(間違い探しが、問題解決のスタートです)
1)実質賃金
日本生産性本部がまとめた2022年の労働生産性の国際ランキングによると、日本は経済協力開発機構(OECD)に加盟する38か国中30位で、比較可能な1970年以降で最低でした。日本は長年、20位前後が定位置でしたが、4年連続で順位を落としました。先進7か国(G7)でも最下位となっています。
<< 引用文献
日本の労働生産性、OECD加盟国で30位と過去最低…1位のアイルランドと80年代は同水準 2023/12/24 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231224-OYT1T50061/
>>
厚生労働省が12月8日に公表した10月の毎月勤労統計(速報)によると、実質賃金は前年比2.3%減少し、19カ月連続のマイナスとなっています。
賃金を上げるために労働生産性の向上が必要です。
マーガレット・サッチャー元首相は、TINA(There is no alternative)と言いました。TINAは、経済を成長させ、生産性を上げるには、「市場原理を働かせる他の」方法はないという意味です。
賃金をあげるには、生産性をあげること、そのためには、市場原理を働かせること、これ以外のルートはありません。
逆に言えば、日本の日本の労働生産性と実質賃金が下がり続けていますので、その原因は、どこかで、市場原理が働かない間違いを犯したことになります。
したがって、賃金を上げるためには、間違い探しをして、訂正する必要があります。
科学では、エビデンスによって仮説が否定された場合には、どこで、仮説を作り間違えたかという間違い探しをして、仮説を作りなおします。
政策の決定が、科学的に、行われるのであれば、エビデンスを元に、間違い探しをして、政策を訂正するはずです。
しかし、政府は、政策の間違いを訂正せずに、同じ政策を繰り返しています。
これは、科学的な方法ではなく、カルトな手法です。
経済財政諮問会議は、12月21日に、次の様に言っています。
<
(現在の)政策を実行していけば、政府経済見通しでお示ししたとおり、来年度にかけて民需主導の経済成長が広がっていき、2024年度の実質成長率は1.3パーセント程度、名目GDP(国内総生産)は600兆円を超える経済の姿が見込まれます。
>
<< 以上文献
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202312/21keizai.html
>>
欧米の経済の専門家は、このような諮問はしません。
英国では、政治的に独立した予算責任局(OBR)が、財政イベントの詳細な予測・分析を行います。アメリカには、同様の財政監視機関として、米国議会予算局(CBO)があります。
<< 引用文献
英国経済政策の混乱から企業は何を学ぶべきか 2022/12/19 ハーバード・ビジネス・レビュー ジョン・ヴァン・リーネン
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9045
>>
労働生産性と実質賃金が下がり続けていますので、民需主導の経済成長が起こらないことは、掛け算が出来ればわかります。
そもそも、労働生産性と実質賃金が下がっていることは、今までの政策に誤りがあったことを意味しています。
ですから、まちがいを探して、取り除く必要があります。
欧米の経済学者は、科学のリテラシーがありますので、エビデンスを無視したカルトの諮問はしません。
もちろん、何事にも例外がありますので、欧米にも、カルトな経済学を主張する人はいますが、それが、主流になることはありません。
2)カルトの謎
カルトな経済学を主張したり、実行することは、権力者であれば、容易にできます。
しかし、権力者が、それをしない理由は、リバウンドがあるからです。
「2024年度の実質成長率は13パーセント程度、名目GDP(国内総生産)は600兆円を超える経済の姿」とかいて、実際に、経済成長が見込めない場合には、リバウンドがおきます。
政治家であれば、選挙に負けます。
2023年には、ドイツのショルツ首相が所属する社会民主党(SPD)の支持率が低迷し、政権維持が困難になっています。
アベノミクスは、インフレ率2%を掲げましたが、10年近く、インフレにはなりませんでした。また、経済成長はありませんでした。
政策を立案するときに、政策目標が全く実現しなくとも、政権が維持できました。
アベノミクスは、最初から、この点を計算していた可能性があります。
これは、科学的な推論をする人間にとって、理解不可能です。
政治資金パーティーで、裏金をつくることは、誰でも思いつきます。
しかし、裏金の存在がバレた時のリバウンドを考えれば、トータルでマイナスになるので、裏金をつくらないという選択が、科学的な推論です。
これは、薬物でも同じで、麻薬を使えば、誰でも、気分が良くなることは理解できます。しかし、リバウンドで起こる後遺症を考えれば、トータルがマイナスになるので、麻薬に手を出さない訳です。
このような将来を考えた科学的な推論が出来なければ、議論は成り立ちません。
政治家の中には、政治資金パーティーの裏金のリスクや、カルト宗教に関わるリスクを考えていないように見える人もいます。
人によっては政治家の推論自体がカルトになっている可能性もあります。
3)分布の問題
世の中には、カルト好きな人もいます。
是非は別にして、カルトがあることは事実です。
しかし、カルトが主流になることは、普通は、ありません。
日本の江戸時代末期の1867年の8月から12月にかけて、近畿、四国、東海地方などで、「ええじゃないか」という集団カルト現象がおきました。
これは、数少ない例外ですが、1867年には、科学のリテラシーが低かったので、集団カルトが発生するリスクは、現在より高かったと思われます。
日本には、科学的な推論が出来る人がいます。
日本には、カルトな推論をする人がいます。
日本では、空気を読む、同調圧力があるとも言われます。
これは、日本では、カルトな推論が日常生活を支配していることを示しているのでしょうか。
厚生労働者は、最初は、かなり怪しい(カルトらしい)説明として、年金は、100年安心といいました。
次に、老後に向けて、2000万円ないと、不足するといいました。
最近は、2000万円では、不足するので株式投資が必要であるといっています。
次に何が来るかを考えれば、恐らく、年金は払えないので、公助ではなく、全て、自助で対応すべきと言いそうです。
全て、自助で対応するのであれば、年金制度と日本年金機構は、要らなくなります。
年金納入をやめた方が、その分の資金の利回りが良くなります。
手数料をピンハネをする日本年金機構はない方が、老後の生活は楽になります。
実際に、自営業で、自助を希望しているにもかかわらず、強制的に、国民年金に加入させられることに反対している人がいます。
しかし、自助で対応するのであれば、出来るだけ早く、若年層から高齢者への所得移転を解消しないと、社会的な平等に反します。
若年層が、自助のために、自分の老後の積み立てをするだけでなく、高齢者の負担もしなければならないとすれば、若年層は、日本から逃げ出します、
そこまで、負担の大きな国は、日本以外にはないからです、
また、自助を前提にするのであれば、賃金を大幅にあげる必要がありますので、労働生産性の低い企業は、市場原理に依って淘汰され、労働者は、転職によって、急速に給与を上げる必要があります。補助金で、ゾンビ企業を延命すれば、とり返しのできない未来が待っています。
4)間違いの起点
ウィキペディアによれば、1972年が、日本経済の転換点であったことがわかります。
失われた30年では、バブル崩壊後の1994年前後に転換点があったと考えますが、筆者は、転換点は、1972年であったと考えます。
1967年に、マルクス経済学者の美濃部亮吉氏が、東京都知事になりました。
1969年に、美濃部知事は、高齢者の医療費の健康保険個人負担分を都が肩代わりする政策を全国に先駆けて打ち出し、都民から大きな支持を得ます。
これに対して政府・厚生省と自民党は「枯れ木に水をやる政策」と反対し、「個人負担分の肩代わりは健康保険法違反で実施不可能」などと反発し、一旦頓挫します。
都は厚生省に「健康保険法違反」の見解を撤回させ、都独自の高齢者医療費無料化を実施します。
この東京都の老人医療費無料化が都民に支持されたため、将来の持続性から反対していた自民党は地方選挙で敗北を重ねます。
田中内閣は、財源無しに無償福祉は不可能だと反対する官庁を抑えて、1972年に、老人福祉法を改正して、70歳以上の医療費を無料化しました。年金制度が改正され、物価スライド制が導入されました。健康保険法改正では、高額療養費の制度が始まりました。田中角栄氏は、「福祉元年」を宣言しました。
1973年の「経済社会基本計画」は、高度経済成長期の経済成長率を前提としていました。しかし、田中内閣は、市場原理を無視して、投資効率の悪い地方への公共投資を増やしました。これは、産業間労働移転の速度を減速させ、経済成長率を落としました。
美濃部亮吉氏は、自らをマルクス経済学者と言っていますが、美濃部亮吉氏の政策をコピーした、田中角栄氏も、マルクス主義者でした。
1972年に、日本政府は、将来の持続性を放棄して、マルクス経済学に従って、財政基盤のない福祉政策を開始します。
この財源は、国債の発行、賦課金方式の年金負担、人口ボーナス、年功型賃金体系によって、先送りされて、辻褄を合わせます。
1972年に、日本政府は、SDGsから逸脱しました。
SDGsから逸脱したつけは、その後に支払うことになります。
マルクス経済学の亡霊は、2023年現在も生きています。
東京都が高校教育の実質無償化に乗り出しています。
これは、都独自の高齢者医療費無料化の繰り返しパターンです。
<< 引用文献
高校無償化、東京都の「独走」で何が起きる? 小池都知事の思惑と、実現時のインパクトとは 2023/12/20 Newsweek 加谷珪一
https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2023/12/post-261.php
>>
無償化は、選挙の受けはよいです。
しかし、無償化を実現するには、税や保険料を増額するか、負担を先世代につけ回すしか方法がありません。
戦後のアルゼンチン政治は、左派ポピュリズムで知られるペロン大統領が主導した無償化で破綻して、先進国から没落しました。
日本の自民党の政治は、保守(資本主義)ではありません。ペロン氏や、田中角栄氏のような社会主義政策になっています。
日本は確実に、アルゼンチン化しており、アルゼンチンより、たちの悪い負担を先世代につけ回す方法が併用されています。
5)TINA
1960年代の英国には、「ゆりかごから墓場まで」と言われる充実した社会保障制度や、基幹産業の国有化等の政策をとり、大きな政府を進めていました。
しかし、極端な累進課税制度による社会的活力の低下や、手厚い福祉への依存による勤労意識の低下、産業保護政策による国際競争力の低下などから、英国は経済停滞します。
1976年、英国は破産し、IMFはロンドンに行って、英国のために借金の支払いました。
1980 年 5 月 21 日の保守党女性会議での演説で、マーガレット・サッチャー氏は、市場原理に代る経済成長法はないというTINA(There is no alternative)の概念を訴えました。
北海油田により、イギリスは1980年代から石油輸出国となったことも、サッチャー氏には、追い風になりました。
中国では、1978年12月に開催された中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議で、鄧小平氏が、改革開放(共産主義経済から資本主義経済への転換)を打ち出しました。
鄧小平氏も、TINAの推進者でした。
1980年頃に、計画経済の限界に達して、TINAに切り替える国が増えています。
1989年のソ連の崩壊は、この動きを促進しました。