの企業のトップの能力には疑問が付きます。

 

年功型雇用のJALでは、鳥取氏の社長人事は、社長の赤坂祐二氏と会長の植木義晴氏の案件と思われます。

 

JOB型雇用の株式会社では、経営者の人事は、株主総会の案件です。

 

年功型雇用では、水林章氏の問題視する天皇制を中心とした法度制度を排除することが難しくなります。

 

企業によっては、転職者を裏切者と呼ぶ場合もあるようで、幕藩体制の脱藩者に近い扱いです。

 

明治憲法では、人権より、家を優先していましたが、これは、藩(お家)が、個人に優先する江戸時代の人権無視の思想です。年功型雇用は、企業(お家)が、個人に優先する法度制度になります。

 

年功型雇用は、明治憲法の法度制の残影であり、人権侵害の疑いが高いです。

 

日本語版のウィキペディア「MOF担」には、次のように書かれています。

MOF担(モフたん)とは、かつて日本の都市銀行や証券会社などの大手金融機関のミドルオフィスに所属し、金融行政を所管していた大蔵省(財務省の前身、英称は両者ともMinistry of Finance)と癒着し様々な情報を官僚から聞き出していた「対大蔵省折衝担当者」の俗称である。

 

当時の担当者の目的は、官僚と懇意になって金融検査の検査日などを聞き出したり、新しいプロジェクトなどへの根回しであったが、次第に便宜供与や接待の規模や内容のレベルが深刻化し、ノーパンしゃぶしゃぶ店での接待が報道されると世論の批判が殺到し社会問題化した。1998年には大蔵省接待汚職事件で逮捕者を出すまでに発展、国家公務員倫理法の制定へとつながった。

 

上記の反省点も要因の一つとなり、大蔵省への過度の権力集中を是正すべく2001年の中央省庁再編に先立ち金融行政の管轄が金融監督庁(現:金融庁)へ分離された。それに伴いこの俗称は廃止されたが、同様の仕事自体は金融庁に対してFSA担(Financial Services Agency)と呼ばれ現存するという。また、日本銀行に対してはBOJ担(Bank Of Japan)と呼ばれる。 

MOF担は、送船団方式(ごそうせんだんほうしき、英: convoy system)の一部でした。

 

護送船団方式は「落伍者を出さない」(言い換えれば、経営が拙くても破綻はさせない)ことに主眼が置かれ、市場経済における自由競争により他より優れた商品・サービスを供給したものが勝ち残るという、本来の資本主義経済になじまない部分があったと指摘されています。

 

この「落伍者を出さない」は、成長と分配の政策では、成長を犠牲にして、分配を優先する政策になります。

 

日本語版のウィキペディアの「護送船団方式」は、「護送船団方式」は過去のものであるように書かれています。

 

しかし、パーティ券問題をみると、資本主義経済でありえない「MOF担」や「護送船団方式」が依然として生き残っているように見えます。

 

遠藤誉氏は、近年、出席した政治資金パーティの状況を次のように書いています。

 

大企業の社長は、その派閥が輩出している関係大臣筋などにご挨拶をするために争って前に出ようとする場面もあれば、あまりに人数が多い場合は長い列を作ったりと、あちこちに「熱い塊」ができ上っていた。議員自身も、デンと椅子に座っている派閥の長の前に列を作り、挨拶する際は跪(ひざまず)いて(膝を床に付けて!)神々しき相手に話をする姿勢だ。

 

おお――!

 

何という序列社会――!

 

のちに関係者から聞いたところによれば、派閥の長の「覚え愛でたい」存在でなければ出世は絶対に無理なので、同じ派閥の議員でも派閥の長に直接話をする機会は少ない場合もあるので、この時ぞとばかりに好印象を与えようと必死なのだという。

 

また外部からの民間企業の社長などは、仕事の発注の際に便宜を図ってもらうために少なくとも「十口」くらいは出す人が多く、それらがその派閥の活動資金に使われるのだそうだ。

 

(中略)

 

ほとんどの議員は選挙の際の当選と、当選後の出世しか考えておらず、決して「日本国民を幸せにしよう」とか「日本国の国益のために頑張ろう」といった動機があるわけでないことも段々にわかってきた。

<< 引用文献

日本の裏金・派閥と中国の政治構造 2024/01/24 中国問題グローバル研究所 遠藤誉

https://grici.or.jp/4965

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遠藤誉氏は、「序列社会」と書いていますが、これは、水林章氏の法度制度に他なりません。

 

法度制度は、身分制度なので、スキルがあっても、所得は増えません。

 

以上のように、「落伍者を出さない」、結果平等の社会主義の政治が行なわれ、それが、利権を構成していると判断できます。

 

もちろん、分配を成長に優先すれば、ゾンビ企業が蔓延して、経済成長はなくなります。

 

つまり、日本が経済成長しない原因は、政府と与党の「落伍者を出さない」政策であったと考えられます。

 

それでは、「落伍者を出さない」政策が、どの程度、経済成長を阻害したか、考えてみます。

 

3)経済効果

 

1955年頃から1973年頃までは、実質経済成長率が年平均で10%前後を記録し、高度経済成長期と呼ばれます。

1973年12月から1991年5月まで17年6ヶ月は、安定経済成長期と呼ばれます。

 

第1次オイルショック後の、1974年度から1990年度の実質経済成長率は平均で4.2%でした。

 

つまり、この間に、10%から4%に、6%の経済成長ダウンが起こっています。

 

増田悦佐氏は、その原因は、農業から工業への産業間人口移動の減速にあるといいます。

 

しかし、増田悦佐氏の指摘を見るまでもなく、田中角栄氏の発言「親、子、孫が故郷を捨てず、住むことができるようにするのが政治の基本」をみれば、田中角栄氏の政治の基本が、産業間人口移動を阻止する目的で行なわれたことがわかります。

 

高度経済成長期の終焉は、田中角栄氏の政治の基本によって引き起こされ、安定経済成長期に、移行しました。

 

安定経済成長期は、分配を成長に優先するという政治的な意図のもとに実現しています。

 

今世紀に入って、世界では、工業から情報産業への人口移動が生じています。

 

国会議員には、田中角栄氏の政治の基本の継承者が多数います。

 

田中角栄氏の政治の基本の継承者は、今回も、分配を成長に優先させて、工業から情報産業への人口移動を阻止しています。

 

失われた30年は、政治の基本によって引き起こされた必然的な現象です。

 

今世紀に入って、アメリカは、工業から情報産業への人口移動を実現して、高い経済成長を実現しています。農業から工業への産業間人口移動ほどの大きな差はありませんが、それでも、2%程度の差があると思われます。