費用対効果分析の話

(経済発展をさせる方法を説明します)

 

1)要素分解と成分分離

 

科学の基本的な視点に要素分解があります。

 

グランドで、サッカーボールが転がっている場合、ボールには、キックの外力、芝生の摩擦、風の力が働きます。キックしない場合には、キックの外力はゼロになり、芝生の摩擦、風の力を無視すれば、ボールは慣性で動くことになります。

 

芝生の摩擦、風の力は、測定してみないと大きさがわかりません。

 

特に、風の力は、将来に吹く風が予測できないと計算は困難になります。

 

科学では、現象を要素に分解して、主な要素が推測できれば、現象は理解できたと判断します。

 

時系列データの場合には、要素分解に、成分分離フィルタ―が用いられます。

 

2)株価の話

 

国際決済銀行(BIS)が発表した2023年8月の円の実質実効為替レートは73.19(2020年=100)で、さかのぼれる1970年以来の最低の水準でした。

 

日銀の2023年8月の円の実質実効為替レートも73.05でほぼ同じです。

 

日銀の2023年11月の円の実質実効為替レートは71.39で過去最低を更新しました。

 

日銀の2023年12月の円の実質実効為替レートは73.56で、少し持ち直しています。

 

円建ての株価は、過去最高を更新していますが、実質実効為替レートでみれば、低い株価になります。

 

円安とインフレで、株価の円表示が水増しされているからです。

 

企業の実効の利益(ほぼ、ドル建ての利益)は、労働生産性に比例します。

 

労働生産性は、付加価値を作る能力を指します。

 

これは、法則というよりは、用語の定義だと考えるべき事項で、例外はありません。

 

サッカーボールで高速のシュートを打つには、芝生の抵抗に勝てるキック力を実現するしか方法がありません。追い風であれば、その分、シュートの速度は速くなりますが、シュートチャンスは少ないので、追い風を選んで、シュートすることは出来ません。

 

低い実質実効為替レートは、追い風のようなもので、風が吹かなくなればなくなります。

 

3)経済成長とTINA

 

低い実質実効為替レートは、追い風をのぞいて考えれば、企業の競争力は、労働生産性で決まります。労働生産性が高ければ、企業に競争力があり、高い賃金を支払うことができます。

 

経済学者は、労働生産性をあげる方法を研究してきました。

 

結論は、市場原理以上の方法はないということで、これは、TINA(There is no alternatives)と呼ばれます。

 

市場原理には、限界があります。

 

例えば、空気は市場で取引されません。

 

その結果、空気の利用を市場に任せておけば、大気汚染(市場の失敗)が起こります。

 

政府は、市場の失敗を避けるために、市場に介入すべきと考えられています。

 

TINAに関する誤解が広く見られます。

 

TINAは、社会主義を否定します。市場の取引は、ルールを守る範囲では、自由に行なうことができます。

 

つまり、TINAは、司令塔機能を作れば、かならず失敗すると断言しています。

 

労働者を生産性が上がるように働かせるためには、労働市場が必要です。

 

日本の企業のように、黒字部門の利益を、赤字部門の補填にまわして。黒字部門で働く人の賃金を赤字部門で働く人に所得移転すれば、働くだけ、取られ損になりますので、労働生産性はあがりません。

 

市場原理が人権と対立する場合もあります。

 

その場合には、生活保護のように、人権に基づいて、個人を救済します。

 

これも、政府が、市場に介入する一例です。

 

もう一つの誤解は、政府は民間でできない赤字の事業を行なうべきであるという理解です。

 

TINAは、政府が民間でできない赤字の事業を行なうことを否定します。

 

その理由は簡単で、財源に限度がありますので、政府が、民間でできない赤字の事業を行なうことは出来ません。

 

仮に、政府が、民間でできない赤字の事業を行なう場合を考えれば、政府は、赤字で行なう事業を選択する必要があります。

 

この場合に、費用と効果(便益)のバランス(費用対効果分析)を無視すれば、政策は利権によって選択されることになります。

 

地域格差是正のために、都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転することをぶちあげたのは、田中角栄氏の「日本列島改造論」でした。

 

そこには、経済合理性はなく、経済発展を阻害することが政治の仕事になっています。

 

税を使った公共事業を通じた所得移転を維持する目的で、人権無視の1票の格差が温存されています。

 

「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」を維持する目的がなければ、1票の格差を温存する意味はなくなるので、1票の格差は是正されると思います。

 

「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」をすることは、成長と分配の枠組みで考えれば、分配を優先して、成長を阻害する政策になります。

 

人権を確保するための分配(所得移転)は必要です。しかし、それは、経済成長をできるだけ阻害しない形で行なわれなければ、分配の原資が減ってしまいます。

 

現状では、「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」が確保される一方で、貧困者に対する所得移転が制限されています。これは、日本の貧困率が高い原因になります。

 

人権の確保は、あくまで、個人に対して行なわれなければ、集団(国、会社、組織)を個人に優先する明治憲法の世界に逆戻りします。

 

現在は、特攻がありませんが、かわりに、経済的弱者の切り捨てが行なわれています。

経済的弱者の切り捨てを合理化するために使われる説明が、市場経済の行き過ぎや、強欲資本主義です。これは、TINAは間違いであるという経済学に反する洗脳にすぎません。



「都市から地方に、税を使った公共事業を通じて所得移転」は、TINAに反するので、経済成長を阻害します。

 

同様に、ソンビ企業を温存する補助金も、TINAに反するので、経済成長を阻害します。

MOF担のように、官僚や政治家と食事をしたり、懇意にする人が出世する社会では、TINAが、成り立っていません。技術開発やDXを進めるよりも、補助金をもらってくる人が出生する企業は、国際企業にはなれません。

 

日本は、サッチャー政権のまえのイギリスと同じことをしています。

 

4)費用対効果分析

 

公共事業には、市場がありません。

 

市場がないと市場原理による効率化が機能しません。

 

そこで、バーチャルに市場を作る方法が費用対効果分析です。

 

公共事業A、B、Cがあった場合、公共事業の価格は、事業費(費用)になります。

 

一方、商品の魅力(価値)は、公共事業の効果(便益)になります。

 

公共事業のパフォーマンスは、効果/費用(費用対便益比)で計算できます。

 

公共事業A、B、Cを、費用対便益比の大きさの順に並べて、費用対便益比の大きな事業を優先して行なえば、政治介入(利権介入)はなくなります。

 

最近では、価格比較サイトで、同じ商品の最安値を見つけることは容易です。

 

価格比較サイトが利用可能になったのは、20年前からです。

 

費用対効果分析も昔はソロバンで計算していましたので、複数の事業の比較をする余裕はありませんでした。このため、「便益>費用」の条件、つまり、「費用対便益比>1」を点検するだけでした。

 

この方法では、事業比較ができないので、政治介入(利権介入)が避けられません。

 

現在では、コンピュータを使えば、条件を変えて、費用対便益比を計算しなおすことは容易です。

 

費用対効果分析のデータフォーマットが規格化されていれば、公共事業の価格比較サイトを簡単に作ることができます。

 

大阪万博では、「世界最大級」をうたった木造建築物「大屋根(リング)」の工事費が問題になりました。

 

「大屋根(リング)」の工事費の高低が問題ではなく、公共事業の工事の価格比較サイトがないことが問題です。

 

公共事業の工事の価格比較サイトがあれば、公務員が、政治家に圧力を掛けられても、余りの無理筋には反論する根拠ができます。

 

費用対効果分析のデータフォーマットが規格化され、データが公開されていれば、公共事業の価格比較サイトを作るボランティアはいくらでもいます。

 

「便益>費用」の条件が満たされない公共事業は、費用に見合うリターンがないので、公共事業を行なえば行なうほど、国と自治体は貧しくなります。

 

しかし、人口減少によって、交通量が減った結果、多くの道路整備では、「便益>費用」の条件は、みたせなくなり、現在では、(便益を1.2倍にするような)補正係数を使うことが認められています。これは、経済合理性からすれば、不要な道路を建設していることになります。

 

ここでは、公共事業を例に取り上げましたが、補助金にも同じ構造があります。

 

また、事業実施後の事業評価も正しく行なわれていません。

 

科学的に間違った事業評価が修正されていません。

 

田中内閣の時代から、日本では、経済発展を犠牲にして、過疎地やソンビ企業に、税金を所得移転することが正しい政治になっています。

 

この伝統は、現在でも変わっていません。

 

救済すべきは、過疎地やゾンビ企業ではなく、生活困難な個人です。

 

これは人権の確保につながる課題です。



費用対効果分析は、科学の方法によるブリーフの固定化の一例です。

 

選挙に当選した議員であるという権威の方法、実定法主義で、法律に書いてあるという固執の方法、あるいは前例主義を変えない固執の方法を行なえば、経済発展はとまり、経済的弱者の人権は無視されます。