(政権交代の条件を考えます)
アメリカにおいてシンクタンクは政府高官の供給源の一つであり、特に新政権が発足す
る時には、数多くのシンクタンク関係者が政府高官に任命されます。レーガン政権やブッシュ政権では、多数の保守系シンクタンク関係者が要職に引き抜かれています。
例外は、トランプ政権で、その理由は、選挙戦中、保守系シンクタンクなどに在籍する共和党系の専門家の多くは「トランプは大統領に適さない」と批判の声をあげて、反トランプの立場を鮮明にしたためです。
このため、トランプ政権では、政権発足後の政府高官の任命に遅れが生じました。
日本の民主党政権では、アメリカのシンクタンクが作成したような統一的な政策はありませんでした。これは、問題を起こします。その典型は、行政仕分けでした。
また、新しい政策を実施するためには、アメリカのように、政府高官を入れ替える必要があります。これも、民主党政権は、年功型雇用のために出来ませんでした。その結果、霞が関が機能しなくなりました。
選挙区の大きさを変えれば、2大政党が実現する訳ではありません。
政権交代には、政策のデザインとプロセスを実行する政府高官の入れ替えが必要です。
2024年2月には、世論調査の自民党の支持率が下がっていますが、野党の支持率はあがっていません。
野党は、民主党政権時代の問題点の整理と解決策を提示できていないので、これは当然の結果です。
1975年 6月から 7月にかけて OECD調査団は、社会科学に関して日本国内の実態調査を
行いました。その結論として日本の社会科学(経済学、人口統計学、政治学、社会学、社会心理学、法律の社会的な側面の研究、教育の社会的な側面の研究を含む)の研究と教育について次のような指摘をしました。
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彼らは書物から学んだ しばしば日本とはまったく異なった社会に関する研究から引き出された一般的な原理をそのまま学生に伝えるだけである。
研究の大部分は高度に抽象的な研究者個人の「机上」研究である。日本の重要かつ複雑な社会・経済問題を解明するために必要な多くの専門にまたがる実地研究は非常に少ないと言える 。
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<< 引用文献
「OECD調査団報告:日本の社会科学を批判する」文部省訳(1980)、講談社学術文庫
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筆者には、このOECD調査団の指摘は、シンクタンクをつくって、研究成果の政策実現をしない社会科学は考えられないと言っているように読めます。
また、社会科学は、エビデンスに基づく科学になっていません。
科学は、エビデンスから、原理(仮説)を導き出すプロセスです。
OECD調査団は、プロセスが研究と教育の対象になっていないことを指摘しています。
社会学者エズラ・ヴォーゲル氏は、1979年の著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(原題:Japan as Number One: Lessons for America)の中で、9年間の日本の義務教育を高く評価しました。
一方で、ヴォーゲル氏は、大学教育は、評価できないとしています。
ヴォーゲル氏は、 社会学者なので、評価の中心は、社会科学にあると思われます。
ヴォーゲル氏の指摘は、以下です。
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日本の教育には大きな問題があります。 大学は学生を認定するという重要な役割を担っていますが、教員の教育と学生に対する献身は限られており、学生の準備は入学試験前に比べてはるかに少なく、教室での分析の厳密さは欠如しており、出席率も低いです。 学生一人当たりの大学支出は不当に低く、先端研究のレベルと種類は非常に限られています。 日本人学生は小論文の中で、オリジナリティよりもガイドラインに強く従います。 高校や大学への入学試験は非常に競争が激しいため、学生は知的幅が制限され、課外活動が排除され、社会性の発達が無視され、不合格の場合は精神的に落ち込んでしまいます。
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ヴォーゲル氏は、社会科学に、プロセスを要求するので、分析の厳密さが問題になっています。大学教育では、小論文にオリジナリティのある分析を求めるべきですが、ガイドライン(模範解答)のコピーが蔓延しています。
ヴォーゲル氏は、9年間の日本の義務教育を高く評価しましたが、実は、9年間の日本の義務教育では、プロセスの習得がなされていませんでした。
日本の教育は、この後、ゆとり教育で、ガイドライン(模範解答)の暗記を放棄しようとします。しかし、プロセスの習得が教育目標になかったために、義務教育が崩壊してしまいます。
その原因は、OECD調査団が指摘したように、社会科学では、プロセスが研究の対象になっていなかったためと思われます。
数学の文章問題では、解法の手順(プロセス)が問題になります。
これは、デザイン思考です。
ヴォーゲル氏は、社会科学でも、解法の手順(プロセス)が問題になるべきと考えていたと思われます。
実世界の問題を解決するための解法の手順は、シンクタンクが作成する統一的な政策提案になります。
統一的な政策提案は、複数の政策を総合的に配置し、政策実現の各プロセスの進捗状況をチェックするためのKPI(Key Performance Indicator)が設定されているはずです。
日本でも業界団体が、政策提案という名前で、補助金リクエスト表を作成しますが、シンクタンクが作成する統一的な政策提案とはまったく別のものです。
3)法度制度と政策
水林章氏は、日本には、天皇制を中心とした法度制度が、日本語を介して生き残ってきたと考えています。
これは、パース流に言えば、科学の方法よりも、権威の方法を優先するということです。
法度制度の中で、政治家は、無意識のうちに、権威の方法を選択しています。
政治家は、科学の方法(市場原理)ではなく、権威の方法(利権原理)で、思考しています。
例えば、省庁再編には意味はありません。
省庁は、ジョブ型雇用をして、ジョブがなくなり次第レイオフすれば良いだけです。
厚生労働省によると、2023年1年間で生まれた赤ちゃんの数を示す出生数は前の年よりも約4万1000人減って、75万8631人でした。出生数が減少するのは8年連続で、過去最少となりました。
つまり、賦課金方式の年金は維持不可能です。
最短で、積み立て方式に移行する必要があります。
消費税のアップでは、問題が深刻になるだけです。
リトアニアのような納税システムを導入すれば、国税庁は10分の1ですみます。
パーティ券問題のような脱税はほとんどできなくなります。
DXが、コストカットの決め手です。
これは、国税庁に限りません。
教育の90%は、DXでできます。文部科学省関連の定員の90%は不要です。
簡単な裁判は、AIがあれば、不要です。裁判所も、弁護士も、90%は不要です。
こうしてコストダウンをはかれば、消費税をあげなくとも、年金は捻出できます。
DXによって、生産性の低い仕事がなくなれば、中抜き経済がなくなり、生産性があがり、経済成長が実現できます。
法度制度の年功型雇用がなくなれば、労働市場ができて、労働者は、生産性の高い、給与の高いジョブに向けて人口移動します。
日本のDXが遅れている原因は、科学の方法(市場原理)ではなく、法度制度の権威の方法(利権原理)が、働いているためです。
省庁再編は、時間の無駄です。
変化の速度を最大化しないと、日本は確実に、破綻します。