(デザイン思考の能力を考えます)
1)経済学の基本
経済学の基本は、市場原理と経済合理性を仮定します。
経済的合理性とは、人間が利益を最大化する行動をとることを意味しています。
これは、次の2点に分解できます。
第1に、利益の評価ができることです。
第2に、複数の行動をデザインする能力があることです。
この2つを組み合わせると利益を最大化する行動を選択することができます。
経済学では、デザイン思考のできない人間を想定していません。
東日本大震災では、多くの復興計画が失敗しています。
失敗と断定できる理由は、復興した市街に、計画人口が戻らなかったからです。
<< 参考文献
復興住宅で際立つ高齢化、「孤独死」553人…限界集落化目前に「こんなはずではなかった」2024/03/05 読売新聞
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6493707
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ちなみに、東日本大震災の復興計画の評価がなされていないことは、異常です。
なぜなら、同じ失敗を繰り返す可能性があるからです。
政策がエビデンスに基づいていれば、東日本大震災の復興計画の評価はなされます。
東日本大震災の復興計画の評価がなされない原因は、エビデンスに基づいていれば、東日本大震災の復興計画の評価が都合の悪い政治家がいるためと思われます。
簡単に言えば、実際に効果のある復興よりも、利権を優先した復興が行なわれた可能性があります。
エビデンスに基づいた政策評価が行なわれれば、利権に基づいた政策が出来なくなるので、都合が悪い政治家が、エビデンスの計測と評価を妨害しています。
ここには、パーティー券問題と同じ利権のルーツがあります。
さて、デザイン思考に話を戻します。
東日本大震災のあと、復興のためには、所有権の調整に膨大な手間と時間がかかっています。
津波や放射能汚染で、広いエリアが被災した場合には、通常の手続きでは、調整に時間がかかりすぎます。
例えば、特例措置として、広いエリアを国が買い上げる方法も考えられます。
よりよい代替案があるかもしれません。
大切なことは、被災が発生してから解決策を検討するのでは、時間がかかりすぎて間にあわないことです。
シナリオを作成して、事前にデザイン思考で対策を準備しておくことが必要です。
交通事故が起こってから損害保険に入ることはできません。
被災が発生する前に対策を検討して置くことは、デザイン思考です。
能登地震の復興をみれば、デザイン思考がなされていなかったことがわかります。
これは、官僚の人事では、デザイン思考を伴う提案をしても、全く評価されないか、マイナスの評価がなされていることを示しています。
3)デザイン思考の排除
実際に官僚の世界で起こっていることは、デザイン思考の排除です。
高速道路は、建設費を償還後、無料開放されることになっていますが、2023年6月に償還期間の延長が決まり、最長で2115年まで料金を徴収することが発表されています。
西九州自動車道の「佐世保道路」と呼ばれる区間の佐々ICから、佐世保中央インターチェンジ(IC)間と、福岡県篠栗町と筑豊の飯塚市を結ぶ「八木山バイパス」の2路線が、無料から、有料化が発表されました。
無料区間として建設された高速道路が有料化されるのは、実はわが国では初めてのことです。
<< 引用文献
時代に逆行? 今「道路の有料化」が進むワケ 「償還→無料開放」がセオリーだったはずが 2024/02/27 東洋経済
https://news.yahoo.co.jp/articles/8061dc9c1da4b41d01cdc15bde7c133db914f711
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ここにあるのは、デザイン思考の欠如です。
赤字が予想されれば、高速道路の無料区間を有料化します。
赤字が予想されれば、高速道路の償還期間を延長します。
ここでは、高速道路を問題にしている訳ではありません。
年金会計の赤字が予想されれば、支給額を減額します。
年金会計の赤字が予想された場合の赤字の解消方法には、支給額を減額、社会保険料の上乗せ、消費税の増額など複数の対策があります。
デザイン思考で考えれば、これらの対策のベストミックスを検討します。
仮に、検討の結果、支給額を減額がベストの問題解決策である場合には、その理由の説明があるはずです。
あるいは、年金の支給は、財産権に関わる基本的な人権ですから、複数案を提示して、国民投票を行なう価値があります。
しかし、そのようなデザイン思考は欠如しています。
高速道路の有料化が長引けば、生産コストが上がるため、経済成長が阻害されます。
例えば、2つのケースの比較が可能です。利用率の低い高速道路の新線を建設する場合と、新線の建設は中止して、高速道路の無料化を優先する場合です。
人口が減少している日本では、どこかの時点で、新線の建設を中止する方が、経済成長するようになるはずです。
年金の減額は、内需を抑制します。
現状では、減額がどこまで下がるかの下限が示されていませんので、心理的には、極端な消費抑制になっています。
道路の新線の建設を中止すれば、その分の年金の減額がさがるかも知れません。高速道路には、徴収した料金以外の財源手当は含まれないかも知れません。道路は一例です。利用率の低い事業に税金を投入するよりも、節財して、年金支給額の減少を減らしたり、消費税を下げた方が、経済成長するかも知れません。
均衡点はどこかにあり、経済モデルを使えば、均衡点を探索することができます。
これはデザイン思考です。
消費税は、ない方が、使えるお金は、増えます。
なので、消費税の税率の良し悪しを単独で議論することはできません。
経済学者アーサー・ラッファーは、最適な税率に設定することにより政府は最大の税収を得られるということを示すために、ラッファー曲線(Laffer Curve)を提示しました。
ラッファー曲線には、反論がありますが、ある条件下では、最適税率が存在する可能性は、数学的には、自明です。
法人税は、引き下げの結果、内部留保が増えました。法人税の現在は、設備投資を増やすという説明で、法人税は引き下げされましたが、その効果はありませんでした。法人税の引き下げ効果が、賃金の増加に転嫁されれば、それは、内需に繋がります。一方、内部留保では、お金が停滞していますので、経済成長が阻害されています。
つまり、法人税の減税は、経済成長にマイナスであったと思われます。
4)禁じられたデザイン思考
レーガン大統領は、事前に、所得税減税をする計画で、その計画に都合のよい理論として、ラッファー曲線を取り上げました。
このため、ラッファー曲線には、正統派の経済学者からの評価は低くなっています。
ラッファー氏は、御用学者という訳です。
日本でも、政府は、審議会や専門家会議を使っています。
専門家が御用学者か否かを判定するのは、さほど難しくはありません。
第1に、政府の政策が先にあり、その後で、理論が付いてくる場合には、これは、あとづけの理論のなので、御用学者です。
第2に、より重要な視点は、専門家の提案がデザイン思考になっているか、否かをみれば、判断ができます。
レーガン政権では、ラッファー曲線の評判はあまりよくありませんでした。
これは、御用学者の後付け理論であることが、明白だったからです。
アメリカでは、ラッファー曲線のような御用学者の理論もあります。
しかし、ラッファー曲線が目立つということは、御用学者でない理論もあると言えます。
具体的に言えば、複数のシンクタンクは、対立する政策を提案しています。
筆者は、前節で、「デザイン思考の欠如」を指摘しました。
しかし、この表現は不正確です。
日本では、「デザイン思考が禁止」されています。
デザイン思考をすれば、空気を読めないと批判されます。
「デザイン思考が禁止」される理由は、デザイン思考が不都合な政治家がいるためです。
今回の検討の振り出しに戻ります。
第1に、利益の評価ができる、第2に、複数の行動をデザインする能力があれば、利益を最大化する経済的合理性のある行動が選択できます。
この場合には、経済成長が最大化されます。
しかし、経済的合理性のある行動が選択されると利権が消滅してしまいます。
過疎問題、弱者救済の旗をたてて、経済的合理性を否定することで、予算を利権に合わせて配分したい政治家がいます。
経済的合理性に合わせた予算配分がなされれば、利権が関与できる余地がほとんどなくなります。
それでは、利権を温存するためには、困るので、「デザイン思考が禁止」されています。
政策効果を評価するエビデンスは、利権にとって危険なので、計測されません。
要するに、利権を中心に活動する政治家は、経済成長して、賃金が上がってもらっては困るのです。
これが、パーティ券問題が存在する理由です。
「デザイン思考が禁止」されれば、経済成長の最大化は阻止されます。
同様に、教育ではエンジニア人材の育成は阻止されます。
環境問題の改善は阻止されます。
「デザイン思考が禁止」されていますので、日本の専門家の殆どは、自動的に御用学者になっています。
これは、考えすぎかも知れませんが、少なくとも、パーティ券問題について、発言する学者や学会が異常に少ないという事実を直視すべきです。